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目次
はじめに
「今月こそは節約して、月末にお金が残ったら貯金しよう」
「ボーナスが入ったら、少し贅沢をして、残りは全額貯金しよう」
あなたも一度は、このような決意をしたことがあるのではないでしょうか。そして、その決意が数週間後、あるいは数ヶ月後には脆くも崩れ去り、通帳の残高を見てため息をついた経験があるかもしれません。
実は、世の中の「貯金ができない」と悩む人の大半が、この思考パターンに陥っています。これを一般的に「残ったら貯金」と呼びます。
多くの人は、貯金ができない理由を「自分の意志が弱いからだ」「浪費家だからだ」と自分を責めます。しかし、断言します。あなたが悪いのではありません。この「残ったら貯金」という方法論そのものが、人間の脳の構造や行動心理学的に見て、極めて成功率の低い「無理ゲー(難易度が理不尽に高いゲーム)」なのです。
この記事では、なぜ多くの人が無意識に実践してしまう「残ったら貯金」が失敗に終わるのか、そのメカニズムを心理学や行動経済学の視点から徹底的に解剖します。「パーキンソンの法則」や「意志力の枯渇」といったキーワードを紐解きながら、貯金できない本当の原因を明らかにしていきましょう。この記事を読み終える頃には、あなたは「意志」に頼ることをやめ、より確実な「仕組み」を求めるようになるはずです。

貯金ができないのは、あなたの性格のせいではありません。人間が本来持っている心理的な性質に逆らった方法を選んでしまっていることが原因です。まずは敵(失敗のメカニズム)を知ることから始めましょう。
「残ったら貯金」の正体とは?無意識に陥る「収入-支出=貯金」の罠
まずは、私たちが無意識のうちに採用している「残ったら貯金」という家計管理スタイルについて、その定義と構造的な問題を整理します。
多くの人が実践する「標準的」な方法
「残ったら貯金」とは、その名の通り、給料などの収入が入ったら、まずは必要な生活費を支払い、欲しいものを買い、月末(次の給料日の前日)に財布や口座に残っているお金を貯金に回そうとする方法です。「残額貯金」や「あとから貯金」とも呼ばれます。
これは一見すると、非常に理にかなっているように思えます。
「無理な節約設定をせず、自然体で生活して、余剰資金を蓄える」
非常に人間らしい、ストレスの少ない方法のように感じられるため、特に家計管理の初心者や、これまであまりお金のことを考えてこなかった人の多くが、デフォルト(初期設定)としてこのスタイルを採用します。
敗北を運命づけられた方程式
このスタイルを数式に表すと、以下のようになります。
収入 - 支出 = 貯金
この方程式の最大の問題点は、「支出」が真ん中に位置し、主役になっていることです。
- 収入(Start): 毎月決まった額が入ってくる。
- 支出(Action): 日々の生活の中で、意志決定を行いながらお金を使う。
- 貯金(Result): 結果として残ったもの。
この構造において、貯金は単なる「結果」であり「残りカス」のような扱いです。
日々の生活の中で、私たちは数百、数千という支出の判断を繰り返します。食費、交通費、交際費、趣味のお金……。「支出」という変数は、私たちの感情や状況によって無限に膨張する可能性を秘めています。
変動しやすい「支出」を引いた残りを「貯金」にするというこの数式では、支出が少しでも増えれば、貯金は即座にゼロ、あるいはマイナスになってしまいます。つまり、「残ったら貯金」とは、貯金の運命を、その時々の気分や状況任せにしてしまう、非常に不安定な管理手法なのです。
なぜこの方法を選んでしまうのか
なぜ多くの人が、失敗しやすいこの方法を選んでしまうのでしょうか。それは、人間の脳が「現在」を重視し、「将来」を軽視する傾向があるからです(後述する「現在バイアス」です)。
「まずは今の生活を楽しみたい、苦しい我慢はしたくない。でも将来の不安も消したいから、余ったら貯金しよう」という、虫のいい思考がこの行動を選択させます。しかし、これから解説する3つの強力な理由により、お金が「余る」ことは永遠に訪れません。

