法律上、直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養する義務があると定められています(民法877条)。つまり、たとえ離婚したとしても、親子の縁が切れるわけではない以上、親は子どもが未成年のうちは生活費の面倒をみる必要があるということです。
このことを鑑み、離婚にあたって養育費の取り決めをする夫婦はたくさんいますが、当初の取り決め通りに養育費の支払いを行えるとは限りません。支払う側に不測の事態が起きることだって当然あり得ます。仮に、不測の事態が起きてこれまで通り養育費が支払えなくなった場合、どのように物事を進めればトラブルにならないかを解説しましょう。
目次
養育費は支払うのが原則
本格的な話を進める前に、養育費を支払うことが如何に大事かについても触れていきましょう。
養育費の不払いは深刻な社会問題
厚生労働省がまとめた「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によれば、調査時点でも養育費を支払ってもらっている母子家庭の母は、全体の24.3%にすぎませんでした。
状況 | 人数(人) | 割合(%) |
---|---|---|
現在も養育費を受けている | 442 | 24.3 |
養育費を受けたことがある | 281 | 15.5 |
養育費を受けたことがない | 1017 | 56 |
不詳 | 77 | 4.2 |
つまり、「養育費を途中から支払ってもらえなくなった」「養育費を払ってもらったことがない」という人のほうが、圧倒的に多いのです。
一方、平成27年の母子家庭の母の平均収入は、243万円とのことでした。平均世帯人員が3.31人とのことなので、3 ~ 4人家族と仮定しましょう。総務省が行っている家計調査によれば、2人以上の世帯の1カ月当たりの消費支出は233,568円(2020年の平均)でした。
年度や統計の方法が違うので、単純に比較はできませんが、1カ月に入ってくる収入が20万円ちょっとであるにもかかわらず、生活費は約24万円かかる計算です。このような状態では、元配偶者から受け取る養育費がない場合、かなり生活は苦しくなるでしょう。
面会交流の有無は問われない
なお、離婚した場合、どちらか一方が親権者となり、子どもを引き取ることになります。その際、面会交流に関する取り決めをし、親権者とならなかった方の親が定期的に子どもに会えるようにするのが一般的です。
しかし、実際は「相手と関わりたくない」「相手が面会交流を希望しない」「子どもが会いたがらない」などの理由により、面会交流をしない例も多いです。
どちらも子どものための権利として認められているものですが
- 養育費は親の子どもに対する扶養義務に基づいて支払われるもの
- 面会交流は子供の福祉(幸せ)のために親子の交流を図るためのもの
というように、制度の趣旨が全く違う以上、交換条件にもなりえないのです。
養育費を支払わないことによるリスク
離婚の際に養育費を支払うよう取り決めたにも関わらず、養育費を支払わない場合、調停や裁判に持ち込まれることがあります。
日本は諸外国とは異なり、養育費を払わなかったからといって、氏名公表、運転免許停止、収監などの強い措置が講じられることはありません。
悪質なケースでは刑事罰が科されることも
養育費の支払いに関する取り決めをしたにも関わらず、養育費を支払わなかった場合、相手方は強制執行の申立てを行うことができます。
その際、債務者(支払義務がある人)は裁判所に出頭し、自身の財産の状況を開示しなくてはいけませんが、実際は出頭命令を無視したり、虚偽の申告をしたりする人も多くいました。もちろん、30万円以下の過料というペナルティはありましたが、あくまで行政罰であるため「罰金を払いさえればいいし、前科持ちにもならない」のが現実だったのです。
しかし、2020年4月から改正民事執行法が施行され「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」へと扱いが変更されました。つまり、改正前とは比較にならないほど、罪が重くなります。
養育費が免除される3つのケース
本来、養育費は「親は子どもの面倒を見なくてはいけない」という義務(扶養義務)に基づいて発生するものです。しかし、一定の場合には免除されることもあり得ます。
元パートナーが再婚して子どもと養子縁組した
元パートナーがいわゆる「子連れ再婚」をし、再婚相手と子どもとの間で養子縁組(普通養子縁組)をした場合、再婚相手が子どもの第一次的な扶養義務者となります。
もちろん、養子縁組をしたからといって、実の親との法律的な親子関係がなくなるわけではありません。再婚相手に十分な収入がない場合は、自分が多少でも養育費を出さなくてはいけない可能性も生じることに注意が必要です。
子どもが成人年齢に達した
子どもが成人年齢(現行法のもとでは20歳)に達した場合も、養育費の支払いが免除されることがあります。
20歳を超えても払い続けるケースも
しかし、これはあくまで一般的な取り扱いであり、双方が合意していれば、20歳を超えても養育費を支払うことはあり得ます。大学に進学した場合、大学在学中は仕事もできないし、学費もかかることから、20歳を超えてもそれなりにまとまったお金が必要だからです。
また、子どもが病気や障害で働けない場合も、20歳を超えても自立できない可能性があるでしょう。この場合も、20歳という年齢で区切るには無理があるため、養育費を払い続けるのは珍しくありません。
無収入になった
「ない袖は振れぬ」という言葉がありますが、養育費を支払う義務がある本人が無収入になってしまった場合は、最終的には免除してもらうしかありません。
- 勤務先が倒産し、再就職できない
- 病気、ケガで長期間働けない
など、なんらかの理由で無収入になった場合は、後述する養育費減額調停を申し立てましょう。
養育費が減額できる3つのケース
全額免除は難しくても、減額してもらえる可能性があるパターンについても考えてみましょう。
自分が再婚して子どもを設けた
自分が新しいパートナーと結婚し、子どもを授かった場合、生まれた子どもに対しても扶養義務が生じます。
予想外の事情により大幅に収入が減った
養育費の取り決めをする際に、支払うべき月額についても決めますが、その際は支払う側、受け取る側の年収を考慮して決定されます。しかし、これはあくまで「決めた時点での年収」をもとにしているものです。
実際に認められるかどうかは個々のケースにより異なりますが、新型コロナウイルス感染症の影響により急激に業績が悪化し、大幅な賃金カットが行われた場合も、この理由に含まれるでしょう。
親権者の収入が増えた
逆に、養育費を受け取る側=親権者が再就職したり、仕事で昇進・昇給したりしたなどの理由で、収入が増えた場合も、養育費の減額が認められることがあります。親権者の収入が増えた以上、養育費が多少減っても、子どもが不自由なく生活していくことは可能になるからです。
養育費を免除、減額してもらうための手続き
いずれにしても、養育費についての取り決めをした時と状況が変わった時は、養育費の免除、減額をしてもらえないか、手続きを踏んでいきましょう。
まずは相手と話し合う
まずは、養育費の減額、免除について相手と話し合いましょう。その際「なぜ、減額・免除をしてほしいのか」「相応の理由はあるか」について、丁寧に説明することが大事です。
養育費減額調停を申し立てる
話し合いでまとまりそうにない場合は、家庭裁判所に対して、養育費減額調停の申立てをしましょう。相手が実際に居住している地域を管轄する家庭裁判所に対して手続きをしてください。
なお、手続きの際は以下の書類が必要になります。
- 申立書原本及び写し各1通
- 連絡先等の届出書1通
- 事情説明書1通
- 進行に関する照会回答書1通
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)1通
- 申立人の収入関係の資料(源泉徴収票,給料明細,確定申告書等の写し)
- 収入印紙1200円(子供1人につき)
- 郵便切手
- 非開示の希望に関する申出書(必要に応じて提出)
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