任意保険は必要不可欠。自賠責保険だけでは不十分な理由とは?

日本では、自動車を運転する場合は、必ず自賠責保険に加入しなくてはいけません。加入しなかった場合はもちろん、加入証明書を持ち歩いていなかった場合も罰金が課せられます。

実際はこれに加えて民間の損害保険会社が提供する任意の自動車保険に加入する人も多いですが、100%には至っていません。そこで今回の記事では、都道府県ごとの任意の自動車保険加入率のデータを踏まえ、任意の自動車保険への加入の必要性について考えてみましょう。

任意の自動車保険加入率は100%ではない

損害保険料算出機構は、毎年都道府県ごとの任意の自動車保険への加入率を算定し、データとして公表しています。

都道府県ごとの任意の自動車保険加入率

同機構が発表している「2019年度版 自動車保険の概況」をもとに、都道府県ごとの任意の自動車保険加入率を表にまとめてみました。

都道府県名 対人賠償保険加入率(%) 対物賠償保険加入率(%)
大 阪 82.7 82.9
愛 知 82.0 82.1
神奈川 80.2 80.4
京 都 80.2 80.3
奈 良 79.6 79.5
千 葉 79.5 79.5
兵 庫 79.1 79.2
埼 玉 79.0 79.1
東 京 78.5 78.9
岐 阜 78.3 78.3
三 重 77.5 77.5
福 岡 77.4 77.5
広 島 77.1 77.2
静 岡 76.5 76.5
香 川 76.5 76.5
滋 賀 75.5 75.5
岡 山 75.3 75.3
和歌山 74.9 74.8
茨 城 74.6 74.6
宮 城 74.6 74.7
石 川 73.7 73.7
福 井 73.6 73.6
徳 島 73.6 73.5
富 山 73.5 73.5
栃 木 73.1 73.1
山 口 72.8 72.9
群 馬 72.7 72.7
愛 媛 72.1 72.1
北海道 71.4 71.8
青 森 70.9 71.2
新 潟 70.6 70.8
熊 本 68.2 68.2
福 島 68.0 68.1
長 崎 67.8 67.7
佐 賀 67.8 67.8
鳥 取 67.5 67.5
大 分 67.4 67.4
長 野 67.0 67.1
山 形 66.3 66.4
岩 手 65.0 65.2
山 梨 64.9 64.9
鹿児島 61.7 61.5
秋 田 61.4 61.7
宮 崎 60.7 60.7
高 知 60.4 60.3
島 根 58.7 58.7
沖 縄 54.3 54.4

出典:損害保険料算出機構「2019年度版 自動車保険の概況」

トップの大阪は8割を超える人が対物賠償保険、対人賠償保険ともに加入していますが、ワースト1の沖縄は5割程度に収まっています。地域間での格差は確かにありますが、いずれにしても90%を超えている地域はありません。

1つの推論にすぎませんが「自賠責保険があるから、任意の自動車保険には加入しなくてもいい」と思っている人は、一定数いるはずです。

自賠責保険だけでは不十分な理由とは?

日本の法律では、自動車を運転する際は自賠責保険に加入することが義務付けられています。そのため、まったくの無保険で運転するのはかなりのレアケースですが、実際はこれに上乗せして任意の自動車保険に加入する人の方が多いです。

つまり「自賠責保険では不十分」と考えている人がいるということですが、その理由について考えてみましょう。

自賠責保険の基礎

自賠責保険とは、自動車損害賠償保険法(自賠法)により加入が義務付けられている保険のことです。

加入しなければ車検にも通らないので、一般道を走行することすらできません。

なお、有効期限が切れた状態で一般道を走行した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。さらに違反点数6点が付加されるため、免許停止処分が科されるので、注意が必要です。

また、有効期限内であったとしても、自賠責保険証明書を携帯せずに一般道を走行していた場合は30万円以下の罰金が科されます。

通常、損害保険会社や自動車販売店を通じて加入するため、加入手続きが済んでいなかったり、有効期限が近付いていたりする場合は、担当者から何らかの連絡があるはずです。

しかし、行き違いも考えられるので、自分でも手続きが済んでいるかは必ずチェックしましょう。

なお、自賠責保険による補償内容を簡単にまとめました。

対人 対物
傷害:120万円(治療費/休業補償/慰謝料) 補償なし
死亡時:3,000万円(逸失利益/治療費/慰謝料/葬儀費用)
後遺障害時:4,000万円(逸失利益/治療費)

