ソフトバンクやサイバーエージェント、コニカミノルタやレノボ・ジャパンなど数多くの有名企業が一定の条件の下での副業を解禁するなど、「会社に勤めながら副業をすること」に対し、世の中は寛容になりつつあります。
詳しくは後述しますが、厚生労働省も企業が就業規則を作成する際の参考になる指針として用いる「モデル就業規則」において、副業・兼業を容認する条項を盛り込むなど、これまでの「副業・兼業は原則禁止」という流れは、「副業容認」の流れへと着実に変わっているでしょう。
その一方で、様々な事情から副業を禁止している企業も多いのが実情です。そこで今回は
- 会社が副業を禁止する理由
- 会社に発覚した場合のペナルティ
について解説します。
目次
会社が副業を禁止する4つの理由
社員の長時間労働を助長してしまう
働き方改革関連法が成立し、大企業では2019年4月1日から、中小企業では2020年4月1日から施行されています。
参照:「働き方改革」の実現に向けて-政省令告示・通達 |厚生労働省
細かい部分はここでは割愛しますが、この法律が成立・施行された大きな目的の1つに「社員の長時間労働を防止すること」があります。
企業の規模を問わず、過労が原因でうつ病や心筋梗塞など、長期の療養・休職・退職を余儀なくされる病気になったり、自ら命を絶ってしまったりする社員がいたことも無関係ではありません。
話がそれましたが「社員に長時間労働をさせないようにしよう」という姿勢を掲げているにも関わらず、副業を容認したのでは、結果として長時間労働に走ってしまう社員が出てしまい、何の解決にもならないでしょう。
このような背景から、社員への副業を解禁しない企業も一定数存在するのが実情です。
労働時間の管理・把握が困難
そもそも、企業には安全配慮義務があります。簡単に言うと「従業員が安全かつ健康に労働できるよう、相応の配慮を払わなくてはいけない」ということです。
労働契約法
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
そして、安全配慮義務の一環として、労働時間の管理も重要な経営上の課題となります。なお、先ほど触れた働き方改革関連法によれば、法律上、時間外労働の上限は原則として「月45時間・年360時間」となり、臨時的な特別な事情がなければ、これを超えることはできません。
しかし、社員に対して副業を解禁してしまうと「一体この人は週何時間働いているのか」を把握するのが困難になります。
労働時間の管理・把握が難しくなる以上、適切に管理できる体制が整うまでは、社員への副業の解禁を見送る企業が出ても何ら不思議ではありません。
情報漏えいのリスクがある
会社員として働く場合、在籍している企業に対し秘密保持義務を負うのは全く珍しくありません。簡単に言うと「仕事上で知ったことを口外してはいけない」ということです。
わかりやすい例としては、高級ブランドの店舗で働いている人が、SNSで「今日、〇〇〇〇さんがうちの店に来た」などと書くことは、明らかに秘密保持義務に違反しています。もちろん、本人および所属事務所から許可があった場合はこの限りではありません。
そして、副業を認めた場合、会社勤めだけをしている時と比べてより多くの人と仕事を通じて関わることになります。実際、秘密が漏洩するかは本人のモラルや副業先での人間関係にもよるので「副業をしたから会社の秘密が世に出てしまう」とは限りません。
しかし、業種によっては会社の業務を通じて知った秘密が外部に流出することで、会社はもちろん、取引先や地方自治体・国に深刻なダメージを及ぼすおそれがあるのが事実です。ダメージを最小限に抑えるという意味で、副業を認めない企業があっても不思議ではないでしょう。
競業避止義務違反になる
入社・退社時に、会社と「〇年間は同業他社に転職しない」といった誓約書への署名を求められた人もいるかもしれません。これは、競業避止義務を鑑みた取り扱いです。
競業避止義務を負わせる理由の1つに「機密情報を知っている社員によって、社外に情報が漏れたり、ノウハウを使って同業種で起業して事業を始めたりすることで、企業が損害を被らないようにする」ことが挙げられます。
しかし、副業を無条件に解禁してしまうと「同業他社でアルバイトする」ということも(理論上は)できてしまう恐れがあるため、損害を被らないようにする観点から「副業は原則認めない」という姿勢を貫いている会社もあります。
副業が会社バレした場合のペナルティは?
