日本は世界でも有数の長寿国です。男女ともに、平均寿命は80歳を超えています。実際はこれより早くに天寿を全うされる方もいますが、80歳を超えてもますます元気でいらっしゃる方も少なくないのです。だからこそ「会社が定年になった後のこと」は真剣に考える必要があるでしょう。
2021年4月に施行された「高年齢者雇用安定法」では「70歳までの就労機会確保を企業の努力義務とする」という旨が定められています。つまり「なるべくなら70歳まで働けるようにする」という前提で、それぞれの会社において必要な措置を取るのが今後は主流になっていくはずです。
しかし「70歳まで会社に残る」のではなく「起業して、体が動くうちは働き続ける」ことも、選択肢の1つとして浮かび上がってくるでしょう。数としては少ないですが、60代以降の起業(シニア起業)も珍しくありません。
そこで今回は「シニア起業」を行うメリットと注意点について解説しましょう。
目次
実際、みんないくつで起業しているの?
圧倒的に多いのは40代
そもそも、起業を志す人は、何歳くらいで実行に移すのかをデータからひも解いてみましょう。日本政策金融公庫総合研究所がまとめた「2020年度新規開業実態調査」によれば、2020年度において、調査の対象となった1,597社の創業者の「開業時の年齢」は以下のように分布していました。
開業時の年齢 | 比率(%) |
29歳以下 | 4.8% |
30歳代 | 30.7% |
40歳代 | 38.1% |
50歳代 | 19.7% |
60歳以上 | 6.6% |
出典:日本政策金融公庫総合研究所「2020年度新規開業実態調査」
なお、調査の対象となったのは
- 日本政策金融公庫国民生活事業が2019年4月から同年9月にかけて融資した
- 融資時点開業後1年以内
- 調査票の返送があった
の3つの条件を満たす企業です。
60代以上は6.6%
グラフからもわかる通り、開業時の年齢は「40歳代」の割合が38.1%と最も高くなっています。次点の「30歳代」が30.7%であるため、この2つの年代で8割弱を占めるということです。
一方「50歳代」は19.7%、「60歳代」は6.6%にとどまっています。
結局のところ、独立開業に踏み切る人には
- いわゆる「働き盛り」の年齢で決断して、行動に移す
- 会社勤めが一段落したところで、次のステージに進むという意味で行動を起こす
の2つのパターンがあるのでしょう。
シニア起業のメリット
元気でいる限りは働ける
次に、シニア起業のメリットについて考えてみましょう。最大のメリットは「元気でいる限りは働ける」が挙げられます。
現行の法律(改正高年齢者雇用安定法)においては
- 65歳までの雇用確保は義務化されている
- 70歳までの就業確保は努力義務である
ため、比較的高年齢になっても会社に残って働ける可能性は高いです。しかし(少なくとも今は)「70歳を迎えた後どうするか」まではカバーされていないため、働きたいと思う人は早めに対策を講じておく必要があります。
この点、起業するのであれば「元気で体が動くうちは働く」という前提で進めても何ら問題はありません。極端な話、100歳を超えていても元気で体が動き、仕事を進めるだけの判断力があれば、働き続けることができるのです。
知見・経験を活かせる
「亀の甲より年の劫」という言葉があります。「年齢に比例して経験は増えるし、その経験から得られる有益な情報もたくさんある」という意味です。
仕事においてもこれは十分にあてはまります。シニアでの起業は、若い時の起業に比べると
- 同じことを覚えるのにも時間がかかる
- 体力的に無理がきかない
など、ハンデがあるのも事実です。しかし、若いうちに起業する人には得られない
- 会社勤めで培った「チームで仕事をする能力」
- 沢山の上司・部下、取引先と接する中で得た「コミュニケーション力」
など「長年会社勤めをしてきたからこそ得られる知見・経験」があります。
若い人と同じ土俵に立って勝負するのではなく「年齢を重ねたからこそ持てる武器」を使って勝負しましょう。
活用できる助成金がある
国としても「高齢化社会を迎える中で、いかにして長い間働き続けてもらうか」か課題の1つになっています。そのため、いわゆるシニア世代にも起業してもらうため、様々な助成金を設けているのです。
代表的なものとして挙げられるのが、日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援資金」です。
この他にも、都道府県や市区町村単位で助成金や有利な条件での融資制度を設けているケースがあるので、お住まいの都道府県・市区町村のWebページをチェックしてみましょう。
参照:助成金情報・融資制度 | 企業向けページ | 埼玉県「働くシニア応援サイト」
家族の生活費の心配をしすぎなくて良い