自賠責保険だけでは不十分な理由

法律で自賠責保険への加入が義務付けられていて、しかも罰則まで設けられている以上、事故を起こしたとしても備えが全くない人はごく少数です。

しかし、それでも筆者は自賠責保険だけで自動車事故に備えることは難しく、現実的には任意の自動車保険に入らざるを得ないと思っています。

その理由として

  • 対物事故には備えられない
  • 傷害死亡でも3,000万円までしか補償されない
  • 自己破産しても賠償金の支払いは免除されない

の3点について解説しましょう。

対物事故には備えられない

自賠責保険の場合、補償の対象としているのは対人事故(相手がケガをしたり、万が一のことになってしまったりする事故)のみです。しかし、対物事故(他人の物を壊したり、店舗を壊したりなどして、休業に追い込む事故)も、自動車事故においては多数発生しています。

そして、対物事故の中には、たとえ個人であっても数千万円の賠償が求められる事例も少なくありません。例えば、過去には乗用車の運転手がブレーキとアクセルを間違え、ペットショップに突っ込んでしまう事故がありました。

ペットショップ側は損害賠償を求めて裁判を起こしましたが、加害者側に建物・商品・什器備品の損害および工事に伴う休業による売り上げの減少を勘案した金額として、2,221万円を賠償するよう命じられたのです(東京地裁平成23年11月25日判決)。

出典:損害保険料算出機構「2019年度版 自動車保険の概況」

このように、対物事故であっても、数百万円から数千万円単位での賠償を命じられることは十分にあり得ます。しかし、自賠責保険は対物損害への補償を行わない保険である以上、任意で自動車保険に加入していないと、とても払える金額ではありません。

傷害死亡でも3,000万円までしか補償されない

自賠責保険では対物事故は補償されないものの、対人事故は補償されます。だからといって安心はできません。亡くなってしまった場合(傷害死亡)は上限が3,000万円まで、重い障害が遺った場合(後遺障害)は上限が4,000万円までと決まっています。

しかし、実際に裁判になった場合、具体的にどれだけの金額が損害賠償として命じられるかは人それぞれですが、この金額では到底収まらないことも少なくありません。

ここで、過去の自動車事故(対人事故)において、高額の賠償が命じられた判例をまとめました。

損害額 判決日 年齢・性別 被害状況
5億2,853万円 2011年11月1日 41歳・男性 死亡
4億5,381万円 2016年3月30日 30歳・男性 後遺障害
4億5,375万円 2017年7月18日 50歳・男性 後遺障害
4億3,961万円 2016年12月6日 58歳・女性 後遺障害
3億9,725万円 2011年12月27日 21歳・男性 後遺障害

出典:損害保険料算出機構「2019年度版 自動車保険の概況」

このうち、最高額である5億2,853万円の賠償が命じられた判決について、もう少し詳しくみてみましょう。被害者の41歳男性は眼科医で、自分でクリニックを開業していました。そのため、通常の会社員と比べると、現役を引退するまでに得られる収入が非常に多いことが反映され、このような高額の賠償金を命じる判決が出たと考えられます。

もちろん、ここまでの高額の賠償金を命じる判決が出るのは、自動車事故(対人事故)を巡る裁判の中でもごく少数かもしれません。

しかし、被害者の年齢や職業、今後介護が必要になる年数によっては、裁判で命じられる賠償金が3,000万円~4,000万円では足りないことは十分あり得るでしょう。

現在販売している自動車保険では、対人事故における損害についての補償額は無制限となっているものが主流です。賠償金を払ったからといって、亡くなった人が生き返るわけでも、重い障害が一気に解消されるわけでもありません。

しかし、払おうとする意思を示し、実際に払えるようにしておくのは人として最低限果たすべき努めでしょう。それを考えると、任意の自動車保険で備えるのは非常に合理的な選択です。

自己破産しても賠償金の支払いは免除されない

カードローンやクレジットカードの使いすぎなど、債務を抱えてしまい、返済が難しくなってしまった場合は、自己破産の手続きを行うことで、それ以降の支払は免除されます。その事実を知っていれば「交通事故の裁判で損害賠償命令が出ても、自己破産すれば免除してもらえるのでは?」と思うかもしれません。しかし、これは全くの間違いです。

交通事故が原因で人にケガをさせたり、死なせてしまったりした場合、傷害や過失致死という不法行為を行ったことになります。

不法行為が原因で生じた損害賠償は「非免責債権」に当たるため、自己破産をした場合であっても支払いは免除されません。

実際に払えない場合にどうするかは、弁護士と協議の上決めることになりますが、そうならないためにも任意の自動車保険で備えることを忘れないようにしましょう。

FP 荒井 美亜

FP 荒井 美亜あらい みあ

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大学院まで行って公認会計士を目指していたものの、紆余曲折を経て今は「日本一、お金のことを楽しくわかりやすく説明できるライター兼ファイナンシャルプランナー」目指して活動中です。日本FP協会のイベントのお手伝いもしています。保有資格)日本FP協会認定AFP、FP技能検定2級、税理士会計科目合格、日商簿記検定1級、全経簿記能力検定上級、貸金業務取扱主任者試験合格

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