病気やケガで働けないなら障害年金の申請を。基本とメリット・デメリットを解説

「体調管理も仕事のうち」という人もいますが、実際のところ、どんなに本人が気を付けていたとしても、病気やケガをするリスクをゼロにすることはできません。また、同じ病気やケガであっても、治療の効果が出るかどうかは、その人自身の体質や性格によるところもあるのが実情でしょう。

つまり、誰でも病気やケガで長期間働けなくなる可能性はあるのです。もし、自分や自分の家族が長期間、病気やケガで働けない状態が続くなら、障害年金の申請も考えましょう。今回は、基本的な部分とメリット・デメリットについて解説します。

障害年金とは

病気やケガで働けない状態が続く場合に受け取れる

障害年金とは、病気やケガで働けない状態が続く場合に受け取れる年金の1つです。

日本の公的な保険制度(厚生年金保険、国民年金保険)に加入している人で、一定の条件を満たすのであれば受け取れます。

重視されるのは病名よりも「働けるかどうか」

なお、障害年金の受給の対象となる病気・ケガは非常に幅広いです。日本年金機構のホームページによれば、以下のいずれかに当てはまる病気・ケガであれば、障害年金の受給の対象となります。

外部障害 眼、聴覚、肢体(手足など)の障害など
精神障害 統合失調症、うつ病、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など
内部障害 呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど

むしろ、病名よりも「働けるかどうか」が、障害年金の受給資格の審査においては重視される傾向にあります。

参照:障害基礎年金の受給要件・支給開始時期・計算方法|日本年金機構

「障害基礎年金」と「障害厚生年金」がある

なお、障害年金といっても、厳密には

  • 障害基礎年金
  • 障害厚生年金

の2つがあります。それぞれの違いと計算方法について解説しましょう。

障害基礎年金とは

まず、障害基礎年金とは、日本の公的保険制度(厚生年金保険、国民年金保険)に加入している人であれば、誰でも受け取れる障害年金のことです。

会社員・公務員など「どこかに社員・職員として勤めている人」(厚生年金保険加入者)はもちろん、自営業・フリーランス・無職の人(国民年金保険加入者)であっても受給することができます。

なお、令和3(2021)年4月分からの年金額は、障害の等級(簡単に言うと病気・ケガの程度)に応じて以下のように定められています。

1級 780,900円 × 1.25 + 子の加算
2級 780,900円 + 子の加算

つまり、1級と認定されると年額で976,125円(毎月81,343円)、2級と認定されると年額で780,900円(毎月65,075円)が受け取れます。そして、子どもがいる場合はさらに上乗せされる仕組みです(子の加算)。加算額と子の定義をまとめました。

加算額
  • 第1子・第2子:各224,700円
  • 第3子以降:各74,900円
子の定義
  • 18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
  • 20歳未満で障害等級1級または2級の障害者

障害厚生年金とは

会社員・公務員など「どこかに社員・職員として勤めている(いた)人」(厚生年金保険加入者)だけが、障害基礎年金の上乗せ部分として受け取れるものです。

なお、次の3つの条件を満たす必要があるので、注意してください。

  • 障害の原因となった病気やケガについて初めて医師または歯科医師の診療を受けた日(初診日)が、厚生年金に加入している間である(つまり、会社・組織に在籍している間に初めて診察を受けた)
  • 一定の障害の状態である
  • 「初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されている」もしくは「初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がない」のいずれかに当てはまる

また、具体的にいくら受け取れるのかについては、加入している厚生年金によって異なるので、ここでは計算式のみを示しておきます。障害基礎年金と同様、障害の等級に応じて計算式が異なるので注意しましょう。

1級 (報酬比例の年金額) × 1.25 + 〔配偶者の加給年金額(224,700円)〕
2級 (報酬比例の年金額) + 〔配偶者の加給年金額(224,700円)〕
3級 (報酬比例の年金額) 最低保障額 585,700円
なお、1級もしくは2級の認定を受けた場合で、その人に生計を維持されている65歳未満の配偶者(つまり、パートナーが専業主婦・主夫であるなど)がいる場合は、さらに上乗せされます(配偶者の加給年金額)。

会社員の場合はまずは傷病手当金を使おう

なお、会社員や公務員など「どこかに社員・職員として勤めている人」(厚生年金保険加入者)であれば、業務外(仕事以外の原因)での病気・ケガで働けない状態が続いている場合、最長で1年6カ月にわたり、毎月の給料のおよそ3分の2にあたる金額が傷病手当金として受け取れます。

