扶養を外れないパートの働き方。主婦が損をしない年収はいくら?

「うちの子が今度小学生になるから、パートでまた働こうかしら」というように、これまで専業主婦(夫)だった人が、ライフステージの変化に伴い、仕事をまた始めるのは決して珍しくありません。

その際、考えなくてはいけないのは「扶養内で働くかどうか」です。詳しくは後述しますが、これまで専業主婦(夫)だった場合、配偶者の扶養に入っているため、税金や社会保険料を支払ってこなかったはずでしょう。

たとえパートを始めたとしても、収入が一定範囲内で収まっていれば、これまでと同じように配偶者の扶養に入っているため、支払う必要はありません。しかし、超えてしまうと払う必要が出てくるので、注意しましょう。

扶養の2つの意味

扶養とは本来

家族の生計を主に担っている人が、配偶者や子ども、親といった収入の少ない家族を経済的に支えること

を指します。日本では、扶養される側の収入が一定額未満であれば、家計を主に支える方の扶養に入れる仕組みです。

実際は、一口に扶養といっても、税法上の定義と社会保険上の定義が存在します。

社会保険上の扶養

社会保険上の扶養とは

家計を主に支える人の勤務先の健康保険・厚生年金において、被扶養者として扱ってもらうこと

です。つまり、自分で健康保険料や国民年金保険料などの社会保険料を払わなくてよくなります。

扶養の対象となる家族の条件

なお、社会保険上の扶養の対象となるのは、75歳未満の人です。75歳以上になると、後期高齢者医療保険制度に加入することになるため、社会保険上の扶養の対象外になります。

また、主に家計を支えている人の配偶者、および一定の条件に当てはまる親族なら社会保険上の扶養の対象となりますが、本人との関係によって「同居していなくても扶養に入れる人」か「同居していないと扶養に入れない人」かが違うので、注意してください。

同居していなくても扶養に入れる人 ・配偶者(内縁関係も含む)
・実子・養子・孫・兄弟姉妹
・実両親・養父母・祖父母・曾祖父母
同居していないと扶養に入れない人 ・同居していなくても扶養に入れる方で挙げた関係性以外の3親等内の親族(義父母など)
・内縁の配偶者の両親や連れ子(内縁の配偶者が死亡した後も扶養に入れることが可能)

税制上の扶養

一方、税法上の扶養とは

家計を主に支える人が、住民税や所得税の控除を受けられること

です。結果として、本来納めるべき税金から一定額を差し引けるため、税金が安くなります。

配偶者控除・配偶者特別控除と扶養控除

なお、税法上の扶養を「誰が対象となるのか」で分けると、以下のようになります。

配偶者控除・配偶者特別控除 納税者本人や配偶者が条件を満たす場合に、一定額を所得から控除する制度
扶養控除 扶養する人に一定の条件を満たす親族(6親等以内の血族、3親等以内の姻族)が受けられる控除

なお、いずれの控除においても

対象となる年の12月31日時点で16歳以上となる親族・姻族

という年齢の条件があるので注意をしましょう。ただし、上限はないので、たとえ75歳以上の親族であっても、その他の条件を満たせば税法上の扶養に入れることができます。

扶養が受けられない年収の壁を解説

扶養が受けられなくなる想定年収を指す言い回しとして「●●円の壁」という言葉が用いられてることもあります。たとえば「103万円の壁」という場合、所得税の支払いが発生するため、税法上の扶養から外れてしまうのです。

社会保険上の年収の壁と、税法上の年収の壁について、詳しく解説しましょう。

社会保険上の年収の壁

社会保険上、被扶養者として認定されるためには、次の条件を満たさないといけません。

  • 年収が130万円未満である
  • 被保険者の年間収入の2分の1未満である

出典:被扶養者とは? | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

俗にいう「130万円の壁」とは「年収が130万円以上になると、配偶者の社会保険上の扶養から外れ、自身で保険料を払わないといけない」ことを指します。

106万円の壁

「130万円の壁」とは別に「106万円の壁」という言葉も存在します。これは、2016年10月に社会保険の適用範囲が拡大されたために生まれた言葉です。

つまり、以下の条件を満たす人であれば、勤務先の社会保険に加入しなくてはいけないため、自然と配偶者の社会保険上の扶養からは外れることになります。

  • 1週間当たりの決まった労働時間が20時間以上である
  • 1カ月あたりの決まった賃金が88,000円以上である
  • 雇用期間の見込みが1年以上である
  • 学生でない
  • 従業員数が501人以上の会社(特定適用事業所)で働いている、もしくは、従業員数500人以上の会社で働いているが、社会保険への加入について労使の合意がなされている

1カ月あたりの給料が88,000円以上であれば、年収にすると106万円以上になるため「106万円の壁」と呼ばれるようになりました。

税制上の年収の壁

税制上の年収の壁は、扶養を受ける人の年収と配偶者の年収によって決まります。

自分のパートでの年収が103万円以下であれば配偶者控除、103万円超201.6万円未満であれば配偶者特別控除が受けられるしくみです。

つまり、配偶者が支払うべき所得税を計算にあたって一定額を差し引けるようになるので、結果として税金を安くできるのです。配偶者控除・配偶者特別控除の控除額を、一覧表にまとめました。