「嫁ブロック」というスラング(俗語)があります。本来の意味は「夫が何かをしようとすると、妻が阻止してくること」を指しますが、「夫が起業しようとしているものの、妻が今後の生活の不安を理由に猛反対をしてくること」という意味合いで使われる場合も多々あります。
先ほど「起業するのは30歳代から40歳代が多い」ということをデータを用いて説明しましたが、実際は「起業を目指したにも関わらず、強烈な嫁ブロックに遭い断念した」という例も少なくないはずです。
しかし、シニアになってからの起業であれば
- 子どもが結婚して独立している(もしくは結婚はしていないが一人暮らしをしている、実家暮らしではあるが生活費を入れている)
- 住宅ローンを完済している(もしくは数年以内に完済する見込みが立っている)
ことが多いため、経済的な不安は「30歳代、40歳代で独立起業する場合」に比べると、深刻でない場合が多いです。
「家族の反対が原因でとん挫する可能性が低い」という点では、シニア起業の方が現役世代での起業よりも優れているでしょう。
シニア起業の注意点
これまでの成功体験を捨てる
一方、シニア起業には注意すべき点もあります。大切なのは「これまでの成功体験を捨てる」ことです。
より具体的に言うと「会社勤めでうまくいっていたからと言って、起業してからもうまくいくとは限らないと思ったほうが良い」ということです。
会社勤めの場合「会社から割り振られた職種・業務の中で、限られた期間で成果を出すこと」ができれば、給料はほぼもらえます。もちろん、役職が上がっていくにつれ、権限も責任も増えていきますが、基本的にはこれができていれば「1円も給料が入らない」ことはないでしょう。
一方、起業した場合「自分で案件を取ってきて、限られた時間で成果を出し、次の案件の獲得につなげること」を絶えず行っていかないといけません。会社員時代と違い、やらなくてはいけないことの範囲が格段に増えるのです。
「与えられた仕事をこなしていれば、何とかなるだろう」という思い込みは捨てた方が、独立起業してから「こんなはずじゃなかった」と落ち込むことだってなくなるでしょう。
まずは小さく始める
シニアに限らず、起業をする際に大事なのは「固定費はできる限り抑える」ことです。
よほど優秀な人でもない限りは、起業してからすぐに顧客がつき、売上があげられる可能性は低いです。「しばらくは経費が出ていくだけの状態が続く」と考え、固定費をなるべく抑えましょう。
飲食店など「客に店舗に来てもらって、商品やサービスを提供すること」が前提の職種でもない限りは、最初から大きな事務所を構える必要はありません。極端な話、自宅の一部を事務所にしてもかまわないでしょう。
「さすがに自宅の一部を事務所にするのはちょっと」という人は、シェアオフィスを事務所として使うのも1つの手段です。
近年は官民を挙げた取り組みとして、起業支援・企業間連携支援・産学公共支援の一環としてシェアオフィスを運営しているのも珍しくありません。
場所によって多少の差はありますが、大体毎月1 ~ 2万円程度で
- 郵便物の受け取り
- オープンスペース、ブース、会議室の利用
- セミナー、交流会への参加
などのサービスが受けられるので、検討する価値はあるはずです。
出典:本庄早稲田ビジネスプラットフォーム | 本庄早稲田国際リサーチパーク
「会社のつながり」以外の人間関係を構築する
独立起業した場合、これまで勤務していた会社を通じた人間関係を当てにして仕事をするのはやめた方が良いでしょう。
会社に在籍していた時に、取引先の担当者などかかわりがあった人から「独立なさったら、〇〇さんに仕事を頼みますよ」と言われていたとしても、実際に独立起業した後に案件がもらえるとは限らない(というより、可能性は極めて低い)からです。
むしろ、独立起業することを考えているなら「これまで勤めてきた会社とは関係がない場所での人間関係を構築すること」を念頭に置いた方がよいかもしれません。
- 交流会に参加する
- ボランティア活動に参加する
- 勉強会やイベントに定期的に顔を出す
- SNSで情報発信をする
など「やれることをやってみる」という意識で取り組んでみましょう。
信頼できる場所で情報収集をする
また、起業する際に気を付けるべきなのが「いかがわしい情報をうのみにしないようにする」ことです。特に、ビジネス関連のセミナーの中には
- 登壇者の経歴が全くの嘘だった
- 参加者に高い情報商材を売りつけるセミナーだった
など、全く信頼に足りない悪質なものも存在します。トラブルに巻き込まれないようにするためには「信頼できる場所で情報収集をする」ことを心がけましょう。
全国の都道府県では、独立起業したい人をサポートする様々なプログラムの実施や情報発信を行っています。自治体が関与する以上、提供される情報や開催されるセミナーは「信頼に足る十分な根拠・実績に裏付けされるもの」であるので、安心して利用してください。
参照:東京都創業NET
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