詳しくは後述しますが、障害年金の受給申請を行い、実際に給付が受けられるまでにはかなり時間がかかります。その上、傷病手当金と障害年金の2つを同時に受け取ることはできないので、まずは傷病手当金の申請を行い、病気・ケガの様子を見ながら障害年金を受給するかどうかを医師・ソーシャルワーカーと相談しましょう。

障害年金を受け取るメリット

経済的な不安・ストレスが減る

障害年金を受け取ることにはいろいろとメリットがありますが、最大のメリットは「経済的な不安・ストレスが減る」ことでしょう。病気・ケガで働けない場合

  • 配偶者の収入が高く、生活費の不安がない
  • 実は不動産や株・FXなどの金融資産があり、一定の収入が得られている

など、経済的な不安がまったくないと思われる一部の人を除いて、お金の心配はつきまとうはずです。

障害年金を受給すれば、働けない間でも一定の収入が入ってくるので、経済的な不安・ストレスの軽減に役立つでしょう。

国民年金保険料の支払が法定免除になる

日本で暮らしている(住民票がある)20歳以上の人であれば、誰でも国民年金保険料を支払わないといけません。しかし、法律で認められる一定のケースに当てはまれば、支払いを免除されます(法定免除)。

その中に

障害基礎年金ならびに被用者年金の障害年金(2級以上)を受けている

も含まれているのです。

出典:国民年金保険料の法定免除制度|日本年金機構

なお、支払いを免除してもらいたい場合は、自分が住んでいる市区町村役場に書類を提出しましょう。ただし、支払いを免除してもらった場合、将来受け取る老齢基礎年金の額が少なくなる(より正確には、支払いを免除されていた期間についての老齢基礎年金の額が2分の1になる)ので注意してください。

仮に、病気やケガの状態が良くなって働けるようになり、障害年金の受給資格に該当しなくなった場合は、追納(免除してもらっていた分を後から納める)を行うことで、将来受け取れる老齢基礎年金を満額に戻すことができます。

障害者雇用で働きながら受け取ってもOK

本来、障害年金は「病気やケガで働けない人のための制度」であるため、働けるようになった場合は受け取れません。

しかし、これには「健常者と同様な条件で働くことができない」という意味合いも含まれているため、障害者雇用など「周囲のサポートや職場の配慮があることを前提とする」状態で働いている場合は、障害年金を受給できる可能性もあります。

市区町村の担当窓口や障害者雇用に強い就職エージェントに相談し、対応を考えてもらうと良いでしょう。

年金の使い道は自由

公的な生活保障制度の中には、生活保護などのように、給付されたお金の使い道が決まっているものもあります。しかし、障害年金に関してはそのような決まりは一切ありません。自身のお小遣いに使っても良いし、貯金したり、住宅ローンの返済に充てたりしてもかまいません。

治療法、サポートの選択肢が広がる

使い道が自由である以上、公的医療保険が使えない治療(先進医療や自由診療)を受ける際の費用に充てたり、生活補助を行ってくれるヘルパーを雇ったりする際の資金に使っても構いません。

治療法、サポートの選択肢を広げるという意味でも、障害年金は有意義でしょう。

税金はかからない

障害年金は、非課税所得として扱われるため、税金がかかりません。つまり、受け取るにあたって税金が差し引かれることもないのです。

参照:非課税所得とは、どのようなものですか。|日本年金機構

障害年金を受け取るデメリット

会社に知られる恐れはある

本来、障害年金を受給することは個人の裁量に委ねられているため、会社への報告義務はありません。また、日本年金機構から、従業員の障害年金受給状況に関する情報を会社に渡すこともありません。

しかし、特定の病気・ケガが原因で会社を休職した人が障害年金を受給することになった場合で、同じ病気・ケガで傷病手当金を請求してきた場合は、会社側に障害年金を受け取っていることを知られてしまうおそれはあります。

傷病手当金の請求は、給料の支払い有無についての事業主(会社)の証明が必要となるため、1カ月単位で手続きをすることが多くなっています。その際に利用する申請書に、障害年金を受け取っているかどうかチェックする項目も含まれているため、申請書を作ることがきっかけで発覚するおそれがあるので注意してください。

もちろん、障害年金を受け取っていたからといって、会社がそのことを理由として不利な扱いや嫌がらせをすることは許されません(パワハラに当たる可能性が高いため)。しかし、心理的に抵抗がある人もいるはずなので、一応触れておきました。

障害年金と傷病手当金の申請期間が重なる場合の支給金額は?

