労災未加入の会社がヤバい理由。自分で簡単にできる調べ方は?

会社勤めをしている人(従業員)が仕事中や出退勤中にケガをしたり、万が一のことがあったりした場合は、労働災害として扱われ、労災保険給付が受けられます。つまり、治療費を自己負担しなくてよくなったり、万が一のことがあったり場合は遺された家族のために遺族年金や遺族一時金が受け取れるのです。

この制度を保つため、すべての会社(事業所)には、従業員を1人でも雇ったら、労災保険料を支払う義務があります。しかし「経費がかかるから」「手続きがわからないから」などの理由、労災保険料を払っていない事業所があるのも事実です。

今回は、それがどれだけヤバいことなのか、そして、そんなヤバい会社を事前に見抜くにはどうすればいいのかを伝授します。

労災未加入の会社がヤバい理由

労災保険とは

まず、労災保険(労働災害保険)が何かを確認しておきましょう。簡単にいうと、仕事中、出退勤中などに起きた「仕事をしていたことが原因で起きた病気・ケガ」が原因で、治療を受ける必要が生じたり、万が一のことがあったりした場合に補償が受けられる制度です。

労働者災害補償保険法

第一条 労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

冒頭でも触れた通り、会社は従業員(正社員、契約社員、パート・アルバイト含む)を1人でも雇ったら、労災保険に加入しなくてはいけません。

労働災害補償保険法

第三条 この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。

コンプライアンス意識が薄すぎるからヤバい

しかし、これだけ法律で厳密に加入する(労災保険料を払う)よう求められているにも関わらず、様々な理由を付けて払わない事業主がいるのも事実です。昨今、会社のコンプライアンス(法令遵守)体制には厳しい目が向けられているのを知っている人は多いでしょう。それも考えると、これがいかにまずいことなのかわかるはずです。

当然、労働保険料を払っていない会社に対しては、厳しい罰則が設けられています。

延滞金の追加徴収が行われる

仮に、会社が労働保険料を滞納していた場合は、本来納めるべき期限の日(法定納期)の翌日から起算し、年14.6%の延滞金が追加徴収されます。つまり、本来払うべきだった労働保険料のほかに、利息が上乗せされると考えましょう。

また、労働局から会社に対して労働保険料を払うよう再三通知していたにも関わらず払わない場合は、財産の差押えが行われることもあります。

会社側が給付金を負担することも

本来、労働保険料を期限通りに払っていれば、会社が労働保険給付をすることはありません。会社は1円も負担することなく、公的な制度により従業員に対する補償ができるということです。

しかし、労働保険料を滞納しているときに労働災害が起き(例:従業員が仕事中にケガをした)、労災保険給付を行った場合は、会社から滞納していた労働保険料および延滞金を徴収するとともに、労働保険給付の100%または40%を徴収されます。

つまり、本来なら会社が払わなくてもいいはずのものを、払わされるということです。

労働基準法違反による処分もありうる

そもそも、労災保険料を払わないことは、労働基準法に違反しています。そのため、経緯があまりに悪質と判断された場合は

  • 厚生労働省による企業名の公表
  • 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金

などの処分が下されます。結局のところ、本来払うべきものも払わないで、挙句の果てに処分を受けるような会社は、従業員を大切にしている会社とは到底呼べません。

「ブラック企業」などの汚名を着せられても仕方がないですし、関わったらヤバいのも当然でしょう。

未加入だった場合でも補償を受けられる余地はある

仮に、自分の会社が労働保険料を支払わない「ヤバい会社」だった場合でも、仕事中、出退勤中の病気・ケガについては補償が受けられる可能性があります。本来、労働保険料を支払う義務は会社にあるため、従業員に非はないためです。

まずは労働基準監督署に相談

労災保険料を会社が支払っていない状態で労働災害に遭った場合は、病院で診察を受けるときに、労働災害であること(「仕事中にケガをしました(具合悪くなりました)」と言えば通じます)を伝えましょう。逆に、自分の保険証を使ってしまった場合は、加入している保険組合に連絡し、対応を仰いでください。

参照:健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか。|厚生労働省

その上で、会社を管轄する労働基準監督署に相談しましょう。なお、会社を管轄する労働基準監督署は、厚生労働省のWebページから探せます。

参照:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省

会社が労災を認めない場合の対応は?

労災として扱うよう求めたとしても、会社側に拒否されたり、労働基準監督署に却下されてしまったりすることも考えられます。そのような場合でも、あきらめないで打てる手を打ちましょう。

最初に審査請求を行うこと
労災保険審査請求制度という制度があります。これは、会社が労災を認めなかったり、労働基準監督署に却下されてしまったりなど、労災保険給付に関する決定について不服がある場合に、追加で調査をしてもらうよう求めることができる制度です。

参照:労災保険審査請求制度

なお、追加調査はその決定を行った労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の災害補償保険審査官に対して行います。必要な書類を記入して送ればいいだけである上に、無料で手続きが進められるので、まずは試してみましょう。

最終的には弁護士への相談も視野に

会社への出退勤中に駅の階段から落ちたなど、「会社の仕事に関連して起きた」ことが比較的はっきりしている病気・ケガであれば、労災保険給付が受けられることが多いです。

しかし、うつ病・統合失調症などの精神疾患の場合「会社の仕事に関連して起きた」ことが見極めにくいため、会社側が労災と認めないケースがあるので気を付けましょう。

このように、労災として認めるかどうかで会社側と食い違いが生じた場合は、労働問題に強い弁護士に早めに相談するのをお勧めします。

会社の労災加入状況を自分で簡単に調べる方法

厚生労働省のホームページを使う

コンプライアンス意識も低く、従業員を粗末に扱うような会社は、やはり「ヤバい会社」です。できることなら、事前に見抜いておきたいところでしょう。

簡単な方法として挙げられるのは、厚生労働省のWebページで公開されている「労働保険適用事業場検索」を利用し、労災保険の加入手続きを済ませているかを調べることです。

参照:労働保険適用事業場検索|厚生労働省

このようなページが出てくるので、都道府県を選択した上で、調べたい会社の名前を「事業主名」に入れて「検索実行」をクリックしましょう。

適切に加入手続きを済ませている場合は、このように検索結果が表示されます。

未加入だった場合は労働基準監督署に相談を

自分が調べた会社が、労災保険に未加入だった場合は、労働基準監督署に相談しましょう。労働基準監督署は相談を受けて、まず職員を会社に派遣し、労働保険に加入するよう指導を行います。

これを繰り返したにも関わらず、加入手続きを行わない場合は、最終手段として強制加入手続きを行うとともに、最大2年分の労働保険料と追徴金を徴収する仕組みです。

参照:労働保険の加入手続きをとられていない事業主の方 | 岡山労働局

FP 荒井 美亜

FP 荒井 美亜あらい みあ

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大学院まで行って公認会計士を目指していたものの、紆余曲折を経て今は「日本一、お金のことを楽しくわかりやすく説明できるライター兼ファイナンシャルプランナー」目指して活動中です。日本FP協会のイベントのお手伝いもしています。保有資格)日本FP協会認定AFP、FP技能検定2級、税理士会計科目合格、日商簿記検定1級、全経簿記能力検定上級、貸金業務取扱主任者試験合格

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