世界的に見れば、お互いの同意のみで離婚が認められる国の方が少数派です。フィリピンのように法的に離婚という概念が存在しない国があったり(代わりになる制度はある)、フランスやイタリアなど、宗教上の理由から離婚自体はできるものの、裁判による厳格な手続きが求められる国があったりします。
これらの国に比べれば、日本はお互いの同意があれば離婚することは基本的に可能です。しかし、お互いの同意が得られなかった場合は、調停委員を交えた調停を経て、最終的には裁判で争うことになります。その際、たとえ相手が拒否していたとしても、離婚が認められる5つのケースについて解説しましょう。
目次
離婚はお互いの同意が前提
3種類の離婚
日本において、離婚を「離婚に至るまでのプロセス」で分類すると、次の3種類に分かれます。
協議離婚 | 夫婦の話し合いのみによって成立する離婚。 |
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調停離婚 | 夫婦のみの話し合いでまとまらない場合、家庭裁判所に対して申立てをし、調停を経て決定する離婚。話がまとまらない場合は家庭裁判所が審判を下すことにより離婚が成立する場合もある(審判離婚) |
判決離婚 | 調停で話がまとまらず、審判に対して異議申立てがあった場合、離婚するかしないかを裁判で争うことになる。状況次第では最高裁まで争うことになるので、実際に離婚できるまでに時間がかかる。 |
離婚裁判は長引けば長引くほど、話がエスカレートして泥沼化し、報復や意地の張り合いになりがちです。そのため、途中で終わらせるために、平成16(2004)年からは、和解離婚・認諾離婚が認められるようになりました。
和解離婚 | 裁判の途中で当事者同士が歩み寄り、和解によって離婚裁判を終了させること。 |
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認諾離婚 | 離婚訴訟を起こしている間に、被告が原告の訴訟の言い分を全面的に受け入れることで離婚裁判を終了させること。 |
大まかな流れは以下の通りです。
なお、2017年の日本国内の離婚件数は212,262件でした。内訳は以下の通りです。
種類 | 件数(件) | 割合(%) |
---|---|---|
協議離婚 | 184,996 | 87.155% |
調停離婚 | 20,902 | 9.847% |
審判離婚 | 772 | 0.364% |
和解離婚 | 3,379 | 1.592% |
認諾離婚 | 9 | 0.004% |
判決離婚 | 2204 | 1.038% |
合計 | 212,262 | 100% |
出典:人口動態調査 人口動態統計 確定数 離婚上巻 10-4 離婚の種類別にみた年次別離婚件数及び百分率 | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口
法定離婚事由とは
既に触れた通り、日本では、結婚と同じく離婚もお互いの同意に基づくことを原則にしています。
民法 第763条
夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
しかし、同意に至らなければ、調停を経て最終的には裁判で離婚できるか否かを争うことになります。そして、審判や裁判で「あなたの離婚請求を受理する」という判決が下されれば、相手がたとえ離婚に応じなかったとしても、離婚することができるという仕組みです。
その際の判断基準になるのが、民法上の法定離婚事由です。つまり、離婚すべく訴えを起こした理由が、法律で定める一定のケースに当てはまるかどうかで判断されます。
民法
第770条
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
ここから先は、民法の条文で定められている内容を、かみ砕いて解説しましょう。
ケース1.相手が不倫していた
不貞行為とは
不倫や浮気といった方がわかりやすいでしょう。
離婚できる具体的なケース
人によっては、配偶者が外で異性と話していた、メールやSNS上のメッセージのやり取りをしていた、というだけでも浮気や不倫に近いほどの嫌悪感を覚えるかもしれません。
しかし、離婚の原因になりうる不貞行為は、それよりもかなり限定的に解されています。具体的には
- 継続的に肉体関係を持っている
- 別宅を設けて同棲している
- ホテル、旅館に入って2人きりだった
などが考えらます。逆に
- 手をつなぐ、キス、ハグをする
- 愛情表現が含まれたメールのやり取りをする
- 2人だけでデート、食事をする
- 強姦された
などの場合は、不貞行為とはみなされにくいのが実情であるため、これを理由にして離婚裁判で争うのは難しいでしょう。
ケース2.相手が生活費を入れてくれない
悪意の遺棄とは
本来、夫婦は同居し、互いに助け合うことが法律でも決められています(相互扶助義務)。
第752条
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
悪意の遺棄とは、この相互扶助義務を正当な理由もないのに果たしていないことを指しています。
離婚できる具体的なケース
離婚の事由として認められうる具体的なケースには
- 収入があるのに生活費を家に入れない
- 妻が専業主婦であるのに生活費を渡さない
- どちらか一方が病気で働けないのに医療費を出さない
- 互いの合意がないのに一方的に家を出て行った
- 理由なく家出を繰り返す
- 一方を家から閉め出して、帰宅できないようにしている
- 「俺が養ってやっている」などお金に関する暴言を浴びせる
などが考えられます。近年話題になっている経済的DVも、この悪意の遺棄に含まれるのです。
一方
- 単身赴任が理由で別居していた
- 収入が少ないので生活費・医療費を工面できない
- 病気で働けないから生活費を渡せない
などの場合は、一緒に暮らしていないことにも、お金を渡せないことにも正当な理由があるため、悪意の遺棄としては認められません。
