一体なぜなのかわかりませんが、筆者の周囲には「田舎の実家のすぐ近くに先祖代々持っている山がある」という人がちらほらいました。そして、そのような人が決まって口にする言葉が「実際、家族に万が一のことがあって相続したとしても、一体どうすれば良いのかわからない」です。
確かに、街中にある土地なら、不動産会社に話を持ち込んで売却したり、アパートを建てて人に貸したり、何なら自分や家族が家を建てて住むなど、何らかの活用法は見いだせるでしょう。
しかし「田舎の実家の近くの山」となると、何をどうしたらいいかさっぱり思いつかない人がほとんどかもしれません。
いっそ売ってしまうのも1つの手段ですが、買い手がそう簡単に見つかるとは限らない上に、「あの山は先祖代々受け継いできたものだから、簡単に売らないで欲しい」などと家族から言われる可能性も往々にしてあるのです。
そこで今回は「今すぐに山を売らなくてもできる活用法」の1つとして「ソロキャンパーに山を貸すためのマッチングサービス」を紹介しましょう。
目次
田舎の山を相続して困っている人は多い
本題に入る前に、実際のところ、どれだけ世の中に「田舎の山を相続して困っている人」がいるのか調べてみることにしました。
「タダ」もしくは「自腹」でも手放したい人は多い
国土交通省は、山(山林)を既に所有している人に対して「所有し続けたいか、無償あるいは費用を払ってでも手放したいか」について調査を行いました。その結果をまとめたのが、こちらの円グラフです。
出典:国土交通省国土政策局総合計画課「H30年個人土地所有者向けアンケート結果について(保有の意欲を失い、権利放棄を望んでいる土地の実態把握調査)」より筆者作成
「すべての土地について所有権を手放したい」と答えている人が全体の約3割にも上ります。
なお、質問文には「無償あるいは費用を払ってでも」という条件が付されていたため、砕けた言い方をすると「約3割の人がタダ・自腹でも良いから手放したいと思っている」ということです。
なお、同じ調査における宅地と農地の土地所有意思に基づいたグラフも作りました。
出典:国土交通省国土政策局総合計画課「H30年個人土地所有者向けアンケート結果について(保有の意欲を失い、権利放棄を望んでいる土地の実態把握調査)」より筆者作成
出典:国土交通省国土政策局総合計画課「H30年個人土地所有者向けアンケート結果について(保有の意欲を失い、権利放棄を望んでいる土地の実態把握調査)」より筆者作成
まとめると、宅地や農地であれば
- 自分たちで家を建てたり、不動産会社に売却したりしやすい
- 自分たちや親族に耕作をしてもらったり、貸し農場として人に使ってもらったりしてもよい
など「土地をどのように使えば良いか」が何となくは見えてくるはずです。
「タダ」もしくは「自腹」でも手放したいのはなぜ?
しかし、山林に関してはなかなか「土地をどのように使えば良いか」というビジョンが見えてこない上に、その他の問題もたくさんあります。考えられる問題として、次の3つを解説しましょう。
維持費や税金がかかる
山は定期的に手入れをしないと荒れていきます。手入れをするにも売るにしても、山林整備を手掛ける林業会社に依頼しないと現実的には難しいため、それなりに経費がかかるのが実情です。
また、山を持っている限りは、固定資産税(=固定資産税課税評価額×1.4%)がかかります。
例えば、固定資産税課税評価額が100万円だったとしたら、毎年14,000円の固定資産税を払わなくてはいけません。このあたりの鑑定評価および税額の算定は、不動産鑑定士や税理士などの専門家に任せたほうが良いため、報酬も必要になります。
- 山がどこにあるのか
- どんな状態なのか
- 山の中に空き家がないか(宅地として扱われるため)
など、個々の事情によっても異なりますが、いずれにしても、山を持ち続けている限りは「経費はゼロ円で済む」ことはあり得ないと思っていた方が良いでしょう。
森林管理・経営をする意思がない
山林を使ったビジネスの代表例として、林業が挙げられます。簡単に言うと
- 森の木を伐採し、切った木を加工して販売する
- 森に木を植えて育てる
仕事です。
文字で書くと簡単なようですが、実際はかなり続けていくのが難しい仕事の1つと言っても良いでしょう。1つの原因として「他の仕事に比べて、事故に巻き込まれるリスクが非常に高い」ことが挙げられます。
厚生労働省は毎年「千人率」といって「仕事中のケガ・病気が原因で4日以上仕事を休むなどのトラブル(労働災害)に遭った人が、1,000人のうち何人いるか」という指標をまとめています。
実は、林業は同じ第一次産業である農業・漁業と比べても、この数値が格段に高くなっています。
- 林業:25.5
- 農業:5.8
- 漁業:7.4
つまり「農業では1,000人のうち5.8人が、漁業では1,000人のうち7.4人が労災に巻き込まれたのに対し、林業では1,000人のうち25.5人が労災に巻き込まれている」と考えましょう。
出典:職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (令和2年)
このような特殊な事情も1つの要因となってか、林業従事者数も年々減少してきています。林野庁も
- 森林所有者への林業経営体に対する施業の委託
- 若年層からの林業従事者の育成
など、様々な官民共同の取り組みをしていますが、これらの取り組みがどれだけ成果の得られるものになるかは、現時点ではまだまだ不透明です。
売却したいけど売れる見込みもない
山林はなかなか売れないことでも知られています。理由として挙げられるのは
- 場所によっては「最寄り駅から車で2時間」など、かなり不便な場所にあり、用途も限定される
- 土地本体の価値だけではなく、山に生えている木(立木)の価値によっても価格が変動する
など、山林ならではの独特な事情です。
ソロキャンパーが救世主になるかも?
