詳しくは後述しますが、日本は諸外国に比べて「お金の勉強=金融経済教育が遅れている」と言われています。このテーマについては「MoneQ Guide」でも数回にわたり取り上げてきました。
その傾向に歯止めをかけようと、2023年から高校の家庭科の授業で投資信託を取り上げるなど、具体的な取り組みが文部科学省や金融庁などの関連省庁を中心に始まっていますが、現場の先生方には温度差があるのも実情です。
そう簡単に温度差が埋まるとは考えにくい以上、まずは「自分たちで、自分たちの子どもが楽しみながら取り組んでくれそうな方法で、お金の勉強をしてもらう」ことを全千絵に動いたほうが良いでしょう。今回の記事では
- 日本の「お金の勉強」は前途多難かもしれない理由
- 子どもに楽しみながら「お金の勉強」をしてもらう方法
の2つのトピックに触れた上で、小学生限定フリマ「キッズフリマ」について紹介します。
目次
日本の「お金の勉強」は前途多難かもしれない
びっくりするような言葉を見出しに使いましたが、日本の「お金の勉強」はなかなか前途多難かもしれません。筆者がそう思う理由をこれから説明します。
2023年から投資信託を扱うものの
2023年4月に高等学校学習指導要領が改正されます。これは簡単に言うと「高校で教えるべき内容」について、文部科学省が出しているガイドラインです。
この中では、高校の家庭科(家庭基礎・家庭総合)で教えるべき内容についても触れられています。そして「家庭基礎」「家庭総合」の両方において、投資信託をはじめとした金融商品の特徴(メリット・デメリット)、資産形成について扱うとのことです。
家計管理については 、 収支バランスの重要性とともに、リスク管理も踏まえた家計管理の基本について理解できるようにする。その際、生涯を見通した経済計画を立てるには、教育資金、住宅取得、老後の備えの他にも、事故や病気、失業などリスクへの対応が必要であることを取り上げ、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成の視点にも触れるようにする。
出典:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 家庭編」
簡単に言えば「投資や資産形成について、家庭科の授業で触れること」が求められていくと言ってよいでしょう。
家庭科の先生の投資信託の知識は?
高等学校学習指導要領が改正される以上、これから家庭科の先生(家庭科教諭)を目指そうとする人については、このことを考えたカリキュラムの変更・追加がなされるはずです。具体的には、大学・短期大学在学中に、投資信託をはじめとした金融商品の基礎について生徒に教えられるだけの知識を身につけるため
- 必修科目の一部として組み込む
- 夏期休暇・冬期休暇などの長期休暇中に外部から専門家を招いてスクーリングをする
など、その学校の実情に合った対応を行うでしょう。
学生時代に勉強している可能性は低いかも
一方、既に家庭科の先生として教壇に立っている人の場合は、かなり事情が異なります。そもそも、小学生~大学生の間に「お金の勉強(金融経済教育)」を受けたことがないまま、大人になり、家庭科の先生として働いている可能性もゼロではないためです。
金融経済教育を推進する研究会が行った「中学校・高等学校における金融経済教育の実態調査報告書」によれば、中学校~高校までの6年間で金融経済教育を行っている年間の時間数に関する質問のうち、各学年で最も多かった回答数は以下の通りになりました。
- 中学1年生:0時間(74.2%)
- 中学2年生:0時間(58.2%)
- 中学3年生:1~5時間程度(44.6%)
- 高校1年生:1~5時間程度(60.9%)
- 高校2年生:1~5時間程度(49.3%)
- 高校3年生:1~5時間程度(47.7%)
出典:金融経済教育を推進する研究会「中学校・高等学校における金融経済教育の実態調査報告書」
