「石の上にも三年」という言葉があります。これは「冷たい石の上にも3年座っていればそれなりに温かくなる。つまり、粘り強く取り組まないと結果は出ない」ということわざですが、仕事についても「とりあえず3年は勤めてみるように」という意味でよく使われています。それにも関わらず、新卒で入社した会社を3年どころか1年足らずで辞めてしまう人もいるのが事実です。
詳しくは後述しますが、周囲に与える印象は決して良くない上に、その後の転職活動にも支障をきたしかねないので、基本的にはおすすめしません。しかし、それでも退社すべきケースもあるので、解説しましょう。
新卒入社1年以内で退社する人の言い分
労働時間・休日・休暇の条件が良くない
そもそも、新卒入社1年以内で退社する人は、何が原因で辞めてしまうのでしょうか?そのヒントをデータから読み解いてみましょう。
独立行政法人労働政策研究・研修機構がまとめたところによれば、新卒入社1年以内で退社した人が、退社の理由として挙げていたものの中で最も多かったのは「労働時間・休日・休暇の条件が良くない」でした。最終学歴が大学・大学院卒の男性の場合は46.8%、女性の場合は39.2%がこの理由を選んでいます。
出典:早期離職とその後の就業状況 – 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
具体的にどんなことを指しているのかは、このデータからは読み解けませんが
- 終業時間が遅い
- 残業や休日出勤が常態化している
- 有給休暇が取れない、取ろうとすると文句を言われる
などが考えられます。
仕事が自分に合わない
また「仕事が自分に合わない」という理由を挙げる人もいました。最終学歴が大学・大学院卒の男性の場合は35.3%、女性の場合は34.9%がこの理由を選んでいます。やはり、具体的にどんなことを指すのかは、この調査からはわかりませんが
- 想像していたより難しい仕事を振られた
- 本来の希望とは違う部署に配属された
などが考えられるでしょう。
人間関係が良くない
そして「人間関係がよくなかった」を理由に挙げる人もいます。最終学歴が大学・大学院卒の男性の場合は27.6%、女性の場合は35.5%がこの理由を選んでいました。女性のほうが7.9%も多いのが特徴的です。より具体的な理由としては
- 陰口、悪口が横行していた
- 女性同士のマウンティング(相手と自分を比較し、自分のほうが優位であるというように話を持っていくこと)が横行していた
- 同僚、上司、取引先からのセクハラにあった
などが考えられるでしょう。
理由は人それぞれではあるものの
結局のところ、新卒入社1年以内で辞めてしまう理由は、人それぞれです。当然、自分の努力で解決できたであろう問題もあれば、どんなに自分が頑張ったとしても解決できない問題だってあるでしょう。
しかし、自分の努力や心がけで何とかなりそうな原因で、新卒入社1年以内での退社を考えているなら、一度踏みとどまってほしいというのが筆者の意見です。その理由をこれから説明しましょう。
新卒入社1年以内での退社は基本的にNGの理由
十分にスキルが得られない状態で会社を辞めるから
新卒で就職する会社の規模にもよりますが、大企業であればあるほど、入社後すぐに現場に出ることは少ないです。入社から3 ~ 6カ月程度は、ビジネスマナー研修や様々な部署でのOJTなど、いわば「見習い期間」を経験することになるでしょう。
もちろん、仕事をしていく上での基本的な知識を身に着けるという意味で、非常に重要ではあるものの、そこで学んだことが、自分の仕事上でのスキルとして通用するわけではありません。
自分の強み・弱みがわからない状態で転職活動を始めることになるから
転職活動において重要なのは
- 自分の強み・弱みを理解すること
- 自分の強みを最大限に活用できる職場を見つけること
です。
しかし、新卒1年以内で仕事を辞めてしまった場合、実際に会社で仕事をしていた期間はごくわずかである以上、自分の仕事における強みや弱みもわからないままになってしまいます。その状態で転職活動を始めても、自分に合う会社を見つけられなかったり、面接での受け答えがぎくしゃくしてしまったりと、必ずどこかで問題が出てくるはずです。
面接で「すぐに辞めそう」と思われてしまうから
実は、会社にとっても、新しく人を採用することは、一種の高い買い物です。
