犬を飼っている人にとっての共通の悩みの1つが「自分の犬が、他の人や犬に吠えたり、噛みついたりすることにより起こるトラブル」です。
特に、噛みついたり、いきなりとびかかったりしてケガをさせてしまった場合、相応の治療費や賠償金を支払う必要も生じてきます。きわめてまれではあるものの、相手になった人や犬が重傷を負ったり、命を落としてしまったりする可能性もゼロではありません。
もし、自分の犬がこのようなトラブルを起こしてしまった場合の責任の所在と、治療費・賠償金の扱いについて、基本的な考えを身に着けておきましょう。
目次
飼い犬が他の人・犬にケガをさせた場合の責任の所在
他の人にケガをさせた場合
まず、飼い犬が他の人にケガをさせた場合の責任は、飼い主にあります。つまり、法的には飼い主の管理不行届でケガをさせてしまったことになるので、刑法第209条の過失傷害罪に問われるのです。
刑法 第209条
1.過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
2.前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
なお、過失傷害罪は親告罪であるため、被害者が訴えない限りは罪に問われません。ただし、被害者が訴え、有罪が確定した場合は、30万円以下の罰金または科料に処せられます。
他の犬にケガをさせた場合
一方、飼い犬が他の犬にケガをさせた場合、人にケガをさせた場合とは違い、過失傷害罪には問われません。ただし、ケガをさせた犬の飼い主から、民事訴訟を提起され、損害賠償を請求されることは十分に考えられます。民法には、以下の規定があるためです。
民法 第718条
1.動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
犬が噛みつく事故は意外に多いので注意
既に触れた通り、犬が他の人・犬にかみついた場合、最終的には飼い主が責任を負います。「うちの子はよくしつけているから、そんなことしない」と思いたい気持ちはわかりますが、犬が噛みつく事故は決して珍しくないという話をしておきましょう。
環境省自然環境局が公表している統計資料「動物愛護管理行政事務提要(令和2年度版)」によれば、令和元(2019)年度に日本全国で発生した犬による咬傷事故(かみつき事故)の件数は4,274件でした。
出典:環境省_統計資料 「動物愛護管理行政事務提要」 [動物の愛護と適切な管理]
一方、一般社団法人ペットフード協会がまとめた「全国犬猫飼育実態調査」の結果によれば、令和元(2019)年に日本全国の犬の推計飼育頭数は879万7,000頭とのことです。
出典:令和元年 全国犬猫飼育実態調査|全国犬猫飼育実態調査|一般社団法人ペットフード協会
これらの数字を用いて、犬が噛みつき事故を起こす確率を考えてみましょう。仮に、1頭の犬が起こす事故は1件のみとして計算すると、
となります。決して高くはありませんが「そんなことめったにないって!」と安心できる水準でもありません。
飼い犬が他の人・犬にケガをさせた場合の治療費・賠償金の扱い
個人賠償責任保険・特約があれば利用すること
仮に、自分の犬が他の人・犬にケガをさせてしまった場合は、誠心誠意謝り、相応の治療費や賠償金を出すのを前提に動きましょう。ここで確認してほしいのが、自分や家族に個人賠償責任・特約に加入している人がいないかどうかです。
住宅ローン返済中であったり、賃貸マンション・アパートに住んでいたりする人の場合は、火災保険に個人賠償責任特約が付帯していることがありますが、全く同じ機能を果たすものと考えましょう。
なお、個人賠償責任保険・特約自体はペットをめぐるトラブルだけでなく
- 子ども同士で遊んでいたら、他の子のメガネを壊してしまった
- 店で買い物していたら、商品を落として割ってしまった
- 街中で立ち眩みを起こし、商業施設のガラスを割ってしまった
など、幅広いトラブルに対応できる保険です。月額数百円から入れるので、まだ加入していない場合は前向きに検討しましょう。
ペット保険の特約も利用できることも
ペット保険によっては、ペットが他の人・動物にケガをさせた場合に補償が受けられる特約)ペット賠償責任特約)を付帯できることもあります。これを利用して、自分の犬が他の人・犬を巻き込むトラブルを起こした場合に備えるのも、選択肢の1つです。
賠償責任が発生しない、支払ができないケースに注意
ペット保険の特約、個人賠償責任保険・特約を問わず、保険には賠償責任が発生しないケースや、賠償責任が発生するものの、保険金・給付金の支払いができないケースが具体的に想定されています。
例えば、アニコム損害保険の場合、賠償責任が発生しないケースおよび発生するものの支払いができないケースについて、以下のように定めています。
賠償責任が発生しないケース | 賠償責任が発生するものの支払いが受けられないケース |
---|---|
・ドッグラン参加中に犬どうしがぶつかった。 ・犬が実際の飼い主(被保険者)ではなく、他の人に預かってもらっていたり、散歩させたりしていた。 |
・飼い犬が噛みついたのが、飼い主や飼い主と同居する家族だった。 |
参照:ペット賠償責任特約について|保険金請求の流れ│ペット保険のご契約は【アニコム損保】
示談がまとまるまでは具体的な金額の約束はしないこと
飼い犬が他の人・犬にかみついてケガをさせたり、他の人のものを壊したりした場合、謝罪した上で話し合いを経て、治療費・賠償金の負担について示談で決めるのが一般的な解決までの流れです。
しかし、個人賠償責任保険・特約やペット賠償責任特約を利用する場合は、保険会社の担当者が調査を行い、法律上の損害賠償責任負担割合を決定します。仮に、この決定が行われるより前に、相手と具体的な金額の話をしてしまったとしましょう。
口約束とはいえ、それに従って治療費・賠償金を払う羽目になるはずです。しかし、この金額が保険会社の調査によって決定した損害賠償責任負担割合とかけ離れていた場合は、超過した分は保険金・給付金支払いの対象外となり、自己負担になってしまいます。
弁護士を立てるのも1つの方法
相手方が冷静さを失い、話し合いがまとまらないことだって十分に考えられます。このような状態で相手方と交渉を進めるのは得策ではありません。
もちろん、相手方が弁護士に依頼した場合は、自分側も弁護士に依頼し、弁護士同士で話し合いを進めてもらいましょう。
かみついた経緯によっては損害賠償責任を負わないことも
自分の犬が他の人や犬にかみついてケガをさせたといっても、そこに至るまでの経緯はさまざまです。もちろん、他の人や犬が何もしていないのに、いきなりかみついたなら、明らかに自分の犬に落ち度がある以上、損害賠償責任を負わなくてはいけません。
しかし、仮に他の人がいたずらをしてきたり、他の犬がいきなり襲い掛かってきたりした場合は、自分の犬だって身を守るためにかみつく必要が出てきます。そのような場合にまで、何もしていなかったときと同じように損害賠償責任を負うのはあまりに酷です。
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