筆者が小さいころ「マルサの女」という映画が流行りました。簡単に言うと、国税庁査察部に所属する女性査察官と脱税をしている人とのバトルを描いた映画です。この映画の影響か、税務調査に対して「ごく限られた一部の人にしか関係のないこと」と考えてしまう人もいるかもしれません。
しかし、実際は脱税をするつもりはなくても、税務調査が入ることは十分にあり得ます。もちろん、自分のところに税務調査が入ったとしても、聞かれたことに答えていれば何ら問題はありません。そして、いわゆるフリーランス(個人事業主)であっても、税務調査が入ることは十分にあり得ます。今回は、税務調査のターゲットにされるフリーランスの特徴についてまとめてみました。
税務調査とは
2種類の税務調査
一口に税務調査と言っても、目的や税務調査に至るまでの背景に応じて、さらに次の2種類に分けられます。
任意調査 | 原則として、事前に連絡があり、日程などをすり合わせた上で行われる税務調査のこと。提案された日程で都合がつかない場合は変更も可能。※ただし、飲食店などの現金商売を行っている場合、ありのままの事業実態を確認するために抜き打ち検査が行われることもある。 |
---|---|
強制調査 | 脱税の隠蔽工作が悪質である案件、あるいは脱税額が1憶円を超えている案件で、実際に裁判所の令状を取った上で行われる税務調査のこと。脱税行為が特定されれば検察庁に告発され、刑事事件として処理される。 |
筆者が冒頭で触れた「マルサの女」は、強制調査の現場を描いたものです。実際にフリーランスが税務調査を受ける場合は、任意調査であることがほとんどと考えましょう。
「任意」であっても実態は義務
ただし、任意調査であっても、実際は義務であることには注意が必要です。税務署の職員は「質問検査権」を有しているため
- 質問には答えないといけない
- 「帳簿を持ってきてほしい」など頼みごとをされた場合は応じないといけない
決まりになっています。
特徴1.申告をしていない
取引先に税務調査が入ったらバレる
ここからは具体的に、ターゲットにされるフリーランスの特徴について考えましょう。真っ先に狙われるのは「申告をしていない」フリーランスです。
2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響で緊急事態宣言が発令されたことに伴い中断したという特殊な事情がありました。しかし、このような特殊な事情がまだなかった平成30年事務年度(つまり、2018年7月1日から2019年6月30日まで)においては
- 法人税に関する税務調査:99,000件
- 所得税及び消費税に関する税務調査:610,655件
が行われているのです。
出典:国税庁「平成30事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」
これだけ税務調査が行われている以上、自分の取引先にも税務調査が入ることは十分に考えられます。そして、自分の取引先は適切な帳簿を付け、申告を行っていたにも関わらず、自分は適切な帳簿も付けていなければ申告もしていないということであれば、税務署としても「なぜ、そういう話になっているのか」を調べるしかないのです。
【対策】期限通りに申告する
申告をしていないことが原因で税務調査に入られないようにするためには、まずは期限通りに申告するという最低限の義務は果たしましょう。仮に、税務調査で申告漏れを指摘された場合は、状況に応じてペナルティを払わなくてはいけません。ペナルティとして課せられる税金および税率をまとめました。
名称 | 概要 | 税率 |
---|---|---|
無申告加算税 | 申告書を申告期限までに提出しなかった場合に課される | 自主的な期限後申告:5% 納税額のうち50万円までの部分:15% 納税額のうち50万円を超える部分:20% |
過少申告加算税 | 申告期限内に提出された申告書に記載された納税額が過少であった(本来の金額より少なかった)場合に課される | 追徴税額と50万円とのいずれか多い金額までの部分:10% 追徴税額と50万円とのいずれか多い金額を超える部分:15% |
不納付加算税 | 源泉所得税を納付期限までに納付しなかった場合に課される | 自主的な納付:5% 税務署からの告知を受けての納付:10% |