なお、この調査は平成26(2014)年に行われたものであるため、現時点の実態とは多少の乖離があるかもしれません。
また、家庭科の先生になるには、大学で教職課程を履修し、家庭科教諭免許状を取得しなくてはいけません。文部科学省のWebページに「家庭科教諭免許状を取得できる短期大学・大学の一覧」が掲載されていますが、筆者が確認したところ、そのほとんどが「生活科学部」「家政学部」「教育学部」などでした。
参照:文部科学省「中学校・高等学校教員(家庭)の免許資格を取得することができる大学」
やる気があるかも先生次第
筆者は、大多数の先生(学校教諭)は「生徒のために、自分ができることはやってみる」という信念をもって日々職務に当たっていると信じています。家庭科の先生だって、それは例外ではありません。しかし、一部マスメディアの報道によれば、現場の家庭科の先生の反応はさまざまです。簡単にまとめると
- 「生徒に教えるためには、まずは自分が理解していないといけないから、証券会社に問い合わせて口座を開設することから始める」という積極的かつ具体的な取り組みをしている人
- 「必要な知識だとは思うものの、実際に授業ではほとんど触れられないと思う」という消極的な姿勢の人
に二分されます。
参照:日本経済新聞「高校家庭科で「投資信託」 22年4月から授業」
自分の子どもが教わる家庭科の先生が「消極的な姿勢の人」だった場合、あまり期待できないかもしれません。
まずは自分の子どもに「お金の勉強」をさせてみよう
ここまでの話をまとめると
- 今、すでに現場に出ている家庭科の先生が、学生時代に「お金の勉強」をしてきた可能性は低い
- 高等学校学習指導要領の改正により、投資信託をはじめとした金融商品についても家庭科の授業で触れる方針が定められても、実際に授業でどれだけ取り上げるかは、個々の裁量に左右される
という2点が浮かび上がります。
売り手も買い手も小学生!「キッズフリマ」ってなんだ?
「お金の勉強は必要、でもしばらくは家庭を中心に取り組まないといけない」―これが現状であるとするならば、まずは家庭で「お金の勉強」をすることを前提に動いた方がよいでしょう。しかし、子どもに「お金の勉強」をしてもらうには、注意が必要です。
そもそも、難しい言葉ばかりを使ったのでは、子どもが理解できず、途中で飽きてしまいます。大人なら、相手への礼儀という意味で我慢して聴いているふりもできるかもしれませんが、子どもにそれを求めるのは酷です。
だからこそ「わかりやすく、かつ、面白く」勉強ができる仕組みを考える必要があるでしょう。そこで参加してみてほしいのが「キッズフリマ」です。
「キッズフリマ」とは
出典:MOTTAINAIキッズフリーマーケット|東京リサイクル運動市民の会
「キッズフリマ」とは簡単にいうと
です。
参加費は300円とごく低額に抑えている上に、会場はショッピングモールの一部など、アクセスのよい商業施設が中心となっています。そのため、気軽に参加できるのも大きな魅力です。
「キッズフリマ」が「お金の勉強」になる2つの理由
次に、なぜ「キッズフリマ」に参加することが「お金の勉強」になるのか、買う側・売る側から見た2つの理由を解説しましょう。
買う側は「お金の使い方」を考えるようになる
「キッズフリマ」が開催されている会場には、大人は同伴することができません。
ただ、家族に何かを買ってもらうのでは「自分でお金の使い方を考えて、実際に使ってみる」体験はできません。
売る側は「お金を稼ぐことの大変さ」を体験する
一方「キッズフリマ」に出店する場合も、基本は子どもだけで事前レクチャーを受け、準備をした後に売買をし、最後の片づけまでを行うことになります。当日を迎えるまでにも
- ルールに沿って、何を売るのかを考える
- 当日、ショップを運営するために必要な機材(ビニールシート、電卓など)を用意する
など、こまごまとした準備が必要です。
「お金の勉強」以外の「キッズフリマ」の効果とは?
