自分に万が一のことがあった際、遺した財産は家族(配偶者、親、子ども、孫、兄弟姉妹)が引き継ぐ=相続するのが基本です。しかし、自分が望むのであれば、生前に意思表示をしておくことで、遺産を特定の団体に寄付する(遺贈)ことも可能になります。
今回は生前から準備すべき理由と、具体的にこなすべきタスクとして
- どんな団体にいくら寄付するのかを決める
- 遺言書を作る
- 専門家と死後事務委任契約を結ぶ
の3つについて、詳しく解説しましょう。
目次
なぜ、生前に準備を済ますべきなのか
本題に入る前に、なぜ、遺贈をしたいと思うなら、生前に準備をしておくべきなのか、理由に触れておきましょう。
やることが多い上に期限がある
一言でまとめると
です。
一般的に、人に万が一のことがあった場合、一般的に行うべき手続きを時系列で並べてみました。なお、葬儀は仏式で行うことを想定しています。
そして、相続の発生(万が一が起こった時)から
- 3カ月以内に相続放棄・限定承認
- 4カ月以内に所得税の申告・納付
- 10カ月以内に相続税の申告・納付
を行わないといけないので、かなりハードです。
そして、図表には盛り込みませんでしたが、これ以外にも
- 遺品を整理する
- 賃貸住宅に住んでいた場合は、不動産会社に連絡をし、退去の手続きを進める
- 弔問客が訪れたら対応する
- 手続きに必要な書類(住民票の除票、戸籍謄本、除籍謄本など)を手配する
- 生前に利用していた銀行などの金融機関、クレジットカード会社に連絡をする
- いわゆるサブスクリプションサービス(月額制サービス)を利用していた場合、解約をする
など、こまごまとした作業が多数発生します。
ここに「寄付をしたい団体とのやり取り」が加わってきたら、やるべきことがさらに増えてしまうのがわかるはずです。家族が上手に分担して取り組めるならまだしも、1人など少人数で取り組まなければいけない場合は、精神的・肉体的にもかなりハードでしょう。
そして、生前に「こういう団体に〇〇円を寄付したい」という意思表示をしておくのは非常に大事です。もちろん、「そういえばお父さん、昔から“万が一のことがあったら俺が遺したお金はどこかに寄付してくれ”と言っていたわよね」というように、家族が心情をくみ取って動いてくれることもあります。
しかし、ただでさえやることが多く、精神的に余裕もない時期に、遺された家族に対して「生前の自身の心情を察して動くこと」までを求めるのは、あまりに酷です。
最低限こなすべき3つのタスクとは?
自分に万が一のことがあったら、遺産を寄付したい=遺贈をしたいと思うなら
- どんな団体にいくら寄付するのかを決める
- 遺言書を作る
- 必要なら専門家と死後事務委任契約を結ぶ
の3つは生前に必ず済ませておくべきです。
「自分だけで進めるのは無理!」と思ったのであれば、遺贈寄付専門の相談サービスを使い、アドバイスを受けながら進めましょう。
中でも、クラウドファンディングで有名なREADYFOR株式会社が運営するサービス「レディーフォー遺贈寄付サポート窓口」は、電話・メール・LINEで気軽に無料相談ができるので、思い立ったら一度相談してみるのをおすすめします。
タスク1.どんな団体にいくら寄付するのかを決める
具体的な話に入りましょう。そもそも、遺贈をしたいと思うなら、まずは「どんな団体にいくら寄付するのか」を決めなくてはいけません。
- がんなどの難病の患者やその家族を支援したい
- 自然環境の保護に役立ててほしい
- 児童労働・虐待など、子どもを取り巻く問題の解決に役立ててほしい
- ホームレス、生活困窮者を支援したい
など「自分が寄付したお金をどういう課題を解決するために使ってほしいのか」を考えれば、おのずとどんな団体に寄付すればいいのか、答えが見えてくるはずです。
「まとまったお金でないとNG」という団体は少数派
なお、アメリカなどのキリスト教文化圏では、富裕層が多額の寄付をすることが一般的になっているためか、寄付や遺贈に対しても「まとまったお金でないと受け付けてくれない」というイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、このような「多額の寄付しか受け取らない」という姿勢を取っている団体は、きわめて少数派でしょう。家族がいる場合は、万が一のことが起こった後の生活に困窮しないよう、身の丈に合った金額で寄付をすることを前提に動いて構いません。
不動産がある場合は売る前提で
ただし、自分に万が一のことがあった場合に遺る財産=相続財産の中に、持ち家やワンルームマンションなどの不動産が含まれている場合は、注意しましょう。寄付先となるNPO法人や一般社団法人などは、不動産の現物寄付を受け付けていないことがほとんどであるためです。