そもそも法律ではどう定められているのか
ここからは、副業が認められていない会社で働く従業員が無断で副業をし、何らかの理由で発覚した場合、ペナルティを受けることはあるのかについて考えてみましょう。
この話題について考えるためには、法律でどのように定めがあるのかをまずは知った方が良さそうです。
憲法との関連では
憲法においては、国民に対して職業選択の自由を保障しています。
日本国憲法
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
このような条文があることを考えると、そもそも「社員が副業したら即解雇」といった極端な規定を就業規則に盛り込むことは、職業選択の自由を侵害しているものとして、効力が否定される可能性が極めて高いです。
民法・商法・労働法との関連では
実際のところ、民法・商法・労働基準法など、会社を経営していく上での判断基準となる法律においても、副業に関する一般的なルールは定められていません。
このため、会社もある程度は雇用の自由を有しているはずであり、その一環として副業を禁止することはできるでしょう。
しかし、会社の権限が及ぶのはあくまで「職場内での職務遂行に関すること」が前提であるため、職場外では労働者の私生活が尊重されるべきです。
また、すでに触れたように職業選択の自由が憲法上権利として保障されているため「会社に損害を与えることが明らかである」場合を除き、一律に副業を禁止するのは難しいと考えられます。
就業規則に定めがあるかが1つの基準
実際のところ、副業をしたところで会社からのペナルティがあるかどうかは、就業規則において副業がどのように扱われているかが1つの基準となります。まずは、自分が勤務している会社の就業規則を確認してみましょう。
なお、常時10人以上の労働者(正社員はもちろん、契約社員・派遣社員、パート・アルバイトを含む)を使用している事業場では、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出ないといけません。
また、社員が必要な時にいつでも閲覧できるようする必要もあります。
- 誰でも閲覧できる棚にしまう
- 書面で全社員に配布する
- 全社員がアクセスできるクラウドサービス、共有サーバーにPDFファイルとして保管する
など、その会社の実情に合った方法を取れば構いません。
なお、会社が閲覧させてくれない場合は、労働基準監督署に「就業規則閲覧申請書」を提出すれば、日を改めて自分で確認することができます。
5種類の懲戒処分
ここから先は「就業規則に副業禁止の規定があったにも関わらず、会社に無断で副業をし、何らかの理由でそれが発覚した」ケースを想定しましょう。
このような場合は、会社は就業規則に従って懲戒処分を行うことになります。処分の種類を表にまとめました。なお、数字が大きくなればなるほど、重い処分と考えてください。
No. | 処分の種類 | 内容 |
---|---|---|
1 | 戒告・けん責 | 将来を戒める |
2 | 減給 | 賃金から一定額を差し引く |
3 | 出勤停止 | 就労を一定期間停止する |
4 | 降格 | 制裁的に役職・等級を引き下げる |
5 | 諭旨解雇 | 期限内に退職届を提出するよう勧告し、期限内に退職届を提出しない場合は自動的に解雇する |
6 | 懲戒解雇 | 従業員との間の労働契約を一方的に終了させる |
実際はケースバイケースで判断される
既に触れた通り、実際のところは、憲法で「職業選択の自由」が認められている以上、会社も「副業をしていたこと」を理由として簡単に諭旨解雇や懲戒解雇などの重い処分を下せる可能性は低いです。
なお、過去の判例において「副業禁止を理由にした懲戒処分を下しても良い」と判断された具体的なケースをいくつか紹介しておきましょう。
- 労務提供上の支障をきたす程度の長時間の二重就職
- 競業会社の取締役への就任
- 使用者が従業員に対し特別加算金を支給しつつ残業を廃止し、疲労回復・能率向上に努めていた期間中の同業会社における労働
- 病気による休業中の自営業経営
これを見ている限りでは「週末だけ、ピンチヒッターとして親族が経営する飲食店を手伝った」など、きわめて短時間であり、本業に支障をきたす可能性も低い副業であれば、そもそも懲戒処分を下す対象にもならない可能性が高いです。
また、筆者の周囲には「公認会計士試験受験生時代にお世話になった予備校で、都合がつく週末だけアドバイザーを依頼されたため、会社に副業として行って良いか打診したところOKがでた」という話もありました。
実際のところ、副業NGの会社でも、内容によってはOKというケースもあるので、個々の事情・状況に照らし合わせて判断することになるでしょう。
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