ケース3.失踪して生死不明の状態になっている
生死不明
配偶者がある日突然いなくなり、生死不明の状態になっているなら、結婚生活を続けようがありません。
なお、生死不明とは「全く連絡の取りようもなくて、生きているのか死んでいるのかもわからない」ことを指します。
そのため
- 連絡は取れないが住民票をたどれば居場所がわかる
- 居場所は分からないが生きていることは確実にわかる
場合は、生死不明とは認められません。
失踪宣告の利用も視野に
なお、配偶者が生死不明の場合は、失踪宣告の利用も視野に入れましょう。これは、一定の条件のもとに、行方不明の人を法律上亡くなったこととして扱う仕組みのことです。配偶者が行方不明になって、7年間生死不明の状態である場合は、家庭裁判所に対して申し立てをすれば、失踪宣告が受けられます。
民法 第30条
一 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
二 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
生死不明を理由にして離婚してしまった場合、その時点で配偶者ではなくなるので配偶者が持っていた財産を受け取ることはできません。
ケース4.精神病で入退院を繰り返している
回復の見込みがない強度の精神病とは
先ほど紹介した民法第770条の条文には、離婚の訴えを提起できる条件として「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」が挙げられています。
具体的にどんな病気を指すのかは特定されていませんが
- 統合失調症
- 躁うつ病
- てんかん発作が原因の脳組織障害
- 脳腫瘍の再発による植物状態
などが、これまでに裁判で「強度の精神病」として認められてきました。
離婚後の相手の生活にも配慮すること
もちろん、これらの病気であっても、投薬やカウンセリングなどで症状をコントロールできるなら、離婚の理由として認められない可能性が高いです。
また、離婚が相当と判断する場合でも、簡単に離婚を認めてしまったのでは、病気が治りそうにないから見捨てて離婚するという話がまかり通ることになり、倫理上好ましくありません。
ケース5.結婚生活を続けられそうにないトラブルが発生した
婚姻を継続しがたい重大な事由とは
ここまで紹介してきた原因に当てはまらない場合でも「もうこの人とはやっていけない」と思うほどのトラブルが起きたら、離婚に踏み切るしかないでしょう。その場合は「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるとして、裁判で離婚が認められる可能性があります。
なお、実際に認められるかどうかは、あくまで裁判所が判断することです。夫婦関係を継続できないと感じる理由は人それぞれです。
婚姻を継続しがたい重大な事由の具体例
実際に認められるかどうかは、他の事情も勘案して決まりますが、以下のケースでは「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるとして、離婚が認められる可能性が高くなります。
DVやモラハラ
配偶者から直接暴力を振るわれるDV(ドメスティック・バイオレンス)や、言葉・態度で精神的に追い詰められるモラハラ(モラルハラスメント)があった場合は、これらの行為が「婚姻を継続しがたい重大な事由」と認められる可能性が出てきます。
相手の家族からの嫌がらせ
配偶者が直接手を下しているわけではなくても、配偶者の家族から執拗な嫌がらせを受けていた場合も「婚姻を継続しがたい重大な事由」として認められることがあります。
セックスレス
セックスレスや性行為の強要、嗜好の大幅な隔たりも、どちらか一方が苦痛に思うほどであれば、婚姻を継続できない事由であると判断される可能性が出てきます。
ギャンブルや浪費
ギャンブルや買い物をすること自体が問題なわけではありませんが
- 借金をしてでもギャンブルをしようとする
- 買い物依存症ともいえるレベルで給料の大半を使い込んでしまう
など、明らかに日常生活に悪い影響が及ぶようであれば、婚姻を継続できない事由と判断される可能性が出てきます。
宗教、ネットワークビジネスへの過度な傾倒
買い物やギャンブルと同じく、特定の宗教を信仰したり、ネットワークビジネスに参加したりすること自体も違法ではない以上、それだけでは離婚の原因にはなりえません。
しかし
- 拒否しているのに、配偶者やその他の家族、友人・知人を執拗に勧誘する
- お布施や商品購入代に収入をつぎ込み、生活費が慢性的に不足している
- 宗教やネットワークビジネスの会合で忙しく、家にほとんどいない
など、明らかに日常生活に影響を及ぼすほど傾倒している場合は、婚姻を継続できない事由であるとして、離婚の原因になりえます。
アルコール・薬物依存
配偶者がアルコール・薬物依存になったことが原因で結婚生活が破綻した場合も、婚姻を継続できない事由として認められることがあります。
ただし、近年はアルコール・薬物依存が長期戦にはなるものの、治療可能な病気になりつつあるため、実際に離婚の理由として認められるかどうかは、他の要素も勘案して判断されます。例えば
- 給料の大半を酒代に使ってしまい、生活費を家に入れない
- 酒を飲んで暴力をふるったり、暴言を吐いたりする
など、悪意の遺棄やモラハラ・DVがあると判断された場合は、離婚の事由として認められる可能性が出てくるでしょう。
犯罪による服役
事件を起こして逮捕され、その後服役することになった場合も、罪名次第では婚姻を継続しがたい重大な事由として認められる余地があります。
例えば、逮捕された理由が強制性交等(強姦)などの性犯罪の場合は、不貞行為を働いたとして、離婚事由として認められるでしょう。一方、殺人を働いた場合でも、家では温厚で、特に何も問題を起こしていなかった場合は、離婚事由として認められない可能性も出てきます。
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