タスク2.遺言書を作る
どんな団体にいくら寄付するのかを決めたら、次は遺言書を作りましょう。
遺言書の種類
遺言書とは
のことです。なお、作成・保管の方法などの違いで
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
の3つに分けられます。
それぞれの定義・メリット・デメリットを表にまとめました。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
---|---|---|---|
定義 | 被相続人(遺言書を作りたい人)が自分で手書きで作る遺言書(原本は自分で保管) | 遺言者が伝えた内容を公証人が書面に落とし込んで作成する遺言書(原本は公証役場に保管) | 遺言者が自作した遺言書を公証役場に持参し、遺言書の存在を公証役場で記録してもらう遺言書(原本は自分で保管) |
メリット | ・印鑑と筆記用具、紙さえあればいつでも自分で作れる ・費用はゼロ。 ・書き直しや修正も自由にできる ・所定のフォーマットがないため書き方も自由 |
・プロが作る遺言書なので、内容が適法・正確なため、無効になりにくい ・原本は公証役場で保存してくれる ・偽造される、改変されるリスクはほぼない |
・代筆、パソコンでの作成も可能 ・遺言の内容は秘密にできる ・公証役場に記録が残る ・改ざんされる可能性は低い |
デメリット | ・書き方を誤ると無効になるリスクがある ・家庭裁判所での検認(偽造・改変などがないかのチェック)が必要 ・自分で字が書けない場合は無理な方法 ・失くす、見つけてもらえない、偽造される、改変されるリスクがある |
・作成に時間と費用がかかる ・証人2名の立会が必須 ・存在や内容を秘密にはできない |
・公証人でも遺言書の内容が確認できないので、内容に不備があると無効になるリスクがある ・紛失する恐れもある ・家庭裁判所での検認が必要 ・公証役場に赴く手間と手数料がかかる |
わからないならプロに頼む方が無難
自筆証書遺言は、自分1人で好きな時間に書くことができ、しかも費用もかかりません。しかし
- 作成日を明記している
- 署名・押印をしている
など、いくつか満たすべき要件があり、このうち1つでも欠けてしまうと、法的には無効な遺言書になってしまいます。秘密証書遺言も「まずは自分で遺言書を作成する」ところは変わらないため、注意が必要です。
仮に、遺言書を自分で作ってはみたものの、いざ万が一のことが起きた後に、法的に無効なものだったと発覚した場合、家族はますます混乱してしまいます。やはり「家族に負担をかけない書けない」ことを重視するなら、公正証書遺言を作成するのがベストでしょう。
なお、公正証書遺言を作成する場合は、弁護士などの専門家にサポートしてもらうと、手間も省ける上に、非常に正確なものが作れます。遺贈専門の相談サービスを通じて、弁護士などの専門家を紹介してもらうこともできるので、心配な人は一度話してみるのをおすすめします。
タスク3.必要なら専門家と死後事務委任契約を結ぶ
自分に万が一のことがあった後、家族や身近な人が葬儀や身の回りの片づけをしてくれるのであれば問題ないのですが、そのような「頼れる人」がいない場合は、生前に弁護士・行政書士・司法書士などの専門家と死後事務処理委任契約を結んでおきましょう。
死後事務委任契約とは
具体的に何をどこまで任せるかを依頼する人とされる人が協議した上で、契約書に盛り込み、双方が署名捺印すれば、契約が成立します。一般的には
- 役所での諸手続き
- 葬儀・埋葬
- 遺品整理
- 各種契約の解約・精算
- 関係先への通知・連絡
などを任せるケースが多いですが、近年ではSNS・メールアカウントの削除やフォロワー・友人への死亡通知も請け負う専門家も出てきています。
得意分野にしている専門家を選ぼう
なお、死後事務処理契約については、依頼される側が特殊な資格を有している必要はありません。友人や知人で頼めそうな人がいるならそれでも良いのですが
- 確実に最後までやり遂げてくれるか不安が残る
- 法律的に込み入った事務処理が必要になるかもしれない
場合は、やはり専門家に頼むと良いでしょう。しかし、弁護士・行政書士・司法書士などの専門家であっても死後事務処理の案件をほとんど手がけたことがない人もいるのが事実です。
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