なお、障害厚生年金と傷病手当金を併用することはできません。そのため、仮に傷病手当金を受取っている際に、同時並行して障害年金の申請手続きを行い、受給が決定した場合は、以下のように扱いが変わります。

傷病手当金の日額 < 障害厚生(基礎)年金の日額 傷病手当金の支給が打ち切られる
傷病手当金の日額 > 障害厚生(基礎)年金の日額 傷病手当金と障害厚生(基礎)年金の日額の差額が支払われる

つまり「どちらか多い方に合わせてお金が受け取れる」と考えるとわかりやすいでしょう。

扶養から外れることもある

外で働けないため、世帯主(配偶者や親など)の社会保険上の扶養に入っている人であっても

  • 自宅でハンドメイド作品を作ってオンライン販売をしている
  • 実は株やFXのトレードで収益を得ている

など、何らかの収入を得ていることはあるはずです。

収入がある人が障害年金を受け取った場合、これらの収入と障害年金を受け取ったことによる収入が一定額を超える(所得が180万円以上になる)場合は、社会保険上の扶養から外れてしまいます。

つまり、健康保険料と年金保険料(国民年金保険料)を自分で支払わないといけません。

もちろん、余力がない場合は、既に触れた法定免除制度も使うことで、国民年金保険料の免除は受けることができます。

参照:国民年金保険料の法定免除制度|日本年金機構

20歳未満の時の病気・ケガが原因の場合は要注意

既に触れた通り、日本に住んでいる(住民票がある)20歳以上の人であれば、誰でも国民年金保険に加入しなくてはいけません。しかし、20歳未満の人にその義務はない以上、保険料も支払わなくて良いのです。

そして、障害基礎年金は国民年金への加入が前提となっている制度である以上、20歳未満の時の病気・ケガが原因で障害基礎年金を受給している人は、ある程度の収入がある(厳密には、一定額以上の所得がある)場合は、障害基礎年金が支給されなくなります。

審査に時間がかかる

障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)は「病気・ケガが原因で働けない人の生活を守るための制度」である以上、不正に利用されないよう注意しなくてはいけません。そのため、申請する際は

  • 所定の請求書
  • 年金手帳
  • マイナンバーカードもしくは戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明、住民票、住民票の記載事項証明書のいずれか
  • 医師の診断書
  • 受診状況等証明書
  • 病歴・就労状況等申立書
  • 受取先金融機関の通帳等(本人名義)

が必要になります。また、子どもがいる場合や事故が原因で病気・ケガをした場合などは、この他にも書類を用意しなくてはいけません。

参照:障害基礎年金を受けられるとき|日本年金機構

まず、これらの書類を全部揃えるだけで時間がかかる上に、審査も慎重に行われるため、書類の提出から受給決定まで、2~3カ月程度かかるのは珍しくありません。しかも、医師への照会など、追加の確認が必要になった場合は、さらにずれ込むこともざらにあります。

死亡一時金・寡婦年金がもらえない

夫婦のうち、夫に万が一のことがあった場合に受け取れる年金として、死亡一時金と寡婦年金があります。

死亡一時金 死亡日の前日において第1号被保険者として保険料を納めた月数(4分の3納付月数は4分の3月、半額納付月数は2分の1月、4分の1納付月数は4分の1月として計算)が36月以上ある人が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま亡くなった時、その人の収入で生活していた遺族(1・配偶者、2・子、3・父母、4・孫、5・祖父母、6・兄弟姉妹の中で優先順位の高い人)に支給される
寡婦年金 死亡日の前日において国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間および国民年金の保険料免除期間が10年以上ある夫が亡くなったときに、その夫と10年以上継続して婚姻関係(事実上の婚姻関係を含む)にあり、死亡当時にその夫に生計を維持されていた妻に対して、その妻が60歳から65歳になるまでの間支給される

両方の受給資格を満たす場合は、どちらか一方を選んで受給することになりますが、いずれの年金も「夫が生前に障害基礎年金を受け取っていた場合」は支給対象外となります。

つまり、夫が生前に障害年金を受け取っていた場合、万が一のことがあったとしても、遺された妻は死亡一時金や寡婦年金は受け取れなくなるので注意してください。
FP 荒井 美亜

FP 荒井 美亜あらい みあ

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大学院まで行って公認会計士を目指していたものの、紆余曲折を経て今は「日本一、お金のことを楽しくわかりやすく説明できるライター兼ファイナンシャルプランナー」目指して活動中です。日本FP協会のイベントのお手伝いもしています。保有資格)日本FP協会認定AFP、FP技能検定2級、税理士会計科目合格、日商簿記検定1級、全経簿記能力検定上級、貸金業務取扱主任者試験合格

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