マイホームを購入するために住宅ローンを組む場合や、アパート・マンションなどを賃貸する場合には、融資実行や入居の条件として、火災保険への加入が必須となっているのは珍しくありません。
しかし「具体的にどんな手続きをすればいいのか」までは、はっきりと知らない人の方が多いでしょう。今回の記事では、火災保険を契約する際の具体的な手順を解説しましょう。
目次
ステップ1.火災保険の対象を決める
建物、家財から選ぶ
最初に、火災保険の対象を決めましょう。火災など、対象となる災害やトラブルが起きた場合、何をどこまで補償してくれるかを決めるということです。想定されるパターンとしては
- 建物のみを対象とする
- 家財のみを対象とする
- 建物、家財の両方を対象とする
が挙げられます。建物や家財の具体例を挙げてみました。
建物 | 建物本体、アンテナ、門、扉、車庫など |
---|---|
家財 | 家具、家電製品、衣服など |
自動車は対象にはならないので注意
なお、自動車(自家用車)は建物・家財のいずれにも当たりません。そのため「自宅の車庫に置いてあった車が、自宅の火事が原因で燃えてしまった」など、火災保険の対象となる災害が起きた場合でも、火災保険から補償は受けられないので注意しましょう。この場合は、自動車保険の車両保険により補償を受けることになります。
ステップ2.構造級別を確認する
構造級別の基本
建物は「何でできているか」「どんな工法を用いて建てられているか」によって、火災・災害によるダメージが全く違います。そのため、比較的頑丈な建物であれば火災保険の保険料は安くなるし、逆もまたしかりです。
火災保険に加入する際は、対象となる建物の構造級別に基づき、保険料が算定される仕組みです自分たちで住むだけの家(専用住宅)の場合、構造級別として以下の3つが設定されています。
構造級別 | 建物の種類(材質) |
---|---|
M構造 | コンクリート造建物、コンクリートブロック造建物、れんが造建物、石造建物、耐火建築物の共同住宅建物 |
T構造 | コンクリート造建物、コンクリートブロック造建物、れんが造建物、石造建物、鉄骨造建物、耐火建築物(共同住宅建物以外)、準耐火建築物、省令準耐火建物 |
H構造 | M構造、T構造に該当しない建物 |
一方、自宅の一部を改造してカフェやパン屋を営んでいるなど、店舗併用住宅として利用している建物の場合は、構造級別として1級~3級が設定されています。
構造級別 | 建物の種類(材質) |
---|---|
1級 | コンクリート造建物、コンクリートブロック造建物、れんが造建物、石造建物、耐火被覆鉄骨造、耐火建築物 |
2級 | 鉄骨造建物、準耐火建築物、省令準耐火建物 |
3級 | 1級、2級に該当しない建物 |
わからなければ不動産会社の担当者へ確認を
火災保険の対象となる構造級別がわからない場合は、不動産会社の担当者に確認してもらうのが一番手軽かつ正確です。火災保険の見積もりをしたい旨を伝え、調べてもらいましょう。
ステップ3.補償範囲を決める
不要な補償は外す
名前のせいか、火災保険は「火災が起きた場合のみダメージを補償してくれるもの」と思われてしまいがちです。実際は、火災だけでなく、台風や雪害など、かなり幅広い災害を補償してくれる保険商品となっています。
しかし、補償される範囲が広ければ広いほど、保険料が高くなるのも事実です。
例えば、対象となる建物がマンションの高層階だった場合は、床下・床上浸水をするリスクは極めて低いです。そのため、補償内容がある程度カスタマイズできる火災保険を選び、水災に関する補償を外してしまっていいでしょう。
ステップ4.保険金額を決める
建物の保険金額の決め方
建物の保険金額をどれぐらいにするのかは、最初に建物の価値がいくらぐらいなのかを評価する必要があります。評価基準として使われるのは「新価(しんか)」と「時価(じか)」の2つです。
評価基準 | 説明 |
---|---|
新価 | 新品に建て直すための価額(再取得価額や再調達価額ともいう) |
時価 | 時価 = 新価 - 時間経過による消耗分 |
建物が新築の場合と中古の場合とで、新価を求める際の方法は異なります。
新築の場合 | 中古の場合 |
---|---|
・「建物購入金額=保険金額」として計算する ・消費税から逆算して算出する |
・当時の建築価額に物価変動などを反映して算出する ・簡易評価を行って算出する |
不明な点は不動産会社の担当者に確認しておきましょう。
家財の保険金額の決め方
火災や台風などの災害が起きた場合、家の中にあるもの=家財もダメージを受けます。当然家族が多く、持ち物はも多い場合はそれに見合った補償が必要です。
一方でいわゆる「ミニマリスト」だったり、夫婦2人暮らしだったりした場合は、家財の補償をあまり手厚くする必要はないでしょう。
補償の対象となる家財は?
