マイホームを購入するために住宅ローンを組んだり、アパート・マンション・一戸建てなどの住宅を借りたりする場合は、契約にあたって火災保険への加入が必須になります。考えられる理由である
- 火災に巻き込まれることは誰にでも起こりうるから
- 火災の原因が自分たちになくても賠償責任は問えないから
- 金融機関・大家との深刻なトラブルの原因になるから
の3つについて解説しましょう。
目次
火災に巻き込まれることは誰にでも起こりうるから
1年間の間に火災に巻き込まれる確率は?
実際のところ、1年間のうちに、火災に巻き込まれる確率はどのくらいなのかを計算しましょう。まず、消防庁が行っている消防統計によれば、令和元(2019)年の火災の発生総数は、37,683 件でした。このうち、建物火災は21,003 件です。
出典:消防庁「令和元年(1~12月)における火災の状況(確定値)」
また、令和2(2020)年1月1日現在の日本国内の世帯数は、59,071,519世帯です。
出典:総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和2年1月1日現在)」
ここから、確率を算出してみましょう。
つまり、1万世帯のうち、3.6世帯が1年間に火災を起こす計算になります。
宝くじに例えると
これがどのぐらいの確率なのか、宝くじと対比して考えてみましょう。令和2年の「年末ジャンボ宝くじ」から、それぞれの等級等について、当選確率を計算してみました。
等級等 | 当せん金 | 本数 | 当選確率 |
---|---|---|---|
1等 | 700,000,000円 | 22本 | 0.000005% |
1等の前後賞 | 150,000,000円 | 44本 | 0.000010% |
1等の組違い賞 | 100,000円 | 4,378本 | 0.000995% |
2等 | 10,000,000円 | 88本 | 0.000020% |
3等 | 1,000,000円 | 880本 | 0.000200% |
4等 | 50,000円 | 44,000本 | 0.010000% |
5等 | 10,000円 | 1,320,000本 | 0.300000% |
6等 | 3,000円 | 4,400,000本 | 1.000000% |
7等 | 300円 | 44,000,000本 | 10.000000% |
(発売総額1,320億円・22ユニットの場合 ※1ユニット2,000万枚)
表からもわかるように、1年間で火災に巻き込まれる確率は、年末ジャンボ宝くじで4等が当選する確率より高い計算になります。決して高い確率とは言えませんが、全く自分の身に降りかからない可能性はゼロではない、といったところでしょう。
火災の原因が自分たちになくても賠償責任は問えないから
故意や重過失がない限りは難しい
火災の原因が、自分ではなく、隣の家などの第三者にあった場合でも、そうたやすく賠償責任を問うことはできません。これには「失火責任法」が関係しています。簡単にいうと「過失が原因で火災が生じた場合、損害賠償はしなくて良い。ただし重大な過失の場合を除く」ということです。
つまり、隣の家で火災が起きたとしても
- 日ごろから夫婦間でトラブルを抱えていて、一方が腹いせに部屋に火をつけた(故意)
- 油の入った鍋をかけたまま来客応対のためその場を離れ、ガスコンロの火が鍋の中の油に引火した(重過失)
など、故意や重過失と認められる事情がないと、たとえ自分の家が近隣の家が原因で火災による損害を被ったとしても、損害賠償を求めることはできません。つまり、自分たちで修理費用や家財を再度購入するための費用を捻出しないといけないのです。
逆に自分たちが火災を起こしたら
もちろん、自分たちの過失で火災を起こしてしまい、結果として近隣住民に迷惑をかけてしまうこともありえます。本来、こういう場合でも故意や重過失と認められる事情がなければ、法律上は賠償責任を負いません。しかし「近所に迷惑をかけた以上、謝るべきだし、金銭的なフォローもしたい」と思うなら、火災保険に以下の補償を追加しておくといいでしょう。
類焼損害 | 近隣住民が加入している火災保険から十分な補償が受けられない場合に保険金が支払われる。 |
---|---|
失火見舞費用 | 自宅から近隣住宅に飛び火した場合、見舞金を支払う。 |
金融機関・大家との深刻なトラブルの原因になるから
金融機関にとっては住宅ローンが回収できなくなるリスクが伴う
視点を変えて、住宅ローンを提供する銀行などの金融機関の立場から、火災保険の意味を考えてみましょう。仮に、住宅ローンを借りている人(債務者)が、自身の物件に火災保険を付けていない状態で、火災に巻き込まれたとしましょう。
建物が火災により損壊し、住めない状態になってしまった場合、その建物を修理するか、取り壊して新しい家を購入したり、借りたりして引っ越したりするのかを選択することになります。しかし、そうなってしまうと、これまでの住宅ローンの返済に加えて、新しい家を確保するための出費が追加で生じます。
もちろん、家財道具だって購入しなくてはいけません。そのため、非常に財力があるケースを除いては、生活に困窮し、住宅ローンも延滞・滞納してしまう可能性が高まります。
大家にとっては入居者との深刻なトラブルの原因になる
マイホームを購入するのではなく、アパート・マンション・一戸建てを借りている場合であっても、基本的な考え方は変わりません。
仮に、借りている物件が火事に巻き込まれた場合、損傷の程度にもよりますが、大規模な修理を行ったり、建て直しを余儀なくされたりすることもあるでしょう。その場合の費用は、入居者が火災保険に入っていれば、そこから捻出することができ、問題なく修理や建て直しを進めることができます。
しかし、仮に入居者が火災保険に入っていなかった場合は、
- 最初に、大家が加入している火災保険から保険金が給付される
- 大家が加入している火災保険を販売している損害保険会社から、入居者に対し損害賠償請求がなされる
という流れをたどることになりますが、支払う財力が入居者になかった場合が問題になります。
連帯保証人がいる場合は、損害保険会社は連帯保証人に対して支払いを求めることになりますが、財力がなかった場合はどうしようもありません。
失火責任法は適用されない
なお、マンション・一戸建てなどの住宅を借りる場合、賃借人(入居者=債務者)は賃貸人(大家=債権者)と賃貸借契約を締結します。そして、退去時には原状を回復して返還する義務を負っているのが一般的です。
そしてこれが履行されなかった場合には、民法第415条に規定する債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことになります。そして、この場合、失火責任法の規定は及びません。
民法 第415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
必要不可欠なものだから、賢く選ぼう
マイホームを買ったり、家を借りたりする場合、火災保険は必要不可欠なものと言って過言ではありません。しかし、決して安くはない保険料を長い間払い続けることになるため「本当に必要な補償を過不足なく受けつつ、保険料も節約できる」火災保険を探すことが重要になります。方法については、別の記事で解説したので、併せて読んでみましょう。
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