2020年初めから日本を含む全世界で、新型コロナウイルス感染症が流行しています。大手調査会社・帝国データバンクによれば、新型コロナウイルス関連倒産の発生件数は、2020年12月16日の時点で808件に上りました。
出典:新型コロナウイルス関連倒産 | 株式会社 帝国データバンク[TDB]
また、法的には倒産の状態まで至っていないものの、苦戦を強いられている会社は多いでしょう。当然「新型コロナウイルス感染症で業績がふるわないので、辞めて欲しい」という相談を従業員にすることだってあるはずです。中には「明日から来なくていいから」と、唐突にクビを告げられることもあるかもしれません。
特に、パート・アルバイトなどの正社員以外の従業員が、このような相談を持ち掛けられる傾向にあります。退職する意思がないにも関わらず、無理やり辞めざるを得ないような話になった場合でも、納得がいかないなら泣き寝入りはしないようにしましょう。対処法として
- 法的に有効な解雇か確認する
- 解雇予告手当があるか確認する
- 公的機関・専門家に相談する
の3つを解説します。
目次
対処法1.法的に有効な解雇か確認する
最初に、そもそも「明日から来なくていいから」は法的に有効なのかを考えてみましょう。
4種類の解雇
一口に解雇といっても、解雇に至った原因を基準にすると、次の4つに分けられます。
懲戒解雇 | 会社のお金を横領したなど、重大な法令違反を犯したことが原因で行われる解雇 |
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諭旨解雇(ゆしかいこ) | 本来であれば懲戒解雇が相当であるものの、本人が反省しているなど、情状酌量の余地があるとし、退職を勧める(社員本人から退職願を出させる)こと |
普通解雇 | 社員の勤務態度(無断欠勤、遅刻が多い)や仕事の能力を理由に行われる解雇 |
整理解雇 | 倒産を回避するための人員整理の一環として行われる解雇。いわゆる「リストラ」のこと |
このうち、懲戒解雇と諭旨解雇は、本人に明らかな落ち度があると認められる場合に行われるものです。新型コロナウイルス感染症を理由にして解雇を行う場合、普通解雇もしくは整理解雇が行われるものと考えられます。
普通解雇が認められる条件は?
普通解雇が認められる理由として
- 病気・ケガによる就業不能
- 能力不足、成績不良
- 協調性の欠如
- 頻繁な遅刻や欠勤
- 業務命令に対する違反
の5つが挙げられます。
もちろん、話を切り出すきっかけが新型コロナウイルス感染症だったとしても、遅刻や欠勤が多く、注意されても改善しなかったなど、普通解雇が相当と認められる原因があった場合は、不当解雇であると主張することは難しいでしょう。
整理解雇が認められる条件は?
勤務態度になんら問題がなくても、会社側が「新型コロナウイルス感染症で経営が厳しいから」と、退職を迫ってくるかもしれません。たしかに、整理解雇(リストラ)自体は、倒産を回避するための方法として認められています。
しかし、有効な解雇と認められるためには
- 整理解雇の必要性があること
- 整理解雇回避のための努力を尽くしたこと
- 解雇の人選基準が、客観的・合理的な基準であり、適正にその基準を運用したこと
- 解雇の際、労働者への説明、協議を行うなど、解雇の手続きが妥当であること
の4つの条件を満たす必要があります。つまり
- リストラをしないと倒産する可能性が高い
- リストラに踏み切る前に役員報酬の返上や金融機関など、具体的な対策を講じていた
- リストラ候補者を選ぶ際に、経営者の好き嫌いなどではなく、明確な基準を用いて人選をした
- リストラをせざるを得ない背景について会社から説明があり、その上で話し合いをした
の4点が客観的に認められないといけません。
対処法2.解雇予告手当があるか確認する
仮に、普通解雇や整理解雇の要件を満たしていたとしても、従業員を解雇する際には、スケジュールを考えた上で動かないといけません。
解雇予告手当とは
本来であれば、会社は従業員を解雇しようとする場合は、解雇予定日の30日前までにはその旨を伝えなくてはいけません。何らかの事情で伝えられなかった場合は、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金(目安としては1カ月の給料)を支払わなくてはいけません。従業員の立場からすれば、いきなり無職になってしまう以上、次の仕事を見つけるまでの生活費を確保しなくてはいけないためです。
労働基準法 第20条1項
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。 三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
パート・アルバイトでももらうことは可能
なお、解雇予告手当は、以下にあてはまる従業員に対しては、支払う必要はありません。
- 日雇い労働者
- 2カ月以内の有期契約の労働者(短期アルバイト・パート、派遣など)
- 季節的業務に従事する労働者で、契約期間が4カ月以内の者(夏休み・冬休みのリゾート地でのアルバイトなど)
- 試用期間の労働者
裏を返せば、アルバイト・パートであっても、上に掲げた条件に当てはまらないなら、会社は解雇予告手当を支払わなくてはいけません。
対処法3.公的機関・専門家に相談する
いずれにしても
- 解雇が法的に有効なのか
- 解雇予告手当は支払ってもらえないのか
を争う場合は、公的機関や専門家に相談するのが、解決への一番の近道です。相談すべき公的機関・専門家について知っておきましょう。
労働基準監督署
厚生労働省の出先機関として、全国で管轄する企業の監督や労災の手続きなどを行っています。なお、略称である「労基」「労基署」が広く使われています。
なお、労働基準監督署は会社に対し、法令を守るよう勧告を行うことはできますが、民事的な損害賠償請求を行うことはできません。あくまで「これからどうやって動くべきか」のアドバイスをもらう場所、と思っておきましょう。
労働組合
労働組合とは、社員・パート・アルバイトなどの労働者が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位の向上を目的として組織する団体のことです。大企業であれば、自社内に労働組合が存在することも多いですが、小規模な会社であればあまり望めません。そのため、1人でも入れる労働組合への加入・相談を検討しましょう。
参照:全国一般東京労働組合:東京労組は一人でも加入できる労働組合です。
市区町村議員
市区町村議員個人、もしくは政党ごとの議員団単位で、労働問題を含む生活相談を行っていることは珍しくありません。労働問題に強い専門家とのコネクションも有しているので「まずは話を聞いて欲しい」という場合は、利用を検討してみましょう。
弁護士
会社が全く交渉に応じる気がない、応じるどころか誹謗中傷をしてきたなど、話し合いで解決することが難しい場合は、弁護士に依頼しましょう。その場合、労働問題を得意にしている弁護士に依頼するのが重要です。地域の弁護士会に相談するか、日本労働弁護団などの労働問題に強い弁護士で構成する団体に相談しましょう。
参照:日本労働弁護団 | 日本労働弁護団は憲法で保障された労働者と労働組合の権利を擁護することを目的として、全国の弁護士によって組織された団体です。
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