「余ったら貯金しよう」という考えは、「時間があったら勉強しよう」という決意と同じくらい実現性が低いものです。結果を出すためには、成り行き任せではなく、意図的なコントロールが必要です。
失敗理由1:人間の「意志力」には限界がある
「残ったら貯金」を成功させるための唯一の頼みの綱は、あなたの「意志力(Willpower)」です。
「今月は無駄遣いをしないぞ」「お菓子を買うのを我慢しよう」「飲み会を断ろう」
こうした自制心を1ヶ月間、24時間絶え間なく発揮し続けなければ、お金を残すことはできません。しかし、最新の心理学研究において、人間の意志力は非常に脆く、頼りにならないリソースであることがわかっています。
意志力は「消耗品」である
社会心理学者ロイ・バウマイスターの研究によれば、意志力は筋肉のスタミナのようなもので、使えば使うほど消耗します。これを「自我消耗(Ego Depletion)」と呼びます。
私たちは朝起きてから夜寝るまで、絶えず決断を繰り返しています。
「何を着ていくか」「朝ごはんに何を食べるか」「仕事のメールをどう返すか」「会議でどう発言するか」
これら一つ一つの行動が、少しずつ意志力のタンクを減らしていきます。
朝のうちは「今日は節約してお弁当を作ろう」という意志力が残っていても、仕事で疲れ果て、ストレスを受け、様々な判断を下した後の夕方や夜には、意志力のタンクは空っぽになっています。
「残ったら貯金」が失敗するのは、まさにこのタイミングです。
意志力が枯渇した状態で、コンビニのスイーツの誘惑や、ネットショッピングの「期間限定セール」の文字を目にした時、脳は我慢することができなくなります。「今日は頑張ったから、これくらいはいいだろう」という理屈(モラル・ライセンシング)を作り出し、散財してしまうのです。
現代社会は「誘惑」の地雷原
さらに悪いことに、私たちが生きる現代社会は、消費を促すプロフェッショナルたちによって設計された「誘惑の地雷原」です。
スマホを開けば、あなたの過去の閲覧履歴に基づいた「絶対に欲しくなる商品」の広告が表示されます。SNSではインフルエンサーがきらびやかな生活を見せつけ、購買意欲を刺激します。コンビニやスーパーでは、ついで買いを誘う巧みな陳列がなされています。
このような環境下で、1ヶ月間ずっと「買いたい」という欲求を意志力だけで抑え込み続けることは、断食道場にいるならまだしも、日常生活においては至難の業です。
「残ったら貯金」は、いわば武器を持たずに戦場に出るようなものです。意志の力だけで、企業の巧みなマーケティング戦略や人間の本能的な欲求に打ち勝つことは、ほぼ不可能なのです。