ここまでの話をまとめると
- 山林は持っているだけで税金や経費がかかる
- 山林を使って林業を始めようとしても、事故率が高い職種であるなどの理由でかなりハードルが高い
- 売却しようとしても、すぐに買い手がつかないことが往々にしてある
の3つが「タダもしくは自腹でも良いから山を手放したい」という理由として浮かび上がってきます。そこで、山林の維持管理費用を確保できる手段について紹介しましょう。
男性の4人に1人はソロキャンプ経験者
山林の維持管理費用を確保できる手段、それは
です。
実は、昨今、キャンプがブームとなっていますが、その中でも特に「1人で行くキャンプ=ソロキャンプ」が男性を中心に人気を集めています。
民間リサーチ会社の楽天インサイトが行った「キャンプに関する調査」によれば、調査対象となった男性のうち25.3%が「同行者なしのキャンプ」を経験しているとのことでした。
出典:キャンプに関する調査-「ソロキャンプ」の経験割合は?-|楽天インサイト
ソロキャンプが人気の理由は?
ここで、なぜソロキャンプが人気なのか考えてみましょう。
人との接触が避けられる
2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が日本を含めた世界各国で流行していることもあり、余暇の過ごし方が大きく変わりました。「できるだけ家族以外の人との接触を避けるように」過ごすことが求められているのです。
しかし、ソロキャンプであれば、基本的に自分1人で行動するため、家族以外の人と接触することはまずありえません。新型コロナウイルスへの感染のリスクがかなり低い余暇の過ごし方であると言えるでしょう。
自分のペースで楽しめる
もちろん、家族で行くキャンプも「基本的に家族以外と接触しない」以上、新型コロナウイルスへの感染のリスクは低いです。しかし、家族で行く以上は
- 子どもが退屈しないように気を使わないといけない
- 急に体調を崩すなど不測の事態が生じた場合、途中中断して帰宅しないといけない
など「楽しむ」ことよりも「家族が安全に過ごせること」に重点を置かないといけないため、自分のペースでゆっくり楽しむのは難しいかもしれません。
田舎の山の新しい活用法!「YAMAKAS」ってなんだ?
