2020年初頭から日本を含む世界中で新型コロナウイルス感染症が流行したことにより、小売業・観光業・飲食業など「人の行き来を前提とする産業」を中心に、多くの企業が大幅な減収・減益を余儀なくされました。特に、飲食業は大都市圏を中心にした数回にわたる緊急事態宣言・まん延防止等重点措置による酒類提供の自粛により、壊滅的なダメージを受けています。
また、観光業は最大手クラスのJTB、近畿日本ツーリストが操業以来最大の赤字に陥り、人員整理・店舗の閉店を中心とした経営削減策を打ち出すなど、かなりの異常事態に陥っているのが実情です。
このような状況なので、現在大学(短大・専門学校も含む)に通っている学生の中でも「もしかしたら、うちのお父さん(お母さん)失業しちゃうのかな」と不安を感じている人もいるでしょう。また「実は早期退職を選ぶことになってしまって」と、すでに失業しているため、今後の学費をどうすべきか思いあぐねている人もいるはずです。
そこで今回は「何らかの理由で、親(保護者)の収入が激減したり、失業したりした場合に、学費を賄うための手段に使えそうな制度」を紹介します。
目次
日本学生支援機構の奨学金
「高等学校の修学支援新制度」の家計急変採用
日本学生支援機構では、文部科学省と共同で「高等学校の修学支援新制度」を運営しています。簡単にいうと、授業料等の減免と給付型奨学金の支給が受けられる制度です。本来は、年2回(春・秋)に定期的に募集しているものですが、「父親の勤務先が倒産した」などの理由で緊急的に支援が必要になった場合は、その都度申し込めます。ただし、支援が必要になった理由が生じてから、3か月以内に手続きをする必要があるので注意してください。
なお、実際に受けられる授業料等の減免額・給付型奨学金の支給額は、世帯の所得金額に基づき支援区分を判定した上で決定します。
授業料減免額 | 第1部学生で最大70万円 / 年 第2部学生で最大36万円 / 年 |
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給付奨学金(月額) | [第1区分]自宅通学 : 38,300円 / 自宅外通学 : 75,800円 [第2区分]自宅通学 : 25,600円 / 自宅外通学 : 50,600円 [第3区分]自宅通学 : 12,800円 / 自宅外通学 : 25,300円 |
新型コロナが原因でない場合でもOK
もちろん、新型コロナウイルス感染症に限らず
- 父親・母親(その他生計維持者)が病気・事故で亡くなってしまった
- 父親・母親(その他生計維持者)が病気・ケガで半年以上働けない状態が続いている
- 父親・母親(その他生計維持者)が勤務していた会社が倒産したり、大規模なリストラを行った
- 地震、火事、台風などの災害に巻き込まれた
などの理由でも、給付奨学金の家計急変採用の制度を使うことはできます。なお、新型コロナウイルス感染症が原因で収入が激減した場合、公的支援の証明書が必要となります。
より詳しい話については、日本学生支援機構が発表している「新型コロナウイルス感染症による家計急変「事由発生に関する証明書類」に関するQ&A」を見たうえで、在学している大学の学生課に相談してみるのをおすすめします。
参照:日本学生支援機構「新型コロナウイルス感染症による家計急変「事由発生に関する証明書類」に関するQ&A【令和3年4月1日版(令和3年6月1日改訂)】
第一種奨学金の緊急採用
先に触れた「高等学校の修学支援新制度」は、本来は「経済的に著しく困難(例:住民税非課税世帯)な家庭の子息にも就学の機会を与えること」を目的とした制度です。そのため、たとえ新型コロナウイルス感染症などの原因で収入が急に下がったとしても「著しく困難」とは言い難い状況では使えません。
しかし、日本学生支援機構が運営する貸与型奨学金の場合であれば、出願できることもあります。なお、日本学生支援機構が運営する貸与型奨学金には利子がつかないものとつくものがありますが、第一種奨学金は「利子がつかないもの」にあたります。
<thwidth=”25%”> 対象
生計維持者の失業、破産、事故、病気、死亡等または天災による罹災等により家計が急変し、奨学金を緊急に必要とする者 | |
奨学金額 | 自宅通学:[月額]20,000円 / 30,000円 / 40,000円 / (最高月額54,000円) 自宅外通学:[月額]20,000円 / 30,000円 / 40,000円 /50,000円/(最高月額64,000円) |
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なお、第一種奨学金も、通常は春・秋の年2回に分けて募集が行われますが、緊急採用の場合はいつでも構いません。ただし「家計が急変した事由」が発生してから1年以内に手続きをする必要があるため、早めに大学の学生課に相談し、手続きを進めましょう。
第二種奨学金の応急採用
一方、同じ日本学生支援機構が運営する奨学金であっても、「利子がつくもの」は第二種奨学金として扱われています。
第一種奨学金と同じように、本来は春・秋の年2回募集を行いますが、家計が急変した事由が発生した場合は、いつでも出願してかまいません。ただし「家計が急変した事由」が発生してから1年以内に手続きをする必要があるため、早めに大学の学生課に相談し、手続きを進めましょう。