「キッズフリマ」は基本的に「お金の勉強(金融経済教育)」の一環として開催されているイベントですが、他にも子どもの今後の人生にとってプラスになる効果がたくさんあります。
その中から以下の3つを紹介しましょう。
コミュニケーション能力が育つ
特に、売る側としてキッズフリマに出店する場合、当日会場にきたばかりの知らない子どもとやり取りをしないといけません。また
- どうやって説明すれば買ってもらえるか
- 無茶な要求をされたらどうやって切り返せばよいか
など、普段の学校ではあまり直面しない状況に対しても、考えて対応する必要があります。
自主性が育つ
「キッズフリマ」の公式Webページには
- キッズフリマは子ども主体の企画であること
- 開催前後にレクチャーを行うが、その際には保護者は会場外で待機すること
- 子どもの自主性に任せる観点から、できるだけ保護者からの声かけは控えること
など、極力、保護者が手伝うのではなく、子どもが自分で考えて動くことが重要である点が明記されています。
参照:MOTTAINAIキッズフリーマーケット|東京リサイクル運動市民の会
実際のところ、子育てをしている人の中には「自主性を育てるのが大事、とは思うけど、具体的に何をすれば良いのかわからなくて」と悩んでいる人もいるかもしれません。
「つくる責任 つかう責任」を実感できる
「キッズフリマ」では、出品する商品についても、一定のルールの中から、子どもが選び、値段を付けていくことになっています。その中には「自分にとっては、もういらないもの」も含まれているはずです。
しかし、当日出品した商品が売れれば「誰かにとっては、これから必要になるもの」であることを無理なく実感できます。このような経験を繰り返すことで、物を大切に扱うことができる姿勢が身につくでしょう。
サービスの運営者様にもお話を聞いてみました!
「MoneQ Guide」においては、これまでにも「子どもへの金融経済教育」という切り口から、様々な企業・団体様のお取組みを紹介してきました。今回紹介した「キッズフリマ」も、いわば「子どもへの金融経済教育」の一環としての取り組みです。
しかし「子どもが主体になって1つの物事を成し遂げる」という形は斬新だったので、運営会社である株式会社HONEYTHINGの赤池様にお話を伺いました。
子どもにとっての一番の学びは「体験してみること」
赤池様から伺った話をもとにまとめたのが、こちらのコメントです。
イギリス、オーストラリアなど、欧米諸国では、日本で言う小学校の時から、基本的な金融経済教育が取り入れられています。いわば「お金の話=学校で当たり前に勉強すること」です。
しかし、日本の場合「お金の話をするのは、卑しいことである」とタブー視する傾向もあるのが実情でしょう。
近年は金融庁や日本証券業協会、日本FP協会などの関係省庁・団体が出張授業を行うなど、少しずつ流れが変わってきていますが、欧米諸国の基準からすればまだまだ不十分だと思います。
金融リテラシー調査など、公的なマネーリテラシーの比較調査においても、日本は上位国に大きく差を付けられているのが現実です。
2023年から高校の家庭科の授業で、投資信託など金融に関する項目を扱うことが学習指導要領で取り入れられることを、新聞やWebニュースで知った人は多いかもしれません。
しかし、小学生の時から基本を学んだわけでもなく、また「お金の話=タブー」とする価値観で育ってきた子どもが、高校生になってからお金や資産について学んでも、実際に役に立つ知識は身につけられないと思います。
「お金の勉強」において大事なのは
- ポジティブな姿勢
- 正面から物やお金の価値と向き合う心構え
であると私どもは考えています。
そういったことを、体験を通じて学び、身につける場所が、まだまだ日本には足りないーそのような思いから、キッズフリマは生まれました。
なお「物やお金の価値と向き合う心構え」について、体験を通じて学び、身につける取り組みとして有名なものに、レモネードスタンドがあります。
これはもともと、小児がんで闘病中だった女の子が「自分と同じような病気の子どもたちのために治療の研究費を病院に寄付したい!」という気持ちで、自宅の庭にレモネードスタンドを開き、販売を始めたというものです。
おこづかい稼ぎをしながら、社会貢献もできるということで、様々なメディアにも取り上げられました。日本でも、小児がん患者とその家族の支援の一環として「レモネードスタンド普及協会」が広報・啓発活動を行っています。
レモネードスタンドと私どもが運営する「キッズフリマ」の根底にある考え方は、きっと同じです。私どもは子どもたちに必要なのは座学ではなく、体験を通じて学ぶことだと考えています。
自分で考えて行動する。失敗してもそこから学べる事も多いはずです。そして小さな成功体験を積み重ねて上手なお金との付き合い方を知って欲しいと思っています。
赤池様、ありがとうございました!「いきなりお店を出すのはちょっと…」という場合は、まずは会場に足を運んでみることから始めましょう。
キッズフリマの公式Webページでは、今後の出店予定や、来場する際の注意点などが詳しくまとめられています。「まずはちょっと出かけてみよう」と思うなら、チェックしてくださいね。
コメント