2020年初頭から、日本を含めた世界中で、新型コロナウイルスによる感染症が流行しました。感染拡大防止のための1つの施策として、人と人との接触を減らすという観点から、リモートワークの導入に踏み切る企業も増えています。その中で注目されているのが「地方への移住」です。
インターネットの接続品質が飛躍的に向上した今では、パソコンとインターネット接続さえあれば、世界中のどこにいても仕事ができるようになりました。わざわざ都会に住むメリットが薄い、という意味で、地方への移住を決心する人も増えています。
実際のところ、地方=田舎暮らしにも、都心=都会暮らしにも、メリットとデメリットがあり、向いている人といない人がいます。比較して考えてみましょう。
なお、本記事では便宜上、都会をいわゆる八大都市圏(札幌、仙台、関東、静岡・浜松、中京、近畿、広島、北九州)、田舎をそれ以外の地域として想定しています。
目次
田舎で暮らすメリット・デメリット
メリット
田舎で暮らすメリットとして
- 家賃、土地が安い
- 自然が豊かで環境が良い
- 生活費が安い
- 近所付き合いがさかん
の4つが挙げられます。
家賃、土地が安い
国土交通省がまとめている「令和2年都道府県地価調査」によれば、全国の都道府県のうち、住宅地1平方メートル当たりの価格が安かった都道府県(上位5つ)は以下の通りです。
北海道 | 20,000円 / 1平方メートル |
山形 | 19,700円 / 1平方メートル |
鳥取 | 19,200円 / 1平方メートル |
青森 | 16,100円 / 1平方メートル |
秋田 | 13,200円 / 1平方メートル |
出典:土地・建設産業:令和2年都道府県地価調査 – 国土交通省
これらの5つの都道府県は、北海道を除き、いわゆる八大都市圏に含まれないところです。一般的に言われる「田舎」のイメージに近いかもしれません。だからこそ
- 広い一戸建てを手に入れる
- 畑を借りて農作業をする
など、家賃や地代が安いからこそできる生活も楽しめるのです。
自然が豊かで環境が良い
「子どもは自然の中でのびのび育てたい」と思う人なら、都会よりも田舎で子育てをしたほうがいいでしょう。
また、空気もきれいなため、呼吸器系の疾患がある人が療養のために転居してくる、というのも珍しくありません。
生活費が安い
都道府県によってばらつきはありますが、田舎の方が総じて生活費は安い傾向にあります。考えられるのは
- 質の高い野菜などの農産物が安く手に入る
- 夜遅くまで営業している商業施設が少ないため、自然と早寝早起きになる
- 水道代が安い
- 土地、賃料が安い
などの要因です。なお、総務省統計局がまとめたところによれば、1世帯当たりの毎月の生活費(消費支出)が安い都道府県(上位5つ)は以下の通りです。
沖縄県 | 234,707円 |
青森県 | 267,679円 |
鹿児島県 | 274,425円 |
宮崎県 | 276,905円 |
大分県 | 285,583円 |
近所付き合いがさかん
地域によっても多少の差はありますが、田舎はその土地ならではの風習や文化を重んじる傾向があります。連携しないとそれらの風習や文化を守れないのも事実であるため、おのずと近所付き合いがさかんになる傾向があるようです。
デメリット
一方、デメリットとしては
- 車がないと生活しにくい
- 商業施設、医療機関が少ない
- 仕事が見つかりにくい
- 噂がすぐに広まる
などが考えられます。
車がないと生活しにくい
田舎は都会と比べると、バスや電車などの公共交通機関の整備は進んでいません。電車が走っていたとしても、1日に数本しか通らなかったりするのもざらです。また、JR北海道のように、管内の路線を利用者の少なさを理由に次々と廃線にしていくのもあり得ないことではありません。
「一家に一台」ではなく「一人に一台」のレベルで揃えなくてはいけない以上、ガソリン代や税金などの維持費もかかります。健康上の理由(てんかんなど)で車の運転自体が難しい場合は、田舎暮らしをするのはかなり厳しいはずです。
商業施設、医療機関が少ない
若年層であれば、ネットショッピングを利用したり、休日に商業施設に車で行ったりなどの方法で生活することはできますが、高齢者だとなかなかはそうはいかないでしょう。
また、医療機関の脆弱さも田舎が抱える問題点の1つとして挙げられます。ちょっとした体調不良程度であれば診察・治療が行える診療所はあっても、精密検査や高度な治療を行うことができる病院がない地域は珍しくありません。