補償の対象となる家財は、簡単に言うと「普段の生活に使っているもの(生活用動産)」です。また、1点または1組30万円を超える高額な貴金属、美術品などがある場合は「明記物件」として申告することで補償が受けられます。
大まかではあるものの、補償の対象となるもの・ならないものをまとめました。実際に補償の対象となるかどうかは、保険会社に確認しておきましょう。
補償の対象となるもの | 補償の対象とならないもの |
---|---|
・タンスやチェスト、衣類、家電、食器などの生活用動産 ・1点または1組30万円を超える高額な貴金属、美術品など |
・自動車 ・動物・植物 ・通貨およびそれに類するもの(盗難に限り補償される場合あり) ・家財が屋外にあるときにおきた盗難 ・自然の消耗、劣化、性質による変色、さび、かび、腐敗、ひび割れ等によっておきた損害 ・パソコンなどの中にインストールされているプログラムやデータ等 ・仕事で使う什器・商品・備品等(企業型の火災保険であれば補償される) ・建物とみなされるもの ・地震・噴火・津波で被害に遭った(地震保険に加入していた場合は補償される) ・戦争、暴動などの異常な事態や核燃料物質等による事故等 |
不明な点は不動産会社の担当者に確認しておきましょう。
概算額を知りたい場合は?
そうはいっても、家の中に何があるのかを調べて、1つ1つの金額を合計していくのは現実的に不可能です。「大まかでもいいから、うちの場合いくらくらいあればいいのか知りたい」という場合は、保険会社が公開している簡易家財評価表を参考にしましょう。
例えば損保ジャパンの場合、以下の内容の簡易家財評価表(2020年10月現在)が公開されています。
世帯主の年齢/家族構成 | 2名(大人のみ) | 3名(大人2名、子ども1名) | 4名(大人2名、子ども2名) | 5名(大人2名、子ども3名) | 独身世帯 |
---|---|---|---|---|---|
25歳前後 | 490万円 | 580万円 | 670万円 | 760万円 | 300万円 |
30歳前後 | 700万円 | 790万円 | 880万円 | 970万円 | |
35歳前後 | 920万円 | 1,000万円 | 1,090万円 | 1,180万円 | |
40歳前後 | 1,130万円 | 1,220万円 | 1,310万円 | 1,390万円 | |
45歳前後 | 1,340万円 | 1,430万円 | 1,520万円 | 1,610万円 | |
50歳前後 | 1,550万円 | 1,640万円 | 1,730万円 | 1,820万円 |
出典:家財新価一覧 | 家財の補償 | 個人用火災総合保険『THE すまいの保険』 | 【公式】損保ジャパン
ステップ5.契約期間を決める
長期の場合は一括で支払うと保険料が安くなる
個々の保険会社によって扱いに多少の差はありますが、火災保険は1年単位で契約することはもちろん、2年~5年などの長期契約を結ぶことも可能です。
そして、契約期間が長期に渡る場合は、一括で保険料を支払うと、1年あたりの保険料は安くなります。ただし、一度にまとまったお金を用意しないといけない点には注意しましょう。
引っ越す予定があるなら短期契約を基本に
仮に、火災保険を複数年契約したにも関わらず、引っ越しなどの理由で途中解約をせざるを得なくなった場合であっても、利用しなかった分の保険料は戻ってくるので、あまり気にする必要はありません。
しかし、引っ越しが多いなら、何かと済ませなければいけない手続きも多くなるのが事実です。
ステップ6.地震保険を付帯するか決める
都道府県別の加入率は?
