現在、日本ではおよそ3組に1組の夫婦が離婚するといわれています。当然その中には、子どものいる夫婦も含まれているはずです。
そして、たとえ離婚したとしても、親子の縁が切れるわけではないので、養育費を負担する義務は生じます。離婚の際に養育費を支払う取り決めをしたにも関わらず、養育費を支払ってもらえない場合、どう対応すべきか知っておきましょう。
目次
まずは内容証明郵便での請求を行う
内容証明郵便とは
養育費を支払ってもらえないからといって、いきなり後述するような養育費請求調停や強制執行に及ぶのはいささか乱暴です。まずは相手に「ちゃんと養育費を支払ってほしい」という意思を伝えましょう。一般的に用いられているのは、相手方に内容証明郵便を送ることです。
これ自体に法的な効力はありませんが、強い意思表示ができるので、相手にプレッシャーを与えることができます。
内容証明郵便の作り方
内容証明郵便はかなり特殊な郵便物であるため、郵便局の規定にしたがって書面を作成しなくてはいけません。作成する際は、以下の点に注意しましょう。
差出郵便局
日本郵便では、内容証明郵便を出すことができる郵便局を「集配郵便局および支社が指定した郵便局」と定めています。
扱ってもらえない場合は、扱いのある近隣の郵便局を教えてもらってください。
差出方法
郵便局の窓口に、次のものを持っていきましょう。
- 内容文書(受取人へ送付するもの)
- 内容文書の謄本2通(差出人および郵便局が各1通ずつ保存するもの)
- 差出人および受取人の住所氏名を記載した封筒
- 内容証明の加算料金を含む郵便料金
- 差出人の印鑑
また、内容証明郵便を送る場合の送料は
の合計額となります。
内容証明の加算料金は謄本の枚数で決まる仕組みです。1枚目は440円、2枚目以降は1枚増えるごとに260円が加算されます。
たとえば
- 基本料金:定形郵便物(25グラムまで)
- 一般書留の加算料金の扱い:損害要償額が10万円まで
- 謄本の枚数:2枚
とした場合
となります。
謄本の書式
この謄本は、用紙の大きさや記載用具に決まりもないので、パソコンやコピーで作成して構いませんが、行数・字数に制限があるので気を付けてください。
区別 | 字数・行数の制限 |
---|---|
縦書きの場合 | ・1行20字以内、1枚26行以内 |
横書きの場合 | ・1行20字以内、1枚26行以内 ・1行13字以内、1枚40行以内 ・1行26字以内、1枚20行以内 |
字数の計算方法や文字・記号の訂正、いわゆる割り印についても細かい規定があるので、事前に日本郵便のホームページで確認しましょう。
公正証書がない場合の養育費の請求方法
内容証明郵便を送っても、相手から何の反応もない場合は、養育費の請求を見据えて動きましょう。まず、離婚の際に公正証書を取り交わしてしなかったケースについて解説します。
公正証書とは
養育費請求調停とは
養育費の支払いも、お金を支払う契約としての側面も有していることから、本来であれば口約束だけではなく、公正証書の取り交わしをしておくべきでしょう。しかし、公正証書は契約の当事者(ここでは元夫婦の2人)が合意しないと作成できないため、取り交わしをしないまま離婚してしまう夫婦もたくさんいます。
簡単に言うと「養育費を支払ってくれないが、どうすればいいか」について、裁判官1名と調停員2名を交えて話し合いすると考えましょう。
養育費請求調停の基本的な流れ
基本的な流れは以下の通りです。
- 相手方の住所地の家庭裁判所もしくは当事者が合意で決めた家庭裁判所に申立てをする
- 家庭裁判所が調停のスケジュールを決め、当事者に調停期日呼出状を送付する
- 初回の調停が行われ、裁判官・調停員が双方の意見を聞く
- その後、月1回のペースで数回調停を行い、成立・不成立・取り下げのいずれかの決定を行う
なお、成立・不成立・取り下げの意味は以下の通りです。
- 成立:互いが合意し、調停で決めたことを書類に残して完了する
- 不成立:互いが合意できないので、調停を終了させて審判に移行する
- 取り下げ:申立人が取り下げ書を家庭裁判所に提出し、調停自体が終了する
なお、調停にかかる費用は、子どもの人数によって異なります。例えば、子ども2人の場合
