ファイナンシャルプランナーとして仕事をしていると、お金に関連するトピックにはどうしても目が行きがちになります。その中で、時たま見かけるのが「貯金不要論を唱える人」です。詳しくは後述しますが「自己研鑽や経験にお金を使うべきだよ」「日本は社会保障制度が充実しているから何とかなるって」など、その人なりの言い分があるようです。
それでも、筆者は最低限の貯金は用意しておくべきだと考えます。今回は
- 貯金不要論を唱える人の言い分
- それでも最低限の貯金は用意しておくべき理由
の2つについて解説しましょう。
目次
貯金不要論を唱える人の2つの言い分
自己研鑽や経験にお金を使ったほうが良い
貯金不要論を唱える人の言い分の1つに「自己研鑽や経験にお金を使ったほうが良い」が挙げられます。つまり
- セミナーや通信教育を受講し、新しい知識をインプットする
- どこかに旅行したり、人に会ったりして見識を深める
ことの方が、知識や技術、様々なものの見方を身につけられるため、結果として将来の収入増につながると考えているのです。
日本は比較的社会保障制度が充実している
もう1つの言い分としてよくあるのが「日本は比較的社会保障制度が充実しているから、最悪無一文になっても暮らしていける」です。確かに、医療面1つとっても、国民皆保険といって、日本に住んでいる(住民票がある)なら、基本的には何らかの公的医療保険に入る仕組みになっているため、比較的安価に治療が受けられます。
生活保護を受けることなった場合は、公的医療保険には入れなくなりますが、医療扶助という形で治療を受けることは可能です。アメリカのように、国民全員を対象にした公的医療保険がない国と比べれば、かなり恵まれているのは確かでしょう。
それでも最低限の貯金を用意すべき4つの理由
急な状況の変化が生じた場合に耐えられない
「貯金不要論」を唱える人の言い分は、まったく支離滅裂というほどのものではありません。しかし、それでも筆者は最低限の貯金は必要だと考えています。
その理由の1つとして挙げられるのは「急な状況の変化が生じた場合に耐えられない」です。例えば
- 自分が病気・ケガで働けなくなり、収入が1円も入ってこなくなった
- 家族が病気・ケガで長期間にわたる療養・介護が必要になり、多額の医療費やその他の諸経費が生じている
- 東日本大震災クラスの災害に巻き込まれ、自宅や家財がすべてダメになった
- 新型コロナウイルス感染症など、長期に渡る感染症の流行の影響で、自分の勤務先が大幅な給料カット、人員削減を行うことになった
など「明らかに収入は減るのに、支出が増える出来事」が起きた場合、貯金が1円もないのでは、その状況を打開できないでしょう。
「それなら、お金を借りればいいじゃない」と思うかもしれませんが、収入が大幅にダウンしたり、仕事を失ったりした状態では、そもそも継続安定して返済できるだけの支払能力があるとは言えません。
自己研鑽や経験にお金を使っても収入はすぐに上がらない
筆者も、自己研鑽として資格の勉強や読書をしたり、経験のために知らない人とも積極的にやり取りをしたりするようにはしています。確かに、今後仕事を続けていくためには、着けにインプットをする大切さは痛感しているところです。でもそれはあくまで「自分の身の丈に合った範囲」で取り組むべきことであり、貯金をゼロ円にしてまでやるほどのことではないと思っています。
そして、自己研鑽や経験にお金を使ったところで、それがすぐに収入アップに結び付くとは限りません。仕事の成果につなげていけるかは、本人の努力や運、タイミングに左右される部分も大きいです。
そうやっていう人だって「生活費の1年分」は貯めている
また、これはあくまで筆者の意見ですが「自己研鑽や経験にお金を使うのが大事。貯金はしなくていい」という人でも、何らかの理由で働けなくなった場合でも生活に困窮しないよう、半年分から1年分の生活費は貯めていることがほとんどです。
社会保障制度がすべて使えるとは限らない
北欧などの福祉が進んだ国家にはひけをとりますが、日本も公的な社会保障制度はそれなりに充実しています。しかし、これらの制度には、厳密な条件が設けられているため、単に「貯金がゼロ円の状態で失業したから使いたい」という気軽さでは使えそうもない点に注意しましょう。
生活保護を受けるのも簡単ではない
公的保障制度の中で、比較的有名なものの1つに生活保護があります。厚生労働省の定義によれば
生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的
としている制度です。しかし、生活保護を受けるためには、かなり高いハードルが設けられています。
少なくとも、以下の4つをすべて試してダメだった場合にしか、生活保護を申請することはできないと考えましょう。
- 資産の活法:預貯金、生活に使っていない土地・家屋などがあればすべて売却して生活費に充てること
- 能力の活用:働くことが可能なら、その能力に応じて働くこと
- あらゆるものの活用 :年金・手当などほかの制度で給付を受けられる場合は、まずはそれらを優先して活用する
- 扶養義務者の扶養: 金銭的に頼れる親族がいる場合は、まずはその人から援助を受ける
貯金の額は社会的信用の尺度になる
最後はやや感情論に踏み込んだ理由です。より砕けた言い方をすれば、「いい年して貯金ゼロ?ちょっと待ってその人大丈夫なの?」と異性(同性からも)から思われても仕方がない、といったところでしょう。「もしかしたら、貯金をできない後ろめたい事情がある(ギャンブル、他人との金銭的トラブル、浪費など)があるのかも」というレベルまで深読みをする人もいます。
婚活・結婚を視野に入れるなら「0円」はかなり厳しい
リゾートウエディング手配会社大手・ワタベウエディングが行ったアンケート結果を紹介しましょう。「あなたが相手(パートナー)がいる場合、相手に求める貯金額は?」という質問に対し、アンケートに参加した人は以下のように答えました。
出典:「貯蓄の日に関するアンケート調査 」を発表 自分の結婚のために貯蓄している人は約4割|リゾ婚Lab|挙式・結婚式・ウェディングなら【ワタベウェディング】
まず、男女ともに最も多かった答えは「気にしない」です。ただし、この「気にしない」には様々な解釈が考えられます。
また、はっきりと「ゼロ円」と答えた人は男性では6.0%、女性では2.0%とかなりの少数派です。中には「相手が出せないなら、全部自分が出してもいいよ」という気前のいい人もいるかもしれませんが、そんな人は滅多にいないと考えた方が身のためでしょう。
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