火災保険に加入する際に注意すべきなのは「地震が原因で起きた火災や津波については補償が受けられない」ということです。これらについて補償を受けるには、火災保険に地震保険を付加しないといけません。
火災保険への地震保険の付帯率は、都道府県によってかなり異なるのが実情です。損害保険料率算出機構の調査をもとに、都道府県ごとに火災保険への地震保険の付帯率(2019年度)をまとめました。
都道府県 | 付帯率(%) |
---|---|
宮 城 | 87.0 |
高 知 | 86.8 |
宮 崎 | 83.0 |
熊 本 | 82.3 |
鹿児島 | 81.7 |
岐 阜 | 77.7 |
徳 島 | 75.3 |
福 島 | 75.2 |
愛 知 | 74.6 |
鳥 取 | 74.5 |
香 川 | 74.1 |
山 梨 | 73.5 |
秋 田 | 73.3 |
福 岡 | 73.3 |
広 島 | 72.6 |
愛 媛 | 72.4 |
岩 手 | 72.3 |
三 重 | 71.8 |
大 分 | 71.5 |
奈 良 | 70.2 |
栃 木 | 69.7 |
新 潟 | 69.6 |
和歌山 | 67.1 |
青 森 | 67.0 |
静 岡 | 66.8 |
山 口 | 66.7 |
大 阪 | 66.5 |
山 形 | 66.3 |
福 井 | 66.3 |
滋 賀 | 65.7 |
岡 山 | 64.8 |
長 野 | 64.7 |
茨 城 | 64.6 |
兵 庫 | 64.6 |
島 根 | 64.1 |
埼 玉 | 63.4 |
京 都 | 63.1 |
千 葉 | 62.3 |
群 馬 | 62.2 |
神奈川 | 61.9 |
石 川 | 60.7 |
東 京 | 60.4 |
富 山 | 60.3 |
北海道 | 59.1 |
佐 賀 | 58.4 |
沖 縄 | 57.6 |
長 崎 | 52.0 |
宮城県は、2011年3月11日に発生した東日本大震災で深刻な被害を受けた地域の1つです。そのため、火災保険への地震保険の付帯率は87%と、最も高い水準に達しています。2015年4月14日に発生した熊本地震の被災地である熊本県も、82.3%に達している状態です。
自治体が公表しているハザードマップも参考に
一方、最下位となった長崎県は、日本国内でも地震の少ない地域として有名です。それでも、地震保険の付帯率は52.3%に達しています。これは、一定数「地震が起きた場合にも備えたい」と思っている人がいるということでしょう。
結局のところ、地震保険を付帯するかどうかは、個人の判断によるところも大きいです。例えば
- 家が海抜数メートルの地帯にあるため、津波が起きた場合少なからず影響を受ける
- 家の裏にがけがあるため、地震が原因でがけ崩れが起きる可能性がある
- 家が密集している地域に住んでいるため、地震がきっかけで大火災に巻き込まれる恐れがある
など、地震による影響が大きいことが明らかなら、地震保険を付帯したほうが、幅広く備えられるはずです。自治体が公表しているハザードマップなども参考にして、地震が起きた場合のリスクを確認しておきましょう。
ステップ7.情報収集をする
不動産会社が提案したものに入る必要はない
住宅ローンの融資実行や、賃貸住宅への入居の条件として、火災保険の契約を掲げているのは珍しくありません。そのため、不動産会社から提携している保険会社の火災保険を紹介される可能性は高いです。しかし、大事なのは「火災保険に加入しておくこと」であって、不動産会社から提案されたものにそのまま入る必要はありません。
いつまでに契約すればいいかを確認すること
当然、自分で情報収集し、補償内容と保険料のバランスを見た結果、納得がいく火災保険が見つけられたなら、それを選んでもいいでしょう。ただし、気を付けるべきなのは「いつまでに火災保険を契約しておかなくてはいけないか」です。融資実行や物件の引き渡しのスケジュールとの兼ね合いで、具体的な期限がいつになるのかを、不動産会社の担当者に聞いておくといいでしょう。
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