株式会社リクルートキャリア傘下のシンクタンク・就職みらい研究所がまとめた「就職白書2019」によれば、2018年度の新卒採用における採用単価は72.6万円、中途採用の場合は84.8万円という結果が出ています。
仮に、面接の場で「新卒で入社した会社を1年以内で辞めました」という話が出た場合、面接官はなぜそうなったのかを聞いてくるでしょう。
もちろん、後述するように「パワハラやセクハラを受けた」「会社が倒産した」など、本人の努力や心構えではどうしようもできない問題が原因なら別ですが、納得のいく理由を示せなければ、採用されない可能性が高いことにも注意してください。
転職後も正社員になれる確率が下がるから
新卒で入社した会社を1年以内で辞めた後、どのような身の振り方をするかは人それぞれですが、転職後も正社員でいたいと思うなら、転職活動の進め方を考えるべきかもしれません。
先ほど紹介した独立行政法人労働政策研究・研修機構がまとめたデータによれば、新卒で入社してから退社するまでの期間が短ければ短いほど、その後正社員として採用される確率は低くなります。最終学歴が大学・大学院卒の人についてまとめてみました。
性別 | 新卒で入った会社を辞めるまでの期間 | その後正社員として働いている人の比率 |
---|---|---|
男性 | 1年未満 | 68.60% |
1年~3年未満 | 72.90% | |
3年以上 | 75.20% | |
女性 | 1年未満 | 39.80% |
1年~3年未満 | 32.50% | |
3年以上 | 28.00% |
出典:早期離職とその後の就業状況 – 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
女性の場合、結婚・妊娠・出産をきっかけに退職し、その後はアルバイト・パート、派遣社員など家庭に負担のない形で働くのも珍しくないため、数字が低めに出ています。しかし、このような事情になることが少ないと思われる男性であっても、新卒入社1年未満で会社を辞めてしまった場合、正社員として再就職できない人が3割以上出てくる計算になるのです。
不利になるのが分かっていても新卒入社1年で退社すべきケースとは?
パワハラ、セクハラを受けた
ここまで触れてきた通り、大学・短大・専門学校・高校を卒業して就職する場合、1年以内で辞めるのは、得策とは言えません。しかし、例外ももちろんあります。
例えば
- 体調に異常をきたすほどのパワハラ、セクハラを受けた
- 職場の雰囲気がいつも悪く、ミスの擦り付け合いや陰口・悪口が横行している
など、職場の人間関係に明らかに問題がある場合は、早い段階で見切りをつけて辞めるほうがいいでしょう。
会社の運営体制に大きな問題がある
また、会社の運営体制に明らかに問題がある場合も、なるべく早めに会社を辞めたほうがいいでしょう。そもそも、運営体制に問題があるということは、経営者および役員が法律や慣習を無視した、モラルのない経営を行っているということです。
わかりやすいのが、労災保険料の扱いです。本来、会社は社員(正社員、契約社員、パート・アルバイトなど)を1人でも雇ったら、労災保険料を払わなくてはいけません。しかし「労災保険料を払うのがもったいないから」という理由で払わない経営者がいるのも事実です。
また
- 残業、休日出勤が常態化している
- 土日などの公休日、有給休暇の取得中、深夜早朝の時間帯であるにもかかわらず、不要不急の連絡が頻繁に来る
- 有給を取ろうとすると文句を言われる、理由を追及される
など、労務管理に明らかに問題がある会社も、できることなら早めに退職したほうが、身のためでしょう。
留学、進学など他にやりたいことができた
逆に、自分の将来にプラスになる理由で会社を辞めるのも、1つの選択肢です。
- 将来的に海外で働くために留学がしたい
- 大学でやり残した勉強があるから大学院に進学したい
- 難関資格を取りたいので専業受験生になりたい
など「将来の自分のための勉強をしたい」という希望があるなら、会社を辞めて背水の陣で臨むといいでしょう。
ただし、この理由で会社を辞める場合は、「働いているより勉強したほうが楽だから」など、ぼんやりとした理由では不十分です。
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