対象 | 生計維持者の失業、破産、事故、病気、死亡等または天災による罹災等により家計が急変し、奨学金を緊急に必要とする者 |
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奨学金額 | [月額] 20,000円 ~ 120,000円 の範囲で選択(1万円単位) |
大学独自の奨学金
大学によって異なるので要確認
日本学生支援機構が運営する奨学金以外にも、大学が独自で奨学金制度を設けているのは珍しくありません。それぞれの大学によって
- どんな奨学金制度を設けているのか
- 応募条はどうなっているのか
がまちまちなので、学生課の奨学金担当部署に問い合わせてみると良いでしょう。
具体例
新型コロナウイルス感染症も含め、何らかの理由で学費を負担している家族やその他の人(生計維持者)が失業した場合など、急激に経済状態が悪化した場合には、緊急支援として給付型奨学金を支給することを定めている大学は多いです。
東洋大学の例
例えば、東京の私立大学の1つ、東洋大学の場合「東洋大学 新型コロナウイルス対策特別奨学金「RIBBON」による生計維持者失職に対する緊急支援」という名前で、給付型奨学金を支給しています。
なお
- 失職発生(失業した時点)から3か月以内に申請すること
- 学業成績等に基づき審査が行われるため、出願しても必ず支給が決定するとは限らない
点に注意してください。
参照:家計急変時に利用できる奨学金 | Toyo University
NPO法人の奨学金
給付型が中心
生活困窮世帯への支援を行っているNPO法人でも、大学進学・在学中の費用を賄うことを目的として、給付型奨学金を中心とした奨学金制度を設けていることがあります。ただし、NPO法人によって
- 大学への進学を希望している本人が出願するのか
- 大学への進学を希望している未成年の子どもを持つ保護者が出願するのか
など、申込のフローが異なるので、事前に確認しておきましょう。
具体例
例えば、無料学習施設の運営を中心に、生活困窮世帯への支援を行っているNPO法人キッズドアの場合、同法人が設立した「キッズドア基金」を通じ、大学受験の際の費用の一部に充当できる「受験サポート奨学金」の運営を行っています。2021年の実績では
- 高校3年生・浪人生300人に対し1人5万円
- 高校2年生200人に対し1人3万円
の給付を前提に、募集が行われました。
参照:受験サポート奨学金募集開始いたします。 | 認定NPO法人キッズドア基金
また、大学進学後であっても、急激に生活が困窮した場合を想定し、在学中の学生への支援を目的とした奨学金制度の運営を行っているNPO法人もあります。
地方自治体が行う支援制度
在学中に貸与を受けた奨学金の返還支援が中心
大学への進学、在学中の話ではありませんが、奨学金に関連する話題ということで取り上げます。
地方自治体の中には、地方創生の一環として、その自治体内の企業に就職することなど、一定の条件を満たす場合、在学中に日本学生支援機構などの団体から貸与を受けた奨学金の返還支援を行っているところもあります。
具体例
紙面の都合上、すべてを紹介することはできないので、ここでは長崎県佐世保市と埼玉県
長崎県佐世保市「佐世保市奨学金等返還サポート制度」
まず、長崎県佐世保市の場合、一定の条件を満たす人に対し、奨学金等の返還の補助を、毎年最大20万円、10年間行います。
基本条件(すべて満たす必要がある) |
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個別要件(いずれかに当てはまる必要がある) |
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なお、サポートを受けられる額は、個別要件のうちどれに当てはまるかによって異なるので注意してください。
- 個別要件1にあてはまる人:奨学金等の年間返還額の3分の2(上限年間20万円)を10年間補助
- 個別要件2~7にあてはまる人 :奨学金等の年間返還額の2分の1(上限年間15万円)を10年間補助
- 個別要件8にあてはまる人 :奨学金等の年間返還額の3分の1(上限年間10万円)を10年間補助
出典:佐世保市奨学金返還サポート制度のご案内|佐世保移住サポートサイト
埼玉県熊谷市「大学等奨学金利子支援事業」
次に、埼玉県熊谷市の「大学等奨学金利子支援事業」について取り上げます。以下の資格を満たす人であれば、利用可能です。10年間、返還する奨学金の利子相当額(上限3万円)が支給されます。
- 申請時に、熊谷市に住民登録があること。
- 奨学金の貸与を受けて大学・短期大学・大学院・高等専門学校・専修学校専門課程等を修了していること。
- 申請年度の翌年度の4月1日現在(令和2年度申請の場合、令和3年4月1日現在)の年齢が40歳未満であること。
- 申請年度の前年度の10月1日から申請年度の9月30日(令和2年度申請の場合、令和元年10月1日から令和2年9月30日)までの間に奨学金を返還していること。
- 最初の申請時に、奨学金の返還期間が10年以上であること(上記(4)の期間を含む。)。
- 申請時に、本市の市税及び国民健康保険税を滞納していないこと。
- 就労していること。
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