意志が弱いから貯金ができないのではありません。そもそも意志の力だけでお金を守ろうとすること自体が、人間という生物の構造上、無理がある戦い方なのです。
失敗理由2:「パーキンソンの法則」が支出を膨張させる
意志力の問題に加えて、家計管理において最も恐ろしい心理法則が働きます。それが「パーキンソンの法則」です。この法則を知らずして、お金を貯めることはできません。
パーキンソンの法則とは
英国の歴史学者・政治学者であるシリル・ノースコート・パーキンソンが提唱した法則で、元々は官僚組織の肥大化などを皮肉ったものでした。その中でも家計管理に当てはまるのが「第二法則」とされる以下のものです。
「支出の額は、収入の額と等しくなるまで膨張する」
これはどういうことかというと、人間は「使えるお金(資源)」があると、無意識のうちにそのギリギリまで使い切ろうとする習性があるということです。
例えば、学生時代に月10万円で生活していた人が、社会人になり月20万円の収入を得るようになったとします。計算上は毎月10万円貯金できるはずですが、実際にはそうなりません。
いつの間にか、少し家賃の高い部屋に住み、ランチの単価が上がり、服のブランドが変わり、サブスクリプションの契約数が増え……気づけば支出も20万円近くまで膨れ上がっているのです。これを「生活水準のインフレ」と呼びます。
「あるだけ使う」は本能
この法則が働く理由は、手元にお金が見えているからです。
「残ったら貯金」をしている人の口座には、生活費も貯金したい分も一緒くたに入っています。ATMで残高照会をした時、あるいは銀行アプリを開いた時、そこにある金額すべてを脳は「今月使える予算」として認識してしまいます。
「あと5万円残っているから、週末は少し贅沢なレストランに行こう」
「ボーナスが入って残高が増えたから、家電を買い替えよう」
このように、余裕があると感じた瞬間に、支出の蛇口が緩みます。そして月末になると、「あれ?思ったより残っていない」という現象が起きるのです。
これは、チューブ入りの歯磨き粉に例えられます。新品でたっぷり入っている時は、無意識にたくさん出して使ってしまいますが、残り少なくなると、必死に絞り出して少しずつ使います。お金も同じで、たくさんあるように見えると大胆に使ってしまい、結果として「残る」ことはないのです。
収入が増えても解決しない
多くの人が「今は収入が少ないから貯金できない。収入が増えれば貯金できるはずだ」と考えます。しかし、パーキンソンの法則がある限り、それは幻想です。
収入が増えれば、それに比例して(時にはそれ以上の速度で)支出も増えるため、永遠に「残り」は発生しません。年収1,000万円あっても貯金ゼロの世帯が珍しくないのは、この法則の犠牲になっている典型例です。

「お金があったら使う」というのは、ある意味で生物としての生存本能に近い行動です。この強力な本能に抗うには、物理的に「使えるお金を見えなくする」以外の方法はありえません。
失敗理由3:将来よりも現在を優先してしまう「優先順位」のエラー
3つ目の理由は、お金に対する価値観、つまり「優先順位」の問題です。「残ったら貯金」という行動様式そのものが、実は「貯金なんてどうでもいい」と宣言しているのと同じことなのです。
「貯金」の優先順位が最下位
「収入 - 支出 = 貯金」という式において、貯金は最後に計算されます。これは、時間軸で言えば「後回し」にされている状態です。
私たちは毎月、様々な支払いを行っています。
- 大家さんへの家賃支払い
- スーパーやコンビニへの食費支払い
- 電力会社、ガス会社への支払い
- 通信会社へのスマホ代支払い
これらはすべて「他人への支払い」です。私たちは他人の売上や利益を確保することを優先し、必死にお金を払っています。
そして、「もしお金が余ったら」、最後に自分のための貯金(自分への支払い)をしようと考えます。
つまり、「残ったら貯金」とは、「他人への支払いを最優先し、自分(将来の自分)への支払いは一番最後でいい(もしくは無くてもいい)」という優先順位の表れなのです。
現在バイアス(現在志向バイアス)
なぜ、大切な自分の将来を後回しにしてしまうのでしょうか。行動経済学ではこれを「現在バイアス」で説明します。
人間は、遠い将来に得られる大きな価値よりも、近い将来(現在)に得られる小さな価値を過大評価する傾向があります。
- 「1年後に100万円貯まっている安心感」(将来の価値)
- 「今、目の前の美味しいケーキを食べること」(現在の価値)
冷静に考えれば100万円の方が価値が高いですが、脳は直感的に「今のケーキ」を選んでしまいます。将来の自分(老人になった自分など)は、心理的には「赤の他人」のように感じられ、そのために現在の自分が我慢することに痛みを感じるのです。
「残ったら貯金」を選択している限り、このバイアスによって常に「現在の支出(Wants)」が「将来の貯蓄(Needs)」に勝利し続けます。結果として、優先順位の低い貯金には、いつまで経っても資金が回ってこないのです。

