筆者はこのような仕事をしているためか、既に独立起業をしている友人・知人が複数います。彼らを見ていると「毎日大変そうだけど、充実しているな」と思いますが、今、自分が会社を辞めて起業したいかと聞かれると、正直疑問です。
仕事である以上大変なところもあるし、成果も出していかなくてはいけないですが「決められた時間だけ仕事をして、給料をもらえる」のはやはりありがたく思います。新卒以来、ずっと同じ会社に勤めている夫に聞いても「独立起業なんて大変だよー。できる人すごいよね」と言うので、似たような考えを持っているのかもしれません。
そこで今回は「脱サラして起業するのと、サラリーマンでい続けるのはどっちが楽か」を徹底比較してみることにしました。
目次
脱サラして起業の良いところ・大変なところ
良いところ
まず、脱サラして起業の良いところについて解説しましょう。
人から指図されないで動ける
脱サラして起業する以上、自分が最高責任者としてビジネスを切り盛りしていくことになります。そのため、基本的には誰からも指図されないで動けるのが大きなメリットです。
もちろん、必要に応じてコンサルティングを受けたりすることがあったとしても、そこで伝えられたアドバイスを実行するかどうかも自分次第なので「自分に与えられる裁量が極めて大きい」状態で仕事ができます。
自分の得意なこと、好きなことを仕事にできる
脱サラして起業するきっかけとして「自分の得意なこと、好きなことを仕事にしたい」を挙げる人は一定数います。生活費を稼いできてくれる家族がいたり、既に働かなくても十分生きていけるだけの資産があるのでもない限りは、人間は働く必要があります。
もちろん、体調を崩していたり、自分や家族の都合で働けなかったりする場合はこの限りではありません。しかし、それくらい仕事は人生において重要なものである以上「できることなら、自分の得意なことや好きなことをしていたい」と思う人がいても何ら不思議ではないのです。
自分の能力次第ではかなりの高収入になる
もともと商才があり、しかも努力する人が脱サラして起業した場合、サラリーマン時代からは考えられないほどの収入を得ることは珍しくありません。
中には、年収3,000万円 ~ 1億円など、サラリーマンを続けていたのではまず手に入らない(役員にまで昇進すればありうるが、きわめてレアケース)収入をたたき出す人もいます。
悪いところ
一方、悪いところがあるのも事実です。考えられるポイントをまとめてみました。
自分の能力次第では収入ゼロになる
脱サラして起業した場合、収入が得られるかどうかは自分の努力と能力次第の部分はあります。筆者は本来「自己責任」という言葉が好きではありませんが、まさに自己責任です。
「今まで会社員として何とかやってこれたから、同じようにやっていれば何とかなるだろう」という甘い見通しでは、会社員時代の年収をはるかに下回る収入しか得られない可能性もあるのです。
社会的な保障はないに等しい
日本の場合「国民皆保険」といって、原則として全員が公的年金や公的医療保険に入る仕組みになっています。仮に、脱サラしてもこれは変わりません。
しかし、サラリーマン = 会社員や公務員などで、勤務先の厚生年金や共済組合に加入していた場合と比べると
- 自分で払わなくてはいけない保険料が高い
- 受けられる保障は手薄になる
のが事実です。
社会的な保障はないに等しい、はやや言い過ぎかもしれませんが、サラリーマンの時より手薄になることは覚えておきましょう。
なお、脱サラして起業した場合であっても、特定の職種に当てはまる場合は、労災保険料を自分で払うことにより、仕事が原因で病気・ケガを負った場合に補償が受けられます(労災保険の特別加入)。
また、仮に病気やケガで長期の療養を余儀なくされる場合は、脱サラして起業した人であっても使える公的な補助制度があるので、フル活用するようにしてください。
クレジットカード、ローンの審査においては不利
「芸能人は収入が多いにも関わらず、クレジットカードの審査にも通りにくいし、住宅ローンも組めない」という話がしばしば話題になります。理由は簡単で「収入の落差が激しく、安定継続した支払いができるかが未知数だから」です。
脱サラして起業した場合も、事業が軌道に乗るまではこの理屈が当てはまります。最近は脱サラして起業した人でも使いやすい設計をしているクレジットカードがあったり、住宅ローンの審査を受け入れたりする金融機関も増えてきていますが、それでも「必ず審査に通る」とは限りません。
プライベートと仕事の境目が付かなくなる
ある意味、もっとも脱サラして起業する人が直面する苦労が「プライベートと仕事の境目が付かなくなる」ことでしょう。特に、起業してからすぐは、自分のビジネスのノウハウやマネタイズの仕方も確立していないため、やれることを片っ端から試そうとしがちです。
その姿勢自体は何ら悪くないのですが、時間の使い方を上手に考えないと「いつでもどこでも仕事をしている」という状態に陥るため、ストレスが溜まりがちになります。
サラリーマンの良いところ・大変なところ
良いところ
次に、サラリーマンの良いところについても考えてみましょう。
簡単にクビにはならない
日本の場合、会社が従業員をクビにする = 事業主が労働者を解雇するためには、かなり厳しい制限が設けられています。
もちろん、
- 会社のお金を横領した
- 殺人事件の容疑者として逮捕され、裁判の結果有罪が確定した
- 部下にパワハラ・セクハラを繰り返した結果、その部下が自ら命を絶ってしまい、遺族から訴訟を起こされた結果、裁判で損害賠償命令が確定した
など、明らかな落ち度がある場合は解雇が認められます。しかし、ただ単に「仕事で成果が出せていないから」「気に食わないから」などの理由でクビにすることは、不当解雇と判断されるおそれが極めて高いです。
