公益社団法人生命保険文化センターが行った「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査」によれば、所得のない妻 =専業主婦の生命保険への加入率は75.3%に達しているとのことです。
出典:公益社団法人生命保険文化センター「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査」
「自分に万が一のことがあった場合に、家族が困らないようにしたい」という気持ちから、生命保険に加入したり、医療保険に死亡保障を付帯したりすること自体は理解できます。
しかし、無駄とまでは言いませんが「保険料の支払いで大変な位なら、無理をして入らなくてはよいのでは?」というのが、筆者の「専業主婦が生命保険に入る」ことに対しての考えです。
そこで今回は
- 専業主婦が生命保険に入るのは無駄な理由
- 生命保険に入る代わりに取るべき対策
の2つについて解説しましょう。
目次
専業主婦が生命保険に入るのは無駄な理由
家計を支えているわけではないから
「無駄」は言い過ぎかもしれませんが、専業主婦にとって生命保険が必須ではない理由の1つに「家計を支えているわけではないから」が挙げられます。
もともと、生命保険は「家計を支えている人にを万が一のことが起きたり、重い障害を負って働けなくなったりした場合に、家族の生活を保障する」ための保険です。
仮に専業主婦である妻に万が一のことがあったとしても、それをきっかけに夫が仕事を辞めでもしない限りは、収入が途絶えることはない以上、重要度が低いのも事実でしょう。
遺族基礎年金を受け取れることがあるから
また、専業主婦であった妻が死亡した場合、以下の条件を満たせば遺族基礎年金を受給することができます。
- 夫の年収が850万円以下である
- 一定の条件に当てはまる子どもがいる
なお、子どもはいずれかの条件を満たす必要があります。
- 18歳になった年度の3月31日を経過していない
- 20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の認定を受けている
要するに「高校を卒業する前の子どもがいた」場合は、夫の年収次第では遺族基礎年金を受け取れると考えましょう。
なお、遺族基礎年金の年額は以下の計算式で求められます。
子の加算額は
- 1人目および2人目の子の加算額:224,700円
- 3人目以降の子の加算額:1人増えるごとに74,900円
となるため、仮に一人っ子だった場合は
が受け取れると考えましょう。
生命保険に入る代わりに取るべき対策は?
生命保険の保険料分は貯蓄に回す
実際のところ、専業主婦が生命保険に入るべきか(もしくは、医療保険に死亡保障を付帯するか)は、本人や家族の考え方にもよるので、統一された正解はありません。
しかし、夫が生命保険に入るときのように、数千万円もの死亡保険金が受給できる契約にする必要はないでしょう。死亡保険金の金額が高くなればなるほど、保険料もやはり高くなるため、家計への負担が避けられないのも事実だからです。
まずは、独身時代に入った生命保険や医療保険の内容を見直し、死亡時に支給される死亡保険金の金額を確認しましょう。数千万円にも上っていたなら、死亡保険金の額を下げる契約に変更してもらえないか、保険会社の担当者に確認するのをおすすめします。
なお、終活関連サービス提供会社・鎌倉新書が行った「第4回お葬式に関する全国調査(2020年) 」によれば、葬儀の平均金額(葬儀費用・飲食費・返礼品の合計額)は約184万円とのことでした。
出典:【速報!】第4回お葬式に関する全国調査(2020年) 平均費用や選ばれた葬儀の種類、会葬人数まで、幅広いデータを速報値で開示|株式会社 鎌倉新書のプレスリリース
「死亡保険金は自分に万が一のことがあった場合のお葬式の費用に充てられる額で十分」と考えているのであれば、生命保険や医療保険の死亡保障で用意する額は、多少余裕を持って見積もっても300万円程度あれば問題ないでしょう。
医療保険や収入補償保険への加入を検討する
むしろ、専業主婦かつ子どもがいる場合、重視すべきなのは「病気やケガで家事・育児がままならなくなった場合の対応」です。
前提として、日本では「国民皆保険」といって、全員が何らかの公的医療保険に入る決まりになっています。この仕組みがあるため、仮に病気やケガで医療機関を受診したとしても、実際にかかった医療費の一部を負担すれば良いのです。
また、がんなどの重い病気にかかり、1カ月に払う医療費が高額になった場合でも、高額療養費制度を使うことで自己負担分を一定額に抑えることはできます。
そのほかにも、病気やケガをした場合に使える公的制度はたくさんあるので、まずはこれらをフル活用することを考えましょう。
一方、これらの公的な制度では賄いえないものがあります。それは「家事や育児を誰かに頼む費用」です。
子どもが小さいうちに長期の療養が必要なケガ・病気をした場合「誰が家事や育児を担当するのか」が問題になります。お互いの家族や友人・知人を頼れるなら頼った方が良いですが、相手にも仕事や家庭がある以上、毎日頼むのは現実的ではありません。
また、「傷病により療養が必要であるため、自宅保育が困難である」という診断書を入手した上で、保育園に入れないかを考える必要もありますが、常に空きがあるとは限らないのも事実です。
そのため、状況に応じて、ベビーシッターや家事代行を頼み、少しでも家族の育児・家事の負担を減らした方が良いでしょう。
がんへの備えは自由診療保険を使うことも視野に
また、案外軽視できないのが「若いうちにがんにかかった場合の治療費用」です。がんならではの特殊な事情として
- 長期に渡る治療・経過観察が必要である
- 状況によっては、公的医療保険が適用されない治療(国内では未承認の抗がん剤の使用など)も選択肢に入れなくてはいけない
ことが挙げられます。
公的医療保険が適用される治療であれば、高額療養費制度の適用を受けられるため、自己負担額が莫大になることは基本的にありません。
しかし、公的医療保険が適用される治療で効果が出なかった場合、主治医との話し合いの上で、国内では未承認の抗がん剤の使用も視野に入れて治療方針を決めることになります。
承認は受けていないものの、医師が必要と判断し、所属している医療機関の倫理審査委員会による審査を通過すれば、使用することはできますが、費用は全額自己負担となる上に、高額療養費制度の適用も受けられないため、患者側の経済的な負担は相当なものになります。
例えば、卵巣がんの治療に用いる「ニラパリブ」という抗がん剤がありますが、これはアメリカのFDA(食品医薬品局、日本の厚生労働省に相当)による承認は既に受けているものの、日本の厚生労働省による承認は受けていません。
仮にこの抗がん剤を治療に使う場合、薬剤費だけで毎月約200万円かかります。実際はこれに投薬料(薬を処方するための料金)や注射量(点滴を行うための料金)などが上乗せされる仕組みです。
参照:厚生労働省「国内で医薬品医療機器法上未承認または適応外である医薬品等のリスト(2020年4月30日時点のデータ)(承認年月日順)」
子どもの成長や家族の変化に合わせて定期的に保険を見直す
また、これは専業主婦に限った話ではありませんが、生命保険を含めた保険は、子どもの成長や家族の変化に合わせて定期的に見直しましょう。
子どもが大学を卒業し、社会人として働き始めれば、多額の死亡保険金も不要になるはずです。一方で、夫(パートナー)が体調を崩し、働くことがままならなくなった場合は、妻が働いて家計を支えることも選択肢になるでしょう。
そのような場合は、妻に万が一のことがあった場合に備えて死亡保険金の額を増額するなどの対応も視野に入れる必要が出てきます。
「今の我が家には、何が必要か」を常に意識して、保険も柔軟に見直すようにしましょう。
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