控除の種類 自分のパート年収 給与所得者(控除を受ける人)給与等の収入金額
1,120万円以下 1,120万円超1,170万円以下 1,170万円超1,220万円以下
配偶者控除 103万円以下 38万円 26万円 11万円
配偶者特別控除 103万円超150万円以下 38万円 26万円 13万円
150万円超155万円以下 36万円 24万円 12万円
155万円超160万円以下 31万円 21万円 11万円
160万円超166.8万円以下 26万円 18万円 9万円
166.8万円超175.2万円以下 21万円 14万円 7万円
175.2万円超183.2万円以下 16万円 11万円 6万円
183.2万円超190.4万円以下 11万円 8万円 4万円
190.5万円超197.2万円以下 6万円 4万円 2万円
197.2万円超201.6万円以下 3万円 2万円 1万円
201.6万円超 対象外 対象外 対象外

出典:No.1191 配偶者控除|国税庁

出典:No.1195 配偶者特別控除|国税庁

住民税は地域によりまちまち

また、パートでの年収が一定額を超えると、住んでいる市区町村に対しても住民税を支払わなくてはいけません。具体的な金額は、市区町村によって異なるので注意が必要です。

例えば、筆者が住んでいる埼玉県さいたま市の場合は、100万円を超えると住民税がかかります。

出典:さいたま市/パート収入の税金は?

年収の壁のまとめ

ここまでの内容を踏まえ、パートの年収が一定額を超えると起こる「年収の壁」について、内容を整理しておきましょう。

103万円の壁 所得税の支払義務が発生する
106万円の壁 勤務先が大企業など、一定の条件を満たす場合は社会保険への加入義務が生じる
130万円の壁 全ての場合において、社会保険上の扶養から外れ、本人が社会保険料を払わなくてはいけなくなる
150万円の壁 配偶者特別控除が満額受けられなくなる
201.6万円の壁 配偶者特別控除が完全に受けられなくなる

これらの数字をもとに、早見表を作りましたので参考にしてください。

妻の年収 妻の住民税 妻の所得税 妻の社会保険 夫の所得税
100万円未満 支払わない 支払わない 支払わない 控除適用
100万円以上 ~ 103万円以下 支払う 支払わない 支払わない 控除適用
103万円超 ~ 130万円未満 支払う 支払う 支払わない 特別控除適用
130万円以上 ~ 141万円未満 支払う 支払う 支払う 特別控除適用
141万円以上 支払う 支払う 支払う 控除適用なし

主婦が損をしない年収はいくら?

結局のところ、パートで働く主婦が損をしないためには、年収をいくらにすべきでしょうか。「損をしない」を「税金・社会保険料の負担が一切生じない」と定義づけて考えてみましょう。

103万円以下なら無難

配偶者の年収が1,220万円以下であれば

  • 自身で所得税を支払う義務がない
  • 配偶者控除も満額受けられる
  • 社会保険上の扶養が受けられる

という意味で、年収を103万円以下にしておくといいでしょう。

住民税については、住んでいる市区町村で扱いが異なるため、一概には言えません。一つの目安として、100万円を超えるか超えないかのラインになってくると、住民税を支払う義務が高い確率で生じるはずです。

しかし、実際に支払う金額は年数千円程度なので、そこまで神経質になる必要もありません。

一方、配偶者の年収が1,220万円を超える場合は、配偶者控除を受けることはできません。

それでも、社会保険上の扶養が受けられるようにしたいなら、年収を130万円以下に抑える必要があります。

勤務先によっては、106万円を超えると社会保険への加入義務が生じるため、注意が必要です。

もちろん、この場合は自身で所得税や住民税を払うことになりますが、社会保険料の支払いに比べると、微々たる金額です。

社会保険料を払うのは悪いことではない

本人の年収130万円以上になると、どんな場合であっても配偶者の社会保険上の扶養は外れ、自分で社会保険料を支払わなくてはいけません。概算額ではあるものの、1年間で約20万円の出費になります。

社会保険料を払うと、手取りは減ってしまいますが、将来年金を受け取れるので、悪いことばかりではありません。また、現在の配偶者と残念ながら離婚することになった場合、社会保険に入れるほどの仕事をしていることは、大きなアドバンテージになるはずです。

実際にどうするかは、家族の意見や仕事の状況も見極めた上で決めるべきですが、パートの時間数を増やすか、正社員への登用を目指して働き、自分で税金や社会保険料を払い続けられるようにするのも、1つの選択肢でしょう。
FP 荒井 美亜

FP 荒井 美亜あらい みあ

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大学院まで行って公認会計士を目指していたものの、紆余曲折を経て今は「日本一、お金のことを楽しくわかりやすく説明できるライター兼ファイナンシャルプランナー」目指して活動中です。日本FP協会のイベントのお手伝いもしています。保有資格)日本FP協会認定AFP、FP技能検定2級、税理士会計科目合格、日商簿記検定1級、全経簿記能力検定上級、貸金業務取扱主任者試験合格

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