日本の場合、妊娠・出産は病気ではないという解釈がなされるため、基本的に公的健康保険は利用できません。しかし、妊娠・出産となると検診・分娩でかなりのお金がかかるのも事実です。そのため、経済的負担を和らげるための制度として、出産育児一時金と出産手当金が設けられています。
どちらにも「出産」という言葉が入っているため、混同してしまいがちですが、実際は全く違う制度です。基本的な違いを押さえた上で、給付金額の決まり方と申請方法を理解しておくといいでしょう。
出産育児一時金とは
出産育児一時金とは、国民健康保険や本人・配偶者が加入している健保組合・共済組合から支給される一時金とのことです。
給付金額
出産育児一時金は、妊娠4カ月(12週)以上での出産等(中絶、流産、死産も含む)をした人に対して支給されます。22週以上での出産等であれば、42万円が支給される仕組みです。
給付金額が多くなるケース
多胎出産(双子、三つ子など)の場合「子どもの人数 × 42万円(もしくは40万4,000円)」が支給されます。例えば、双子を出産した場合は84万円( = 42万円 × 2人)です。
給付金額が少なくなるケース
妊娠12週以上22週未満の出産等の場合、40万4,000円の支給となります。また、22週以降であっても、産科医療補償制度に加入していない医療機関で出産等をした場合も、支給額は40万4,000円です。
自身が検診・出産する予定の医療機関が、産科医療補償制度に加入しているかどうかは、公式Webページから調べられます。
申請方法
出産育児一時金の申請方法は、大きく分けると次の3つです。
直接支払制度
流れは以下のようになります。
- 医療機関と代理契約合意文書を交わす
- 病院が支払機関を経由し、加入している健保組合(国民健康保険の場合は市区町村)に請求する
- 健保組合・市区町村から支払機関を経由し、病院に出産育児一時金が支払われる
なお、医療機関に支払うべき金額が42万円(もしくは40万4,000円)を上回った場合は、被保険者が差額を医療機関の窓口で支払います。逆に、下回った場合は、差額が健保組合・市区町村から被保険者に支払われます。
分娩を受け付けているほとんどの医療機関は、この方式を採用しています。
受取代理制度
もし、出産する予定の医療機関が小規模届出医療機関に当てはまる場合は、受取代理制度を使うことになります。流れは以下の通りです。
- 受取代理用の申請書に医師の証明をもらう
- 出産予定日の2カ月前以降に健保組合・市区町村に事前申請を行う
- 医療機関が健保組合・市区町村に対して出産育児一時金の請求を行う
- 健保組合・市区町村に対し、出産育児一時金が支払われる
なお、出産育児一時金と実際に請求される医療費との間に差額が生じた場合の扱いは、直接支払い制度と同じです。
産後申請制度
特に、医療機関が医療費のクレジットカードでの支払いに対応している場合、この方法を使うとクレジットカードのポイントが貯められるので、節約に役立つはずです。
しかし、この方法を使う場合は、事前に医療機関に「直接支払制度(受取代理制度)を利用しない」旨をあらかじめ伝えなくてはいけません。また、クレジットカード会社によっては、医療費の支払い分についてはポイントの付与を行わないという規定を設けていることもあるので、事前に確認しましょう。
出産手当金とは
給付の条件・金額
次に出産手当金が受け取れる条件と金額についても、細かく確認しましょう。
給付の条件
出産手当金を受け取るためには、次の条件をすべて満たさないといけません。
勤務先の健保組合・共済組合に加入している
一方、正社員に限らず、契約社員やパート・アルバイトであっても、勤務先の健保組合に加入しているなら、出産手当金を受け取ることができます。
妊娠4カ月以降の出産等である
先ほどの出産育児一時金と同様、妊娠4カ月以降に出産・流産・死産・中絶した場合に支給されます。
出産のために休業している
出産手当金は、出産して働けない間の生活を保障する意味合いで支給されるものです。そのため
- 出産前後の給料をもらっていない
- 出産前後の給与の支給額が出産手当金より少ない
人でないと受け取れません。
退職した、退職予定の場合は注意
既に会社を退職したり、出産を機に退職したりする予定であっても、一定の条件を満たすことで出産手当金の支給が受けられる可能性があります。
退職日まで継続して1年以上健康保険に加入している
退職までの勤続期間が継続して1年以上であれば、まず問題なく出産手当金を受け取れます。しかし、半年勤務して一時退職し、また半年勤務したという場合は「継続して」の条件を満たさないので、出産手当金は受け取れません。
出産手当金の支給期間内に退職している
出産手当金には、支給期間が設定されています。次の式で計算しましょう。
例えば、出産予定日が2021年3月1日だった場合で、実際に出産したのが2021年3月3日だった場合は
- 出産予定日前42日:2021年1月18日
- 出産予定日から遅れた出産日までの日数:2日
- 産後56日:2021年4月28日
となります。
まずは人事・総務担当者に相談を
出産を機に退職を考えている場合は、これらの2つの条件を満たすよう、退職日を設定すると出産手当金が受け取れます。
また、既に退職してしまった場合でも、これらの条件を満たしていれば、後から出産手当金を申請することもできます。こちらについても、人事・総務担当者に連絡してやり取りを進めましょう。
給付金額
出産手当金は
で計算されます。また、1日あたりの金額は
で計算されます。
計算例
例えば、支給開始日以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額が30万円だったとしましょう。
先ほどの計算例でも用いた
- 出産予定日:2021年3月1日
- 実際に出産した日:2021年3月3日
- 出産予定日から出産日までの日数:+2日
をここでも用いて、もらえる出産手当金を計算します。
申請方法
出産手当金は、自分から手続きをしないと受け取れません。制度上は、出産前と出産後の分を別々に申請することもできますが、実際は出産後にまとめて申請することが多くなっています。
手続きの基本的な流れ
所属している健保組合・共済組合によって多少の差はありますが、手続きの基本的な流れは以下の通りです。
- 出産手当金を使いたいことを職場の担当者に伝える
- 健康保険出産手当金支給申請書を受け取る
- 必要書類を確認・準備する
- 産後に必要書類を提出する
なお、必要書類ですが、一般的には次のものを用意するよう指示されることが多いです。
- 健康保険出産手当金支給申請書(病院・医院と事業主に必要事項を記入してもらう)
- 健康保険証(写し)
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