生命保険や医療保険(死亡特約が付帯している場合)に加入していた人がケガや病気など、何らかの理由で亡くなった場合は、基本的に死亡保険金が支払われます。しかし、詳しくは後述しますが、生命保険が本来の目的から外れて利用される恐れが高いと判断される場合は、死亡保険金は支払われません。
自殺の場合も、そこに至るまでのいきさつが「本来の目的から外れて生命保険が利用される恐れがある」と判断された場合、死亡保険金は給付されないでしょう。そこで今回は
- 死亡保険金が支払われない3つのケース
- 自殺で死亡保険金が支払われるかを左右する要因
について解説しましょう。
目次
死亡保険金が支払われない3つのケース
モラルリスクを排除することが目的
そもそも、人が亡くなってしまったときに、死亡保険金が支払われないことがあるのはなぜかについて、説明しておきましょう。一言でまとめると
です。本来、生命保険は「亡くなってしまったり、二度と働けなくなるほどの重い障がいを負ってしまったりした場合に、自身や家族の生活を保障するためのもの」です。
この目的から明らかに外れる形で生命保険が悪用されないよう、一般社団法人生命保険協会や加盟生命保険会社は
- 契約内容登録制度の実施
- 契約内容照会制度の実施
- 支払査定時照会制度の実施
- 不正請求対応の推進
- 警察との連携の強化
- 暴力団排除条項の約款への導入
- 「保険金不法取得目的の保険契約の無効」を約款に規定
などの対策を講じ、生命保険の悪用 = モラルリスクの排除に努めているのです。
出典:生命保険制度の悪用(モラルリスク)への対応 | 協会の取組み | 生命保険協会
死亡保険金が支払われない具体的な3つのケース
つまり
場合は、万が一のことがあったとしても、死亡保険金が支払われない可能性が高くなります。具体例として
- 告知義務違反をしていた
- 明らかに保険金目当てで自殺した
の2つを解説しましょう。
告知義務違反をしていた
具体的な項目は保険会社や商品によって多少違いはありますが、一般的に、生命保険(死亡保険)に加入する際は、以下の質問に対して正しく回答しないといけません。
- 業種、職種、勤務先名、年収
- 過去2年以内の健康診断の受診有無、および異常指摘の有無
- 身長、体重
- 身体障がいの有無(ある場合はその内容)
- 入院・手術予定の有無
- がん罹患歴または最近3ヶ月以内の検査受診歴について(がん保険「ダブルエール」をお申し込みの場合のみ)
- (女性の方)妊娠の有無、過去5年以内の妊娠・出産に伴う入院・手術の有無(ある場合はその内容)
- 過去5年以内の特定の病気(列挙された病名より選択)の有無(ある場合はその内容)
- 過去5年以内の手術、7日間以上の入院、受診の有無(ある場合はその内容)
- 過去3ヶ月以内の受診の有無(ある場合はその内容)
出典:告知にはどんな項目がありますか? | よくあるご質問 | ライフネット生命
「実は1カ月前に病院行ったけど、生命保険入れないと困るから黙っておこう」などのように、はた目から見たら「大したことないでしょ、それくらい知らせなくても」と思うような些細なことであっても、生命保険に加入する際に正しく知らせていなかったのでは「告知義務違反」として扱われても仕方がありません。
そもそも
を果たしていない以上、保険会社の側からすれば、万が一のことがあったとしても、死亡保険金を払う義務も負わないのです。
後述する「保険金目当ての自殺」「生前の犯罪行為」とは違い、多くの人がうっかりやってしまいがちなことであるだけに、細心の注意を払いましょう。
明らかに保険金目当てで自殺した
既に触れた通り、生命保険は本来「遺された家族のためのもの」である以上、明らかにその目的から外れる形で保険料が支払われる可能性が高い場合は、保険会社も保険料を支払いません。
