会社を辞める際は、まず退職願を提出し、受理されれば正式な書類として退職届を出すというプロセスを踏むのが一般的です。
その際、必ず書くのが退職理由ですが、これをどうやって書けばよいのか悩む人も多いと思います。
その理由と「一身上の都合」が使えないケースについて解説しましょう。
目次
一身上の都合とは
本来は「自分の希望で退職する」こと
冒頭でも触れた通り、退職願・退職届で最もよく使われる退職理由が「一身上の都合」です。本来は「自分の希望で退職すること」を指します。例えば
- 配偶者の転勤についていくことになり、引っ越す必要が生じた
- どうしてもソリが合わない人がいて辛い
- 会社を辞めてやりたいことができた
- 残業や休日出勤が多くて体力がもたない
- 病気やケガでこれ以上続けることが難しい
など、会社と関係ない「あくまで個人的な事情」である場合は、これを使えば問題ありません。
法律上も退職理由を詳細に伝える義務はない
法律上、労働者には「退職の自由」が認められています。雇用期間の定めがない正社員の場合、退職の申し入れから2週間が経過すれば自動的に雇用期間が終了する(民法第627条第1項)決まりです。
もちろん、退職に至る理由を詳細に伝える必要はありません。
会社によっては細かく説明を求められるケースもある
しかし、実際のところは会社側の担当者から「なぜ会社を辞めることにしたのか、退職願に盛り込んでほしい」など、細かく説明を求められるケースもあります。実際に伝えるかどうかは、自分の考え方次第ですが、盛り込む場合の書き方を紹介しましょう。
家族の都合で退職する場合
- 家族の転勤についていくことになった
- 実家の家族の介護をする必要が出てきた
など、家族の都合で退職することになった場合は
という文章を使うと良いでしょう。実家に帰省したり、遠方に引っ越したりするので、今後は通勤が難しくなるというニュアンスが伝わるはずです。
キャリアチェンジしたい
「今はアパレルの店員をしているけど、これから手に技術をつけて将来はエステサロンを開業したい」など、大幅なキャリアチェンジを考えている場合は
という一文を盛り込むと良いでしょう。
家業を継ぐことになった
「代表取締役だった家族が亡くなり、自分も急遽家業を手伝わないといけなくなった」場合は、そのことを正直に伝えれば構いません。
とでも書けば、悪い印象は与えないはずです。
病気・ケガで仕事が続けられそうにない
病気やケガで長期間の療養が必要になったり、会社側に配置転換を申し出ても対応してもらえない場合は、体調を理由にして退職するのが現実的な選択肢となります。
のように、自分の体調を理由にしての退職であることを退職願・退職届に盛り込みましょう。なお、病気やケガの状況について聞かれることもあるので、診断書を用意しておくと説明がスムーズにいくはずです。
社内の人間関係が辛い
「どうしてソリが合わない人がいる」など、社内の人間関係に辛さを感じたことが原因で退職を考える人もいるかもしれません。
大企業であれば、配置転換をしてもらうことで何とか対応できるかもしれませんが、中小企業だとそれも厳しいのが実情です。
このようなケースの場合は
という一文を盛り込みましょう。
残業・休日出勤が多く体力的にきつい
頻繁に退職するのは好ましくない、とされていますが、残業・休日出勤が多かったりして体力的に持たないと感じた場合は、体や心を壊してしまう前に退職したほうが身のためです。
このような場合は
という一文を盛り込みましょう。
給料が安すぎて生活できない
自分1人では問題なく生活できる給料であったとしても、結婚して子どもができた場合は事情が一気に変わることもあり得ます。
退職を考える前に、まずは給料アップの交渉をすることが考えられますが、不発に終わった場合は、転職も視野に入れて動くことになるはずです。
このようなケースでは
という形で書いておきましょう。
一身上の都合が使えないケースは?