もちろん、「ソロキャンパーに貸すといっても、どうすれば良いの?」と思うかもしれません。興味がありそうな人とSNSで連絡を取り合って貸す、という方法もありますが
- 素性がわからない人に貸すのは、山火事とかのトラブルになりそうで怖い
- 貸すにあたって使用料をどうやって受け取るのか気になる
など、問題があるのも確かです。そこで、知っておくとかなり便利なサービスを見つけたので紹介しましょう。
「YAMAKAS」とは
出典:YAMAKAS ヤマカス & ソロキャンパーと山主のマッチングサービス
それが「YAMAKAS(ヤマカス)」というサービスです。
山主とソロキャンパーのマッチングサービス
名前からもわかるように「山を貸す」ための、山主とソロキャンパーのためのマッチングサービスです。自分が「山を貸す」側になる場合は、以下の流れで手続きを進めます。
出典:YAMAKAS パートナー募集 &ソロキャンパーとキャンプ場のマッチングサービス
「YAMAKAS」を使う3つのメリット
次に、なぜ「YAMAKAS」を使うと良いのか、具体的なメリットについて掘り下げてみましょう。
身元確認済みのキャンパー以外はNGなので安心
ソロキャンパーが実際に「YAMAKAS」を経由してキャンプ場(となる山林を借りる場合は、以下の流れで手続きを進めます。
つまり、予め身元確認を含めた審査を行い、通過した人しか利用できないようになっている仕組みであるため「どこの誰だかわからない人に貸す」ことは起こり得ないのです。
サイト掲載上の固定費は無料
また「YAMAKAS」に自分が所有する山林の情報を掲載する場合であっても、掲載するだけであれば費用は無料です。以下の図にもあるように
- 審査に通過した利用希望者から「YAMAKAS」に月間もしくは年間費用を支払う
- 利用希望者から受け取った月間もしくは年間費用から、サービス使用料(マッチング及びエスクロー費)を差し引いた金額が山主に振り込まれる
と考えるとわかりやすいでしょう。
出典:キャンプ向け山林レンタルサービスをお考えの方をサポートします – YAMAKAS ヤマカス
山の維持費を確保する手段として使える
既に触れた通り、山林を維持していくためには
- 林業会社などの専門業者に手入れを依頼する
- 毎年固定資産税を払う
など、なんだかんだと維持費お金がかかります。「YAMAKAS」を使うと、毎月末年に1回、キャンパーから支払われる費用からシステム利用手数料を差し引いた金額が定期的な収入として入ってくるので、これらの維持費を賄う手段の1つにできるでしょう。
運営会社の方にもお話しを伺いました!
筆者はYouTubeで動画をたまに見るのですが、比較的有名な芸能人の方がソロキャンプをしているのを最近はよく見るようになりました。
「MoneQ Guide」はお金に関連したメディアである以上「相続」という切り口で紹介しましたが、本来はどういう理由で立ち上げたサービスなのか気になったのも事実です。そこで、運営元であるメディコム株式会社の木村様にお話を伺いました。
大人になってキャンプを再開してみたものの…
まず「サービスを立ち上げたきっかけ」について伺いました。
私が小さかったころ「キャンプブーム」が起こりました。我が家も例にもれず、両親・兄弟と何度もファミリーキャンプをしていたのです。
大人になってしばらくキャンプからは遠ざかっていましたが、2年ほど前に「せっかくだからもう一度」と思い、いわゆるソロキャンプという形で再開しました。
その後、新型コロナウイルス感染症の影響により「人との接触が避けられる余暇の過ごし方」という意味で、キャンプが一躍脚光を浴びました。様々な方に楽しさを知ってもらえるという意味ではありがたいのですが、人気のあるキャンプ場以外にも人があふれる事態となってしまったのも事実です。
私が考えていた「静かに1人でキャンプ」ができそうにないので、山林の貸し出しをしている人を探しましたが、なかなか見つかりませんでした。そのため「無いのであれば、自分で仕組み化したらどうだろう?」と思い、サービスにしてみることにしました。
安全に使ってもらえるように配慮しています
次に「運営にあたって意識していること」や「今後の展望」についてお話しを伺いました。
既にアメリカでは、キャンプのために私有地をレンタルするサービスが一般的に用いられております。しかし、私が調べた限り、日本ではこのような「山林をレンタルする」サービスは今までありませんでした。
果たしてこのようなサービスに需要があるのかと思い、Clubhouse(招待制の音声SNS)で知り合った林業関係の方に話してみたところ「ぜひ山林に別の付加価値をつけて欲しい」と仰っていただくことができました。
そこで、本格的にサービスとして整備していくことにしたのですが、意識したことが1つあります。それは「貸す側」である山主様と「借りる側」であるキャンパー様の双方が安心してご利用していただけるようにすることです。
考えた結果、貸出前の現地見学を必須とし、現地見学の上で双方ともに貸し借りに同意できた場合のみ、契約可能とする仕組みを採用することにしました。これにより、お互いの顔をご覧いただける上に、どのような対応をなさる方なのかを双方が理解にご理解いただけるはずです。
今後はキャンプ以外の切り口でも山林をご活用いただけるよう手段を広げ、より多くの方に山で遊んでいただける仕組み作りをしてまいります。年齢性別に関係なく、山遊びがお好きな方に、広くご利用いただければ嬉しいです!
木村様、ありがとうございました!「うちの田舎の山、どうしよう?」と困っている人も、「キャンプ好きだけど、最近人が多くて」と思っている人も、双方にとって役に立つサービスなので、ぜひ1度チェックしてみてくださいね。
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