退職金を払ってもらえない!会社と交渉する方法、教えます

近年は「老後の資金は2,000万円ないと足りない」など、長寿化を見据えた上での相応の生活資金を用意しておくことの大切さに触れた報道が目につきます。確かに、相応の生活資金を用意しておくのは大切ですが、問題は「どうやって用意するか」です。

働き盛りのうちからコツコツ貯めていくことが望ましいものの、なかなかうまくいかない場合は退職金をあてにせざるを得ないのも実情でしょう。

しかし、自分の勤務先で「退職金がもらえる」という決まりになっていたにも関わらず、いざ自身が退職したときにもらえない場合は、老後の生活にもたらされるダメージは相当なものになります。「ちょっと、そんな話聞いていないけど!」と叫びたくなるのも当然です。

そこで今回は「自分の会社は退職金をもらえる、という決まりになっていたのに、実際に会社を辞めた時にもらえなかった」という事態が起きた場合、会社と交渉する方法を解説します。

全ての会社に退職金を支払う義務はない

そもそも、会社が従業員に対して給料を支払わないのは、違法です。

労働基準法
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

しかし、退職金については「労働の対価ではない」という観点から、この規定による制限を受けないという解釈が一般的になされています。

そのため、退職金を支払わなくてもそれだけで違法とは限りません。

退職金規程が定められている場合は義務がある

厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査」によれば、80.5%の会社が退職金規程を設けているそうです。

出典:平成30年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省

しかし、残りの19.5%の会社は退職金規程を設けていない、つまり退職金を払うと決めていないのが実情です。そのため、「退職金を支払ってもらえない」原因を大きく分けると

  1. そもそも退職金規程を設けていない(退職金を払わない前提で運営している)
  2. 退職金規程を設けているにも関わらず、適当な理由ではぐらかされている

のいずれかにあたりますが、1)だった場合は交渉の余地がありません。

しかし、2)だった場合は明らかに問題があります。そのため、以降の文章は2)のケースを前提に進めます。

不利益変更は原則としてNG

退職金規程が定められている場合は、具体的な内容が就業規則や労働協約、労働契約等に明記されているはずです。そのため「業績が振るわないから退職金を出せない」など、会社側の一方的な都合で退職金を払わないのは、従業員にとっては就業規則を不利益な方向に変更したことになります。

就業規則の不利益変更は労働基準法によって厳しく制限されているのが実情です。つまり

  1. 労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合,これが存在しない場合は労働者の過半数の代表者)の意見を聴く(同法第90条第1項)
  2. 労働基準監督署に届け出る(同法第89条、第90条第2項)
  3. 労働者に周知する(同法106条)

の3つは必ず満たさなくてはいけません。少なくとも、会社側から一方的に「うちの会社の業績が振るわないので、退職金は払いません」と言って知らんぷり、のは許されないのです。

義務があるのに払ってもらえない場合に会社と交渉する方法

就業規則などに退職金規程が定められていたにも関わらず、話し合いの場も設けられない状態で、会社側から一方的に「退職金は支払えません」と言われてしまった場合の対処法を解説します。

1.都道府県の労働局に相談する

最初にやるべきことは、各都道府県の労働局に相談することです。会社と従業員(労働者)とのトラブルの相談先として、労働基準監督署を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、両者の役割は全く違います。

簡単にまとめると以下の通りです。

  • 労働基準監督署:事業主(会社)が労働基準法に違反することがないように調査や臨検(立ち入り検査)を行う
  • 労働局:事業主と労働者との間に労働関係の紛争(労働トラブル)が発生した場合に、その紛争の解決のために必要な助言や指導、あっせん(話し合い)を行う

退職金は労働基準法上「就業規則に規程が設けられているなど一定の場合を除けば、必ずしも支払わなくても良いもの」という位置づけです。

「退職金を払ってもらえない」というのは、「労働基準法の違反」というよりは「労働関係の紛争」としての性質が強いため、労働局に相談すると早く話が進むでしょう。

各都道府県の労働局の一覧は、こちらのWebページにまとまっています。

参照:厚生労働省「都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧」

2.退職金未払いの証拠を集める

労働局に相談する一方で「自分は退職金を受け取る資格があるはず」という証拠集めを行う必要があります。会社によって具体的な内容はまちまちですが、退職金規程は「一定の条件に当てはまれば、一定額の退職金を支払う」というパターンが多いです。

一例として

  • 入社後一定期間を経過した者が対象 (3年以上 ・ 5年以上)
  • 勤続年数により、基本給×規定の数値 (3年以上250,000円 × 3、5年以上250,000円 × 5)
  • 役職者は役職により割り増し、または増額
  • 自己都合による退職は規定により減額 (1/3減額 ・ 半額)