仮に、がんなどの長期に渡る高度な治療が必要な病気になった場合、県庁所在地(もしくはそれに準ずる規模の都市)にある総合病院や大学病院に入院しないといけないため、患者本人はもちろん、家族にも多大な負担がかかります。
仕事が見つかりにくい
田舎が抱える別の問題の1つに、仕事が見つかりにくいことが挙げられます。要因としては
- 大企業の本社、支社、営業所は大都市圏に集まりがちである
- 基幹産業といえるものがない
- 観光、飲食など非正規雇用者の割合が多い業種の事業所が多い
などが考えられるでしょう。
田舎で暮らしていく場合
- プログラマ、Webデザイナー、ライターなど比較的場所を選ばず業務をこなせる仕事についている
- 医師、弁護士、税理士などの高度専門職である
- 看護師、消防士、警察官などのエッセンシャルワーカーである
など「食いっぱぐれがない」人でないと、収入をどのようにして得ていくかが問題になるはずです。
噂がすぐに広まる
人と人とのつながりを重んじること自体は悪いことではありません。しかし、別の側面から見ると、それはプライベートを重んじないという欠点にもつながります。
結局は、当人同士のモラル次第ですが、人の噂がすぐに広まりがちです。しかも、話が広まっていくうちに尾ひれがついてしまい、事実とは全く違った内容になったりもします。
都会で暮らすメリット・デメリット
メリット
都会で暮らすメリットとしては
- 仕事が探しやすい
- 公共交通機関が整っている
- 商業施設、医療機関が多い
- 人に干渉されにくい
の4点が挙げられます。
仕事が探しやすい
大企業の本社、支社、営業所は都市部に集まりがちです。また、人口が多い以上、商業施設や中小企業の事業所もたくさんあります。
公共交通機関が整っている
「3分に1本来る」とまで言われるほど運航本数の多い山手線ほどまではいかなくても、10分に1本程度の間隔で運行している電車・バスはたくさんあります。また、最寄り駅から遠い住宅街を通るよう、コミュニティバスが運行されているのも珍しくありません。
商業施設、医療機関が多い
都会の場合、ターミナル駅の周囲はもちろん、多少離れた場所でも、普段の買い物に不自由しないほどの商業施設は揃っています。田舎で起こりがちな買い物難民問題も、都会ではまず起こりません。
また、医療機関についても、小規模なクリニックから、大規模な総合病院、大学病院まで、患者の状況に応じて様々な規模のものが揃っています。体調を崩したときにすぐに相談できる場所があるというのは、非常に心強いはずです。
人に干渉されにくい
都会には、様々な場所から人が集まってきます。「昔からその土地に住んでいるわけではない人」は当たり前にいるので、「なぜ、ここに来たのか?」ということを必要以上に詮索する人も少ないはずです。
デメリット
一方、デメリットとしては
- 自然が少ない
- 家賃、土地が高い
- 生活費がかさみがち
の3点が挙げられます。
自然が少ない
一口に都会といっても、地域によるばらつきはありますが、田舎に比べると自然は少ないです。子どもを安全に遊ばせることができる公園すらないことも珍しくないので「子どもは自然の中でのびのびと育てたい」という人には、はっきり言って不向きでしょう。
家賃、土地が高い
先ほど用いた国土交通省がまとめている「令和2年都道府県地価調査」のデータを、もう一度使いましょう。住宅地の1平方メートルあたりの金額が高い都道府県(上位5つ)は、以下の通りです。
東京 | 378,100円 / 1平方メートル |
神奈川 | 179,300円 / 1平方メートル |
大阪 | 150,700円 / 1平方メートル |
埼玉 | 113,700円 / 1平方メートル |
京都 | 109,300円 / 1平方メートル |
出典:土地・建設産業:令和2年都道府県地価調査 – 国土交通省
首都圏および近畿大都市圏に入っている都道府県がランクインしているのがわかるでしょう。
生活費がかさみがち
また、土地や家賃が高いことは、個人の暮らしだけではなく、そこで事業を行う人にも影響を及ぼします。店舗を運営していくにしても、高い地代や賃料を払いながらになるため、そのなかで利益が出せるようにしなくてはいけません。
ちなみに、1平方メートルあたりの土地の値段が最も高い東京都の場合、1カ月あたりの平均消費支出は343,464円にも上りました。
実際は栃木県や茨城県、香川県など大都市圏を外れる都道府県であっても、平均消費支出が平均(32万円)を上回っているケースがあるので一概にはいえませんが「都会で暮らすのにはお金がかかる」という点には注意しましょう。
結局、住むなら田舎?都会?