- 収入印紙代:1,200円 × 2人 = 2,400円
- 郵便切手代:1,000円程度
です。また、申し立の際は
- 申立書及びその写し1通
- 対象となる子の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 申立人の収入に関する資料(源泉徴収票、給与明細、確定申告書、非課税証明書の写しなど)
が必要になるので、あらかじめ用意しておきましょう。また、追加で資料の提出を求められることもあるので、適宜対応してください。
養育費請求調停がうまくいかない場合の対応
養育費請求調停がうまくいかない場合は、審判に移行します。一般的な「裁判」をイメージするとわかりやすいでしょう。
調停のように「話し合いで決める」のはなく、裁判官が判決を下すのが、決定的な違いです。実際は、裁判所が双方に対して養育費に関する主張・事情を聴き、証拠として提出された収入・子どもに関する資料を勘案して、判断を行います。
審判は裁判所による決定であるため、仮に審判後に養育費の未払いが発生したら、強制執行により給料・財産の差押えが行えるほどの力を有するものです。
審判が納得できない結果に終わったとしても、2週間以内に不服の申立て(即時抗告)をすれば、再度審理が行われます。ただし、この場合は家庭裁判所から高等裁判所に審判の場が移る点に注意してください。
公正証書がある場合の養育費の請求方法
一方、離婚の際に養育費についても公正証書の取り交わしをしていた場合は、ない場合に比べると話は簡単です。
履行勧告とは
仮に、養育費の支払いに関する公正証書の取り交わしをしていたにも関わらず、支払い義務を負う人が支払わなかった場合、履行勧告に踏み切ることができます。簡単にいうと、相手方に取り決めを守るように伝え、説得してもらう制度です。
相手の住所地を管轄する家庭裁判所に行き、必要書類に記入するだけで手続きは終わります。
履行勧告を行っても相手が応じてくれない場合は、さらに一歩進んだ手続きとして、履行命令を行うことができます。
家事事件手続法
(義務履行の命令)
第二百九十条 義務を定める第三十九条の規定による審判をした家庭裁判所は、その審判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った者がある場合において、相当と認めるときは、権利者の申立てにより、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命ずる審判をすることができる。この場合において、その命令は、その命令をする時までに義務者が履行を怠った義務の全部又は一部についてするものとする。
(中略)
5 第一項(第三項において準用する場合を含む。)の規定により義務の履行を命じられた者が正当な理由なくその命令に従わないときは、家庭裁判所は、十万円以下の過料に処する。
強制執行とは
履行命令まで行っても、相手方から何のリアクションもない場合は、強制執行を行い、相手方の財産を差し押さえるしかありません。簡単にいうと、養育費を支払ってもらえない代わりに、相手の財産を没収する手続きと考えましょう。
大まかな流れは以下のとおりです。
- 相手に関する情報を収集する
- 申立てのための書類を準備する
- 地方裁判所に対して申立ての手続きを行う
- 差押え申立てが成立するのを待つ
- 取立てを行う
- 未払い分回収後、取立て届を裁判所に提出する
ちなみに、差押ができる財産は、動産・不動産・債券の3種類です。
動産 | 不動産以外の財産。現金、絵画、宝石、ブランド物など。ただし、相手の生活に必要な衣類・家電、仕事道具、備品類、一定の現金(66万円まで)は差押できない。 |
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不動産 | 相手名義の家や土地など。元配偶者が婚姻前に取得した不動産があれば、それも差押可能。 |
債権 | 元配偶者が第三者に対して持っている権利のこと。勤務先から受け取る給料、受託先から受け取る報酬、銀行に預ける預貯金などがこれにあたる。 |
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