日本は世界でもトップクラスの長寿国です。平均寿命は2017年の時点で84.10歳にも達していました。そんな状態では、一般的な会社の定年である60歳は「まだまだ若い」と言わざるを得ません。60歳を過ぎていても、健康上何ら問題がなければ、働いている人も多いでしょう。
定年後も働くことにはメリットがたくさんある一方、意外と見過ごされがちなデメリットもあるのが事実です。メリットとデメリットの両方を踏まえ「自分はどうすべきか」を真剣に考えてみましょう。
目次
定年後も働いている人はどのくらい?
60歳を過ぎても働いている人は決して少なくない
そもそも、定年後(60歳)も働いている人はどのくらいいるのでしょうか。内閣府がまとめた平成30年版高齢社会白書によれば、60歳 ~ 64歳で働いている人=就業者の割合は、男性が79.1%、女性が53.6%にも達しています。さらに年齢が上がり、70歳 ~ 74歳に達しても、男性の34.2%、女性の20.9%が働いているのです。
出典:1 就業・所得|平成30年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府
ここまでくると、定年はあくまで「その会社での仕事を一度辞めること」にすぎず、「仕事を一切しないであとは自由に過ごすこと」を意味しているわけではないでしょう。
定年後も働くことのメリット
安定継続した収入が入ってくる
定年後も働くことのメリットとして、多くの人が挙げるのが「安定継続した収入が入ってくる」ことでしょう。長年会社勤めをしたり、自営業者として仕事をしてきたりしたなら、厚生年金や国民年金として毎月まとまった金額が受け取れます。しかし、これらの年金だけでは、余裕がある生活ができるとは限りません。
ゆとりある生活のためにはいくら稼ぐべき?
実際に受け取れる年金は、その人の現役自体の給料など様々な条件に左右されます。ここでは参考例として、日本年金機構が示している、厚生年金の標準額(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)を用いましょう。令和2(2020)年度の月額は、220,724円となっています。
一方、ゆとりある生活を送るために毎月必要な金額の目安は、361,000円とのことです。
出典:老後の生活費はいくらくらい必要と考える?|公益財団法人 生命保険文化センター
計算しやすくするために、夫婦2人の毎月の年金受給額を22万円、ゆとりある生活を送るための生活費の必要額を36万円とすると、毎月14万円(= 36万円 - 22万円)足りないことになります。健康上の問題がないのであれば、その分を働いてまかなうのがやはり理想でしょう。
自分の経験、知識を社会のために役立てられる
「亀の甲より年の劫」という言葉があります。つまり、年齢を重ねることで得てきた経験や知識には非常に価値があるという意味です。しかし、仕事を通じて得てきた経験や知識は、やはり仕事をしていくことで最も役立てることができるでしょう。本やセミナーだけでは学べない知識を、社会のために役立てていければ、それは立派な社会貢献です。
人や地域とのかかわりが持てる
一生懸命働いてきた人の場合、仕事を辞めてしまうと、人とのかかわりが全くなくなってしまうことは十分に考えられます。定年後も人とのかかわりを保つためには、別のところで働くなど、自分から強制的に外に出ていく仕組みを作らなくてはいけません。
プロボノに参加するのもあり
近年、ボランティアとは違った社会貢献の形として注目されているのが、プロボノです。
NPOや地域団体は、社会に存在する問題を解決する強いモチベーションを持って設立されているものの、すべての分野に精通しているわけではありません。
例えば、情報発信力やパソコンのスキルが乏しいため、Webサイトを作ったり、リニューアルすることすらままならないことだって考えられます。そこで、Webデザインやパソコンの知見を持った人がボランティアとして協力し、課題の解決につなげるのです。
病気の予防にもなる
老後にかかりやすい病気の1つとして、認知症が挙げられます。認知症の原因は様々ですが、その1つとして考えられるのが「脳の前頭前野の機能の衰え」です。脳の前頭前野という部分は
- 考える
- 行動や感情をコントロールする
- コミュニケーションをする
- 記憶する
- 応用する
- 集中する
- やる気を出す
という働きを担っていますが、使わないでいると当然退化してしまいます。退化を防ぐには、いつもと違うことをしたり、人と関わったりするのが有効です。
定年後も働くことのデメリット
受け取れる年金を減らされる恐れがある
一方、定年後も働くことに、まったくデメリットがないわけではありません。代表的なデメリットとして挙げられるのが「受け取れる年金が減らされる可能性が出てくる」ことです。
特別支給の老齢厚生年金
本来は、老齢基礎年金および老齢厚生年金は65歳にならないと受け取れません。
しかし、 男性の場合は昭和16(1941)年4月2日から昭和36(1961)年4月1日以前、女性の場合は昭和21(1946)年4月2日から昭和41(1966)年4月1日以前に生まれた人であれば、65歳よりも早い段階で老齢厚生年金を受給できる制度が適用されます。この制度が「特別支給の老齢厚生年金」です。
しかし、「収入が一定額以上になると、受け取れる老齢厚生年金が減らされる」ことに注意しなくてはいけません。簡単にいうと、年金と賃金(仕事でもらえる給料)の合計額が毎月28万円を超える場合は、その金額に応じて老齢厚生年金が減らされてしまいます。
なお、老齢厚生年金が減らされてしまうのは、あくまで会社で働いて賃金を受け取っているのが前提です。自営業やフリーランスで働いている場合は、この制度の適用は受けません。「働きたいけど、年金は減らされたくない」と思うなら、働き方を変えてみるのも一興でしょう。
現役の時と同じ収入、条件で働くのは難しい
大企業を中心に、定年後も再雇用制度という形で一定の年齢(65歳程度)まで契約社員・嘱託社員として働くことができる制度が設けられています。
このような再雇用制度は、慣れ親しんだ職場で働き続けられるというメリットがある一方
- 有期契約が基本であるため、いつかは働けなくなる
- 雇用契約が正社員から契約社員などに変わるため、収入も下がる
- 正社員に比べると、責任ある仕事を任せてもらいにくい
というデメリットがあるのも事実です。無理をしない程度に働きたい、という人には適した制度かもしれませんが、現役のときと変わらない働き方をしたい、という人には物足りないかもしれません。
また、定年後に別の会社に再就職するという選択肢もありますが、優れた経歴と能力、運とタイミングがなければ、なかなか自分が希望する条件で働くことは難しいでしょう。
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