田舎暮らしに向いている人
結局のところ、田舎暮らしにも都会暮らしにも、メリット・デメリットがあります。
昔話で「田舎のねずみと都会のねずみ」という話がありましたが、その結末のように、田舎暮らしがいいと思う人もいれば、逆もまたしかりなのです。その事実を踏まえた上で、田舎暮らしに向いている人について、考えてみましょう。
家賃、土地代、生活費を抑えつつ広い家に住みたい
田舎の方が、家賃や土地は安いです。また、生活費も安いことが多いので、収入が少なかったとしても、広い家で暮らすことは十分可能でしょう。
近所付き合いが苦にならない
田舎での生活は、近所の人とうまくやれるかどうかで過ごしやすさが全く違うのも事実です。近所付き合いが苦にならず、地域の行事にも積極的に参加できる人なら「こういう暮らしもあったんだ」と楽しめるかもしれません。
在宅でもできる仕事をしている
都会から田舎に引っ越し、仕事を探すのはかなり大変です。そのため、できることなら在宅でもできる仕事をしている状態で、引っ越したほうがいいでしょう。勤務先の会社がテレワークを前提としていて、インターネット環境とパソコンが用意できるなら問題なく仕事ができるという場合は、前向きに検討する価値があるはずです。
車の運転が好き
公共交通機関をあまり頼りにはできない以上、日ごろの移動は車が主体になります。車の運転に苦手意識がないことは、田舎暮らしでの絶対条件と言っても過言ではありません。
アウトドア派である
自然がいっぱいなのは田舎の良さです。しかしそれは
- 沢山出てくる虫をどうにかしないといけない
- 草刈りや土いじりは不可欠
という意味にもとらえることができます。普段からキャンプや山登りに親しんでいる人のがほうが、抵抗はないでしょう。
都会暮らしに向いている人
一方、都会暮らしに向いている人の特徴は以下のとおりです。
ある程度経済的に余裕がある
都会の場合、土地や賃料が高い上に、生活費もかさみがちです。収入が低くても、工夫次第で生活はできますが、経済的な余裕はあるに越したことはないでしょう。
頼れる知人、友人のあてがある
都会の場合「マンションの隣にどんな人が住んでいるかもわからない」ほど、人と人とのつながりが希薄なことは珍しくありません。プライベートを詮索されないという意味ではいいですが、自分が困った時に頼れる人がいないというマイナス面も指摘できます。都会暮らしをするなら、頼れる知人、友人のあては作っておきましょう。
家は狭くてもいいので、便利な生活をしたい
家の広さに対する価値観は人それぞれです。中には「不自由しない程度であれば、家は狭くてもいい。でも、便利な生活をしたい」と思う人もいるでしょう。そういう人であれば、都会で生活するほうが向いているはずです。
インドア派である
田舎の場合、虫退治や畑仕事に苦手意識があると生活しづらいかもしれません。しかし、都会であれば、ガーデニングが趣味でもない限りは、虫退治や畑仕事をしなくても十分生活していけます。「どちらかといえばインドア派」という人は、都会暮らしのほうが無難でしょう。
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