わかりやすい例として「事業に失敗したなど、莫大な借金を抱えていた人」を思いうかべてみましょう。このような人が「自ら命を絶ってしまえば、家族が死亡保険金を受け取れるはずだから、何とかなるのでは?」と思ったとしても、何ら不思議ではありません。
そのため、保険会社は
- 生命保険に加入した直後に亡くなってしまったのか
- 世帯収入に対してやたらと保険金額が高額ではないか
- 不自然に複数の保険会社と契約していなかったか
を慎重に調査します。調査の結果「この人は、明らかに保険金目当てで自殺した」と判断された場合は、当然、保険金も支払われません。
自殺教唆のケースもある
1険金殺人という言葉があります。まとめると
です。
この定義は、どちらかというと「誰かが直接手をかける」ことが前提となっています。しかし「誰かがその人に対し、自殺を仕向けるようにする(自殺教唆:じさつきょうさ)」ことでも、生命保険の保険金を得ることは(理論上は)可能になります。
保険会社としても、そのことは承知しているだけに「生命保険に加入してから、あまりに短期間しか経過しないうちに自ら命を絶った」という場合には、その背景に自殺をするよう仕向けた人(自殺教唆者)がいないかどうか、慎重に調査します。結果として、自殺教唆者がいたと判断された場合は「明らかに保険金目当てで自殺した(させられた)」と判断し、死亡保険金も支払わないのです。
自殺の場合は「免責期間」がカギになる
本来であれば支払う義務はない
仮に、万が一のことがあったとしても
- 生命保険を申し込む際に告知義務違反をしていた
- 保険金殺人の疑いが濃厚だった
場合は、死亡保険金は支払われません。しかし、自ら命を絶った人が、これら2つの場合に当てはまらない場合はどのように扱われるのでしょうか。
保険法には、以下の規定があります。
第51条(保険者の免責)
死亡保険契約の保険者は、次に掲げる場合には、保険給付を行う責任を負わない。ただし、第3号に掲げる場合には、被保険者を故意に死亡させた保険金受取人以外の保険金受取人に対する責任については、この限りでない。一 被保険者が自殺をしたとき。
二 保険契約者が被保険者を故意に死亡させたとき(前号に掲げる場合を除く。)。
三 保険金受取人が被保険者を故意に死亡させたとき(前2号に掲げる場合を除く。)。
四 戦争その他の変乱によって被保険者が死亡したとき。
つまり、法律上は「亡くなった原因が自殺だった場合は、死亡保険金を支払う義務は負わない」とははっきり扱いが定められているのです。
たまに「自殺した場合は保険金って受け取れないんだって」という話をする人がいますが、その人の考え方は、おそらくこの保険法における規定に基づいたものなのでしょう。
実際は保険会社・商品ごとに免責期間が設けられている
もちろん「義務を負わない」だけで、保険会社の判断で死亡保険金を払ってもかまいません。そのため、実際のところは、亡くなった原因が自殺だった場合でも、100%死亡保険金が受け取れないとは言えないのです。
保険会社・商品ごとに免責期間(亡くなってしまった場合でも、死亡保険金の支払いができない期間)が定められており、その期間を経過していれば、たとえ自ら命を絶った場合でも、事件性がなければ死亡保険金を支払うという扱いをすることがほとんどでしょう。
1年 ~ 3年以内のケースが多い
免責期間は保険会社・商品ごとにまちまちですが、一般的には
であることが多くなっています。
出典:日本生命「ニッセイみらいのカタチ 注意喚起情報 プラス ご契約のしおり 定款・約款」
まずは保険会社に連絡してみよう
もし、万が一、あなたの周囲に、家族が自ら命を絶ってしまった人がいる場合は、冷静に話を聞くと同時に、保険会社に連絡するように伝えてあげましょう。亡くなった人自身が生前に生命保険や医療保険(死亡特約が付帯しているもの)に加入していたのであれば、死亡保険金を受け取れる可能性は出てくるためです。
コメント