などが挙げられます。

自分が退職金を受け取る資格がある、ということを立証したいなら

  • これまでの給与明細や厚生年金の加入記録など「法的な勤続年数」を証明できる書類を揃える
  • 退職に至った経緯(自己都合か会社都合か)をまとめておく

など、情報を整理しておきましょう。

3.書面で請求を行う

また、会社に対しても再度「退職金を支払ってください」と呼びかけましょう。「言った、言わない」の争いを避けるためにも、内容証明郵便を利用して書面を送るのが効果的です。

なお、内容証明郵便は

  • 行数・1行あたりの文字数が決まっているなど、細かい規定が設けられている
  • 比較的大きな郵便局でないと受け付けてもらえないケースもある

など、通常の郵便物と事情が異なる部分もあるので気を付けましょう。

参照:郵便局「内容証明」

文例を作ってみました

内容証明郵便には細かい規定が設けられているものの「どんな内容を書くか」自体には制限はありません。あくまで「〇月〇日に、このような内容の書面を送りました」という証明をするためのものだからです。

そのため、実際は自分の好きなように書けば問題ありませんが「退職金規程があって条件を満たしていたのに、実際払ってもらえない」というケースを想定し、文面を作ってみました。

拝啓

私は、○○年○○月○○日、貴社に入社し、○○年○○月○○日に退社した者です。

私は、貴社との間で、○○年○○月○○日に退職金として○○円の支払いを受けるとの労働契約を締結したにもかかわらず、いまだ上記退職金の支払いを受けておりません。

そこで、私は貴社に対し、退職金○○円の支払いを請求いたします。

つきましては、上記未払い退職金○○円及びこれに対する○○年○○月○○日から支払済み日まで法定利率年3パーセントの割合による遅延損害金を、○○年○○月○○日までに、○○銀行○○支店 ○○預金(普通・定期などの別) 口座番号○○ 口座名義人○○に振り込む方法によってお支払いください。

また、本件紛争の早期解決のために、雇用契約書、就業規則など関連資料の開示を併せて請求いたします。

仮に、上記期日までにお支払いをいただけない場合には、労働基準監督署への申告や民事裁判の提起などの法的手段をとる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

草々

なお、実際に送る際は相手方が書面を受取ったことおよび日時を証明してくれる「配達証明」も併せてお願いすると良いでしょう。これにより「そんな書類は受け取っていない」と言われるリスクが回避できるためです。

4.紛争調整機関を利用する

内容証明郵便を送って会社が支払いに応じてくれれば何ら問題はありませんが、会社側が応じないことだって考えられます。そのような場合は、労働局の紛争調整委員会に相談しましょう。

弁護士や社労士等の有識者からなるあっせん委員が指名され、あっせん(双方の主張を整理した上での話し合いの促進)を行います。

相応の知識があるあっせん委員が入ることで、話がまとまりやすくなるので「退職金を支払ってもらえない」などのトラブルを解決するために、比較的よく使われる手段です。

ADRを利用するのも1つの手段

また、ADRもよく使われます。ADRとは「Alternative(代替的)」「Dispute(紛争)」「Resolution(解決)」の略号で、訴訟手続によらない紛争解決方法を指す言葉です。

日本弁護士連合会、全国社会保険労務士会連合会が行うADRが、退職金を関連とした労使トラブルの解決において利用されることが多いです。他にも、様々な団体がADRを利用した問題解決の相談に応じています。

参照:日本弁護士連合会「紛争解決センター(ADR)」

参照:全国社会保険労務士会連合会「社労士会労働紛争解決センター」

5.弁護士に相談する

労働局の紛争調整委員会やADRはあくまで「話し合いによって和解を目指すための手続き」です。会社・労働者のどちらか一方が「これは納得できない」と判断した場合、和解不成立となり、訴訟に移行することになります。

簡単に言うと裁判で争うことになるため、さすがに弁護士に依頼しないと物事を先に進めるのは厳しいでしょう。

日本弁護士連合会の法律相談センターに問い合わせてみよう

もし、家族・親族、親しい友人・知人に弁護士がいる(紹介してもらえる)なら、その人に頼んでも構わないでしょう。しかし、思い当たる節がないなら、まずは各地の弁護士会の法律相談センターに問い合わせ、労働紛争に強い弁護士を探してもらうのも1つの手段です。

参照:日本弁護士連合会「全国の弁護士会の法律相談センター」

FP 荒井 美亜

FP 荒井 美亜あらい みあ

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大学院まで行って公認会計士を目指していたものの、紆余曲折を経て今は「日本一、お金のことを楽しくわかりやすく説明できるライター兼ファイナンシャルプランナー」目指して活動中です。日本FP協会のイベントのお手伝いもしています。保有資格)日本FP協会認定AFP、FP技能検定2級、税理士会計科目合格、日商簿記検定1級、全経簿記能力検定上級、貸金業務取扱主任者試験合格

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