文部科学省の統計によれば、令和2(2020)年の高校卒業者の大学・短期大学進学率は58.6%に達したとのことです。
出典:文部科学省「令和2年度学校基本調査(確定値)の公表について」
つまり、高校を卒業した人10人のうち、大体6人くらいが大学・短大に行くと考えてよいでしょう。また、大学・短大ではなく、専門学校や高等専門学校の4年次以降に進学する人もいます。このような点を考えると、高校を卒業してすぐに就職するという人は、現在ではどちらかと言えば少数派です。
少数派であるため「高卒だと就職・転職できない」というネガティブな評判も出回っているのは事実です。しかし、実際は「高卒だから就職・転職できない」とまでは言い切れません。
そこで今回は「高卒の人が転職する」というシチュエーションを踏まえ
- 100%不利とまでは言えない理由
- 有利に進めるコツ
- あまり不利にならない職種
の3点について考えてみましょう。
目次
高卒の転職は100%不利というわけではない
内定率だけを見れば大卒とさほど変わりはない
「高卒だから就職・転職に不利」ということは本当に起きているのか、新卒時点での内定率という観点から見てみましょう。厚生労働省の統計によれば、令和2(2020)年3月末の高校新規卒業者の内定率と、大学等新規卒業者の内定率を比較してみましょう。
- 高校新規卒業者内定率:99.3%
- 大学等新規卒業者内定率:94.7%
出典:厚生労働省大分労働局「新規高等学校・大学卒業予定者の就職内定状況等について(令和2年 10 月末)~令和3年3月新規学校卒業者の求人・求職等状況~」
高校卒業者の就職活動においては「一人一社制」といって「応募解禁日から一定期間の間までは、一人の生徒が応募できる企業は一社に限られる」というルールがあります。
また、仮に応募した企業に内定した場合は、原則として就職することが求められるという慣例もあるなど、大学等卒業者の就職活動とはだいぶ事情が異なるので単純に比較はできません。
もちろん、転職においても結局は
- 本人の意気込み
- 本人の価値観と社風がマッチしているか
- 業務に必要、役立つ資格やスキルを有しているか
が重視されるので「高卒だから不利」とまでは言い切れません。
学歴を重視する業界は避けた方が無難
ただし、学歴を重視した採用を行っている業界においては、高卒であることはかなり不利に働きます。どうしても働きたい、という動機がない限りは、このような業界は避けたほうが無難です。一例を挙げておきましょう。
- メディア・新聞社、広告代理店などのマスコミ業界
- 銀行、クレジットカード会社などの金融業界
- 大手の総合商社・メーカー
もちろん、このような業界であったとしても、即戦力となるスキルや高度な資格を有している場合は、採用されることももちろんあり得ます。
実際、筆者の周囲に高卒ではあるものの、日商簿記検定1級を取得していたため大手メーカーでの経理として採用されたという人がいました。
高卒の転職活動を有利に進めるコツは?
資格・スキルがものをいう業界を狙う
次に、高卒の人が転職を有利に進めるコツについて考えてみましょう。学歴をアドバンテージにするのは難しい以上、資格・スキルなど「目に見えて、しかも入社した後の仕事に貢献できそうなもの」を売りにすることが重要です。
企業がなぜ高卒を敬遠するのか考えてみる
また、高卒の人が転職活動をする際に持っておいた方が良い視点の1つに「企業はなぜ高卒を敬遠するのか」があります。傍目からすると「そんなこと言われても」と思ってしまうような内容かもしれませんが「世の中にはこういう人もいる」という情報の1つとして考えてください。
「勉強嫌い」と思われがち
1つ目の理由として「勉強嫌い」と思われがちなことが挙げられます。たしかに、高校を卒業したら大多数の人が大学・短大、専門学校、高等専門学校の4年次に進むことを考えると「高校を卒業してすぐに就職をしたのは、勉強が嫌いだったからでは?」と思われてしまうかもしれません。
しかし、実際は、家庭の事情で進学をあきらめざるを得なかった人だっています。また、勉強が嫌いだから就職したとしても、「仕事に対しても手を抜いている」というネガティブな印象と結びつけるのはあまりに短絡的です。
「早く辞めてしまうのでは」と思われがち
また「高卒 = 勉強嫌い」という印象を持っている人が、「勉強嫌い = 努力を継続できない人」「勉強嫌い = 仕事ができない人」という印象を併せ持っているのも珍しくありません。そのため
という結論につながってしまうことも考えられます。これを払しょくするためには「転職後にはこの業務をこんな風に頑張っていきたいです」など、具体的なビジョンを示すようにしましょう。
通信制大学で大卒資格を取得するのも1つの手段
転職とは直接の関係はないかもしれませんが、高卒の人が仕事を続けていく上で大事な考え方であるという意味で触れておきます。
税理士など高度専門職への道も開ける
実は、税理士などの高度専門職の場合、大卒であることが重要な受験条件の1つになっています。厳密に言うと、高卒でも受験自体はできますが「特定の資格を取得しないといけない」など、大卒の場合に比べハードルが上がると考えましょう。
例えば、税理士試験の場合、受験資格として以下の条件のいずれかを満たすことが求められています。
- 大学、短大又は高等専門学校を卒業した者で、法律学又は経済学を1科目以上履修した者
- 法人又は事業を行う個人の会計に関する事務に2年以上従事した者
- 日商簿記検定1級もしくは全経簿記能力検定上級合格者
筆者も受験経験があるのでわかりますが、日商簿記検定1級や全経簿記能力検定上級はかなり難しい試験です。もちろん、商業高校卒で簿記の勉強をしていたなど素地があるならいきなりチャレンジしても構いません。