重加算税 | 事実を仮装隠蔽し申告を行わなかった場合、又は仮装に基づいて過少申告を行った場合に課される | 過少申告加算税に代えて課す場合:35% 不納付加算税に代えて課す場合:35% 無申告加算税に代えて課す場合:40% |
特徴2.申告書が間違いだらけ
会計ソフトの性能は上がっているものの
申告書を出さないよりははるかにましですが、たとえ申告書を期限通りに出したとしても、間違いだらけなら、やはり税務署としては「どうしてこんなことになっているのか」を調べざるを得ません。
近年は専門的な知識がなくても導入が容易で性能も良く、しかもお手頃な値段の会計ソフトも多く出回っていますが、それでも最初の設定を間違ってしまったり、入力ミスを繰り返してしまったりすれば、出来上がる申告書はめちゃくちゃになってしまいます。
【対策】税理士に頼む
お金はかかりますが、間違いだらけの申告書を提出するミスは確実に減らせます。また、税理士に申告書を作ってもらった場合、税理士が自ら署名押印をしますが、税務署側も「税理士が作っているのだから、大丈夫だろう」と信頼して処理を進めていくのが実情です。100%大丈夫と断言はできませんが、自分であれこれ悩みながら対応するよりは、はるかに安心できます。
特徴3.売上が急激に伸びた
事業規模が伸びれば、色々なことが変わる
フリーランスであっても、あるタイミングで取引先が一気に増えたり、大型案件を受注できるようになったりした場合は、売上が急激に伸びることはもちろんあります。そのため、広いオフィスを借りたり、新しくスタッフを雇ったりなど、社内体制の整備をしなくてはいけません。
このように、急激に売上が伸び、結果として経費もかさんだ場合、税務調査が入ることがあります。
【対策】売上が伸びた理由・経緯を説明する
もちろん、税務署としては「売上が一気に伸びたり、経費がかかったりした理由を知りたい」だけなので、税務調査ではその理由や経緯を説明すれば良いだけです。できれば、事前に税理士と打ち合わせをし、必要な情報の整理をしておきましょう。実際に税務調査が始まると、関連する書類を出すよう求められたり、理由や経緯について詳しいヒアリングが行われたりするためです。
特徴4.売上を過少申告している
取引先が発行する支払調書で調べられる
企業は、フリーランスのライターなど、外部の専門家に業務を委託し、報酬を支払った場合は、支払調書を作成し、管轄する税務署長に提出しなければなりません。つまり、取引先が自分にどれだけ報酬を支払ってくれたのかも、税務署には筒抜けになっています。それにも関わらず、売上を過少申告した場合「特定の取引先から受け取った報酬を隠蔽している」という疑いをかけられるのです。
【対策】過少申告はしない
取引先との金銭を含めたやり取りは記録し、支払調書が届いていなければ送ってもらうなど、情報を漏れなく整理する癖を付けましょう。「いやいや、自分はマメじゃないから無理」と思うのであれば、いっそ税理士に頼んだ方がトラブルは避けられます。
特徴5.経費に不審な点がある
あまり関係のない項目が多いと突っ込まれる
数年前、非常に有名なお笑い芸人の人が、個人的な旅行代や洋服代、アクセサリー代などを自身の事務所の経費として計上していたことで、1億円を超える申告漏れを指摘された上に、芸能活動の自粛に追い込まれるという事態にまで発展しました。
わからないから「雑費」にしておくのもNG
また、自身の仕事に関係がある出費であったとしても、帳簿にどのように記録していいのかわからないという理由で「雑費」として処理するのはおすすめできません。税務調査では「この費用は、どのような経緯で、何のために出したのか」についても調査されます。そのため「雑費」として処理されている金額については、このあたりの事情についても詳しく調査が行われるので、注意が必要です。
【対策】どこまで経費にして良いのか考えて動く
何をどこまで経費にして良いのかは「売上を上げるのに直接必要か(経費性)」という基準で判断されます。例えば、フリーランスのライターであれば、取材のために旅行に行った場合、その旅行にかかった費用も経費として計上できるでしょう。旅行に行かなければ記事が書けない=売上に結びつかないからです。
コメント