一言でまとめると「会社都合の場合」
一方、退職願・退職届で「一身上の都合」というフレーズが使えないケースも存在します。結論から言うと「会社都合の場合」です。
そもそも、会社の都合で辞める場合、自分の都合は全く関係ないので「一身上の都合」という言葉がそぐいません。
ケース別・退職理由の書き方
会社都合で退職する場合は、退職願を書く必要はありません。
退職願は本来、会社(あるいは経営者)に対して退職を願い出るための書類です。自分の気が変わったら撤回することもできるし、会社が却下することだってあり得ます。
一方、退職届は会社(あるいは経営者)に退職の可否を問わず、自分の退職を通告するための書類です。会社都合での退職の場合、会社側に解雇通知書や解雇理由証明書を交付する義務が生じるため、退職届を出さなくても良いとする見解もあります。
しかし、実際は退職届を出すよう求められることも少なくないので、文中にしっかりと「会社都合である旨」を盛り込みましょう。できれば、内容証明郵便を使い「いつ、どんな内容の書面を送ったか」を客観的な記録で残すのをおすすめします。
人員整理の場合
簡単にいうと「リストラ」のことです。企業が経費削減のために従業員を解雇することを指します。
なお、従業員の権利を奪う重大な行為であることを鑑み、以下の4つを満たすと客観的に判断されないと、不当解雇にあたる可能性もあるので注意が必要です。
- 人員整理の必要性があること
- 解雇を回避するための努力を尽くしたこと
- 解雇する人員の選定が合理的であること
- 労働者への説明、協議など、手続きを尽くしたこと
希望退職の場合
一方、企業が従業員数を減らし、経費を削減するための方法としては、希望退職もよく使われています。簡単に言うと「退職金としてまとまったお金を渡すので、会社を辞めて欲しい」と交渉をすることです。
すでに触れた通り、人員整理を行うには法的にはハードルが非常に高いため、経費削減の方法として希望退職を選択する企業も多く存在します。
退職勧奨の場合
簡単に言うと「肩たたき」のことです。つまり、会社側から従業員に退職を薦めることを言います。
会社側から従業員を解雇するには、客観的で合理的な理由が必要であるため「あいつ気に食わない」などの理由で簡単にやめさせることはできません。
そのため
- 「環境を変えてみたら?」「クビより自分から辞めたら?」など退職を誘導してくる
- 急に仕事のノルマを増やしたり、暴言を吐いたり、逆に仕事を与えなかったりなどのパワハラを利用してくる
- 産業医と結託し、休業を打診したり、精神疾患の診断を下したりして解雇の理由を作り上げようとする
などの嫌がらせを行い、退職に追い込むことだって考えられます。どう考えても悪いのはそんなことをしてくる会社側なので、さっさと縁を切るのも1つの手段かもしれません。
会社が倒産した場合
会社が倒産してしまった場合、会社としては従業員を全員解雇するしかありません。この場合は、解雇通知書や解雇理由説明書が順次送られてくるはずなので、退職届を出さなくても良いケースがほとんどです。
本来は会社都合なのに自己都合にされそうな場合は要注意
なお、本来は会社都合での退職として扱われるべき状況であったとしても、会社側の意向で自己都合退職として退職願・退職届を出すように言われることも考えられます。
しかし、少しでも「おかしいな?」と思う部分があれば、安易に退職願・退職届を出さないようにしましょう。失業保険や退職金の受給内容、転職時の評価が大きく左右されるためです。
主な違いを表にまとめました。
項目 | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
---|---|---|
失業保険の最短支給開始日 | 7日と2カ月後 | 7日後 |
失業保険の給付日数 | 90 ~ 150日 | 90 ~ 330日 |
失業保険の最大支給額 | 約118万円 | 約260万円 |
失業保険の給付制限 | あり | なし |
退職金(定めがある場合) | 減額されるケースもある | 受け取れる |
国民健康保険 | 通常納付 | 最長2年間減額 |
転職時の評価 | あまりに多くなければ問題にならない | 理由次第ではネックになることも |
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