しかし、簿記の勉強をしたことがない状態から目指す場合は、通信制大学で大卒資格を手に入れた方が早いことだって考えられます。
高卒でもあまり不利にならない職種6選
営業職
実際のところ、高卒であること【だけ】で不利になる職種はごくわずかです。
しかし、企業の担当者の中には「やはり大卒でないと」と思う人は一定数いるのも事実なので、資格やスキルを磨くことが成果に直結する職種を選んだ方が、より高卒であることだけが不利になる確率は下げられるでしょう。
代表例として挙げられるのが営業職です。最大のミッションは「自社の商品・サービスをより多くの人に買ってもらう事」であるため、学歴よりも実力が重視されます。営業職に求められる
- やわらかい雰囲気
- 性格の明るさ
- 相手の話を聞く能力
- コミュニケーション能力
- 負けん気を持って突き進む行動力
は、はっきり言って学歴とは関係ありません。
事務職
「知らない人と話すのはちょっと」という人でも
- 周囲に気配りができる
- 複数の物事を同時並行でこなすことができる
- 縁の下の力持ち的なポジションは嫌いではない
という人なら、事務職が向いているでしょう。一般的に事務職とは
のことです。
扱う内容に応じてさらに一般事務、営業事務、経理事務、人事事務・労務事務、総務事務、医療事務、学校事務、貿易事務などに細分化されますが、ほとんどが特に資格がなくてもできるものです。
高卒であっても、比較的年齢が低いなら転職するチャンスは十分にあるでしょう。ただし、高校を卒業してかなり時間が経過しているなら、住んでいる地域によっては未経験からの事務職への転職がかなり厳しくなることがあります。やはり、人気の高い職種であるため「年齢が多少上でも経験豊富な人」か「未経験だけど若くて伸びしろがありそうな人」が採用される傾向があるのも事実だからです。
また、キャリアを積み上げていくには、やはり資格があった方が良いでしょう。経理事務であれば簿記、営業事務であればMOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)、貿易事務であればTOEIC(R)など、どの分野に属する事務職かによって取った方が良い資格は異なります。
接客・販売職
簡単に言うと「店に足を運んでくれたお客さんに物・サービスを提供する」仕事です。すでに紹介した営業職と同じように
- やわらかい雰囲気
- 性格の明るさ
- 相手の話を聞く能力
- コミュニケーション能力
が求められます。
営業職と違うところは、行動力よりも「相手が何を求めているのか」を察知する力の方が大事であることでしょう。
実際に店に足を運んでくれている以上、ある程度は購入する意思を持っているので「買ってもらう」までのハードルは低いです。しかし、やはり「相手の求めるもの」とは違う商品・サービスをすすめてしまうと、購入に至らないばかりか「あの店はちょっともういいや」と、再度の来店を敬遠されてしまう恐れがあります。
もちろん、この辺りは練習次第でいくらでも向上するのであまり心配する必要はありません。
公務員
実際のところ、高卒でも公務員にはなれます。例えば、国家公務員の場合は「国家公務員採用一般職試験(高卒者試験)」を受験して合格し、希望する官庁を訪問して業務説明・面接を受けて採用に至る仕組みです。
参照:国家公務員採用一般職試験(高卒者試験)|国家公務員試験採用情報NAVI
また、警察官になる場合は、警視庁や各道府県警察の採用試験のうち「高校卒業程度」の区分の試験を受験することになります。例えば、警視庁の場合は「Ⅲ類」がこれにあたります。
参照:採用案内(警察官) | 採用情報 | 令和3年度警視庁採用サイト
地方公務員に関しては、都道府県・市区町村によって
- 高校卒業程度の学力を有する者を対象とした試験を行っているか
- どのような職種を予定して採用を行っているか
についてはばらつきがあるので、事前に確認しましょう。なお、国家公務員・地方公務員を問わず、試験の受験年齢には制限があるケースがほとんどです。
プログラマー
「人と話すのは苦手だし、マルチタスクも得意じゃない。でも、1つのことを突き詰めるのは好きだし、パソコンにもアレルギーはない」という人におすすめなのがプログラマーです。プログラマーの仕事は、主に次の4つの段階を担うと考えましょう。
- 詳細設計の内容を確認する
- 指定のプログラミング言語において使用する関数・ライブラリ、ロジックの組み立て方などのプログラム構成の設計を行う
- 実際にコーディングを行い完成したモジュールを単体で動作させる
- その後、試験を繰り返してバグを潰していく
なお、ここに書かれていることがまるでわからない、という人も多いかもしれませんが、最初に仕事をする時に教えてもらえる上に、解説書もたくさん出回っていますので、あまり心配しなくて良さそうです。
施工管理職
「ものを作ること」に興味があるなら、施行管理職を目指すの良いでしょう。施工管理とは、建設工事現場の監督としてその時行っている工事の全体に関する管理を行う仕事です。
基本的には図面通りに建物や設備を作ることがミッションであるため、ルールを覚え、それをきっちり守るようにすれば決して難しい仕事ではありません。むしろ、工事現場で働く人や周囲の住民の安全を第一に考えた冷静な判断ができるかどうかが求められます。
また、さらなる年収アップを目指したい場合は、国家資格である施工管理技士を取得すると良いでしょう。1級と2級が存在しますが、2級は17歳以上であれば誰でも受験可能です。
そして、1級を持っていれば商業ビルや大規模なマンションなどの大型工事の責任者を務めることができます。責任は重いですが、年収もやりがいも大きいので「ものづくりの分野で食べていく」と考えるなら、本気で目指してみると良いでしょう。
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