お金の使い方は、あなたの人生の優先順位そのものです。貯金を後回しにすることは、自分自身を後回しにすること。まずは「自分への支払い」を先頭に持ってくる発想の転換が必要です。
まとめ:仕組みの敗北
ここまで、「残ったら貯金」が失敗する3つの理由を見てきました。
- 意志力の限界: 誘惑に満ちた現代社会で、1ヶ月間自制し続けることは不可能に近い。
- パーキンソンの法則: 手元にお金があると、あるだけ使い切ってしまう本能がある。
- 優先順位のエラー: 将来の自分よりも、現在の他人への支払いを優先してしまっている。
これらの理由から導き出される結論は一つです。
「残ったら貯金」がうまくいかないのは、あなたがだらしないからでも、努力が足りないからでもありません。「残ったら貯金」というシステムそのものが欠陥品だからです。
これは「個人の敗北」ではなく、「仕組みの敗北」です。欠陥のあるシステムの上でいくら努力を重ねても、望む結果は得られません。
唯一の解決策:「先取り貯金」への移行
では、どうすればいいのでしょうか。答えはシンプルです。これら3つの失敗要因をすべて無効化する仕組みを取り入れれば良いのです。それが「先取り貯金」です。
- 意志力を使わない: 給料が入った瞬間に自動で貯金されるため、日々の我慢が必要ない。
- 法則を逆手に取る: 先に貯金を引いてしまい、「使えるお金」を見かけ上減らすことで、その範囲内で生活しようとする調整力が働く(パーキンソンの法則の逆利用)。
- 優先順位を変える: 「収入 - 貯金 = 支出」とし、誰よりも先に「自分への支払い」を済ませる。
もしあなたがこれまで「残ったら貯金」で何度も挫折してきたのなら、もう自分を責めるのはやめましょう。そして、不可能なゲームに挑むのもやめましょう。
ただ単に、お金を動かす「順番」を変えるだけでいいのです。月末に残すのではなく、月初の段階で確保してしまう。この小さな順序の変更が、あなたの資産形成に劇的な変化をもたらします。

「意志」は消耗品ですが、「仕組み」は永続します。感情や誘惑に左右されない自動的なシステムを作ることこそが、お金持ちへの最短ルートであり、唯一の正解です。
まとめとやるべきアクション
この記事では、「残ったら貯金」がなぜ失敗するのか、その構造的な理由を解説しました。
- 意志力の限界: 日々の節約決断は脳を疲れさせ、最終的に誘惑に負ける。
- 支出の膨張: 収入がある分だけ支出してしまう「パーキンソンの法則」からは逃れられない。
- 優先順位の誤り: 「自分への支払い(貯金)」を後回しにしている限り、資産は築けない。
- 結論: 貯金できないのは仕組みが悪いから。「先取り貯金」への切り替えが必要。
「いつか貯まるはず」という希望的観測は捨ててください。行動を変えない限り、未来は変わりません。そして、その行動とは「我慢すること」ではなく「仕組みを変えること」です。
今すぐやるべきアクション:未来の残高予測
最後に、現状を直視するための小さなアクションを提案します。
今月、次の給料日の前日までに、いくら財布や口座に「残る」予定か、現時点で計算してみてください。
- 現在の財布の中身と銀行口座の残高を確認する。
- 次の給料日までに確実に支払うお金(引き落とし、食費など)を引く。
- 残った金額はいくらですか?
おそらく、あなたが期待しているよりもずっと少ない金額、あるいは「マイナスになりそう」という結果が出るかもしれません。
もしそうなら、それが「残ったら貯金」の限界です。その現実を数字として認識した今こそ、次のステップである「先取り貯金(自動積立など)」の設定を行う最高のタイミングです。
まずは現実を知り、欠陥のあるシステムから卒業しましょう。

現状を直視するのは怖いことですが、それは改善への第一歩です。「残らない」現実を確認したら、次は「先に取る」行動へ。その一歩が、あなたの経済的な自由への扉を開きます。
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