裏を返せば、サラリーマンである以上、そう簡単にはクビにならないということです。
社会的な保障はしっかりしている
サラリーマン = 会社員や団体職員、公務員などの場合、病気やケガで会社を休まざるを得なくなった場合でも
- 労災保険給付(仕事が原因の病気・ケガで休んだり、万が一のことが起きたりたした場合に受け取れる)
- 傷病手当金(仕事が原因でない病気・ケガで休んだ場合に、最長で1年6ヶ月まで給料の約3分の2が受け取れる)
という制度が使えるため「いきなり収入がゼロになる」ことは基本的にあり得ません。これらの制度は脱サラして起業した場合は使えない点を考えると、サラリーマンの方が社会的な保障が行き届いていると言えるでしょう。
クレジットカード、ローンの審査においては有利
クレジットカードやローンなど「一定の条件でお金を貸し、その後利息と共に返してもらう」取引(信用取引)の場合、クレジットカード会社や銀行などの金融機関は「完済するまでの間、安定継続した収入が見込めそうか」をきわめて重視します。
そのため、たとえ平均より年収が低かったとしても、会社員や公務員であれば、クレジットカードの審査に通ったり、ローンが組めたりすることは珍しくありません。
利用限度額や貸付額が低くなる可能性はありますが、脱サラして起業した人よりも審査通過のハードルは低いはずです。
プライベートと仕事の境目はつけられる
サラリーマン = 会社の従業員である限りは、勤続年数と勤怠状況に応じて所定の有給休暇が与えられます。
また、労働基準法により本来は、業務時間外の職務連絡をすることが禁止されています。つまり「会社が休みの日は、会社から仕事に関する連絡をしてはいけない」という意味です。
実際は、36協定(労働時間を延長し、残業・休日の労働も可能にする協定)が結ばれていれば、業務時間外の職務連絡をすることができますが、対応する必要がある以上は賃金・割増賃金を払わなければ違法になります。
ここまでの話をまとめると「そもそも休みの日に会社から仕事に関する連絡があっても対応する必要はないし、どうしても対応せざるを得なかった場合はその分賃金をもらう権利がある」ということです。
このような背景からも「この日は仕事、この日はプライベートの用事」とスケジュールにメリハリがつけやすいのが、サラリーマンとして働くことの大きなメリットでしょう。
悪いところ
一見苦労が少ないように思えるサラリーマン生活であっても、色々と不自由なことはあります。
会社の意向に合わせて動かないといけない
サラリーマンの場合、会社によって守られている側面がある一方で、会社の業務命令には従わなくてはいけません。最もわかりやすい例が「転勤を伴う異動」です。
会社から転勤の命令があった場合は、基本的に断ることはできません。そのため
- 子どもが私立小学校・中学校に通っているなどの理由で転校が難しい
- 介護が必要な家族がいるため、遠方への転居が難しい
などの事情があった場合、家族を同行させるのか、単身赴任をするのか、もしくは退社して転職活動をするのかという判断を迫られることが多々あります。
既に触れた通り、会社が従業員を解雇することには、高いハードルが設けられています。一方「どんな仕事をしてもらうか」「どこで働いてもらうか」を決める権利(人事権)は広く認められているため「自分の意向と会社の意向が合わない」ことは多々起こりうるのです。
自分の得意なこと、好きなことができるとは限らない
また、人事権が広く認められている以上、自分が希望した職種・部署で働けるとは限りません。「本当は広報を希望していたのに、総務に回された」「学生時代に簿記の資格を取得していたという理由だけで経理に配属された」という話は多々あるはずです。
「自分の得意なこと、好きなことをどうしても仕事にしたい」という人が、このような事態に直面すると落胆してしまうかもしれません。割り切って進められるかどうかが、会社勤めを続けられるかどうかの鍵になるでしょう。
会社の業績が傾くと給料も安くなる
従業員を雇って仕事をしてもらう以上、会社は原則として給料の全額を払わなくてはいけません(労働基準法第24条1項本文)。
そして、一方的に減らすことは「労働条件の不利益変更」として、法律で厳しく制限されています(労働契約法第9条、第10条)。
このため「いきなり何の前触れもなく給料が減らされたり、”来月からはゼロだから”と言われたりする」ことは基本的にあり得ません。
しかし、会社の業績が急激に悪化したなど、相当な理由があれば法的に給料を安くすること(減給)が認められることがあります。「ゼロになることはないけど、安くなることはある」程度の認識は持っておいた方が良いでしょう。
人間関係で神経をすり減らすことも
ある意味、会社勤めで最もネックになるのがここでしょう。人間である以上、どうしても「合う・合わない」はあります。仕事の進め方1つとっても、何を重視するかはその人次第です。
重視するポイントが違っていた場合、相手から不信感を持たれ、人間関係がぎくしゃくする原因にもなりかねません。
結局、どっちが楽?
金銭面・立場の安定を求めるならサラリーマン
結局のところ、脱サラして起業するのと、サラリーマンでいるのとはどちらが楽なのかは、「何をもって楽と考えるのか」にも左右されます。
「楽 = 金銭面や立場が安定していること」と考える人であれば、サラリーマンの方が楽でしょう。
サラリーマンである限りは、簡単に解雇されることはない上に、給料が減ることはあっても、いきなりゼロになる可能性は極めて低いためです。
精神的な充足を求めるなら脱サラ起業
一方「楽 = 精神をすり減らさず、自分の好きなことや得意なことを仕事にできること」と考える人であれば、脱サラ起業も悪くないでしょう。
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