日本では、文化や宗教観の問題で、人が亡くなったときのことについて生前から語るのは、タブーとみなす文化が確かにあります。それでも近年は、生前からの相続対策の大切さがクローズアップされるようになりました。
しかし、遺言書の書き方やエンディングノートの存在には気づいても「葬式をどうするか」「そもそも誰が費用を出すのか」まで話をできている人は、あまり多くないはずです。そこで今回は「家族の葬儀代の分担」について解説しましょう。
目次
家族の葬儀代の分担
最初に、家族の葬儀代の分担について、基本的なところに触れておきましょう。
考えられるパターン
一般的に考えられるパターンとしては
- 喪主がすべて出す
- 家族が分担して出す
- 家族の遺産から出す
- 家族が生前契約していた互助会を使う
の4つが考えられます。それぞれの方法のメリット・デメリットについて解説しましょう。
パターン1.喪主がすべて出す
1つ目のパターンは「喪主がすべて出す」です。
メリット
この方法のメリットとして
- 最もメジャーな方法であり、周囲の理解が得やすい
- 収入と支出を一元管理できる
が考えられます。
最もメジャーな方法であり、周囲の理解が得やすい
葬儀を営む場合、喪主になるのは配偶者(妻・夫)や直系卑属(子ども・孫)など、亡くなった人(被相続人)に最も近い関係の人が喪主になることが多いでしょう。そのため、葬儀会社や寺院・神社・教会などの宗教施設とのやり取りも、まずは喪主を通じて行うことになります。
判例はこの立場をとっている
「葬儀代は誰が負担すべきか」に関しては、裁判所は「喪主が出すべき」と判断しています。
過去に、相続人でない人が喪主となって葬儀を行いその費用を支払ったあと,相続人2人に対し,支払った葬儀費用の支払いを請求した裁判がありました。しかし、裁判所は追悼儀式(葬儀)の費用は喪主(主宰者)が負担するべきだと判断し,請求を認めなかったのです。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/234/082234_hanrei.pdf
収入と支出を一元管理できる
近年は家族葬など、簡便な形での葬儀を望む人も増えてきました。しかし、住んでいる地域の風習や家族の価値観、故人の生前の社会的立場や信仰している宗教によっては、それなりの費用をかけて、大々的に葬儀を営むことも一般的に行われています。
それ自体に問題はないのですが、まとまったお金が出ていくことになるからこそ、収入と支出をきっちり管理することが求められるのです。
デメリット
一方、デメリットとしては
- 誰を喪主にするかが問題になる
- 喪主を務めた人とそうでない人の間でもめる可能性が高い
が挙げられます。
誰を喪主にするかが問題になる
通例として、喪主を務めるのは故人の配偶者や子ども(長男・長女)であることがほとんどです。しかし
- 既に配偶者、子どもが亡くなっている
- 子どものいない家庭だった
- 配偶者とは離婚していた
- 配偶者、子どもはいるが関係がよくない
- 病気などの理由で喪主を務めることが難しい
場合は、代わりに誰にやってもらうかが、なかなか決まらないかもしれません。
喪主を務めた人とそうでない人の間でもめる可能性が高い
このパターンの場合、喪主を務める人の金銭的な負担はやはり大きいです。また、葬儀会社や宗教施設とのやり取り、親族や友人・知人への連絡、会葬御礼の発送など、かなりのタスクを抱え込むことになるので、精神的な負担も相当なものです。それでも、家族にとっての大事な行事として、本気で取り組む人がほとんどでしょう。
しかし、問題になるのはその後です。葬儀が終わったころ、遺産分割協議を行うのが通常の流れですが「自分は葬儀の費用も全部出したし、喪主としていろいろとやり取りもしたから、その分は優遇してほしい」と主張するのは、何ら不思議ではありません。
パターン2.家族が分担して出す
2つ目のパターンは「家族が分担して出す」ことです。
メリット
この方法のメリットとして「家族間での不公平感は生じにくい」ことが挙げられます。
家族間での不公平感は生じにくい
例えば、両親と子ども2人(長男・次男)という家族がいたとします。この家の父親が亡くなり、葬儀を営むことになった際「母親には喪主を務めてもらう代わりに、出さなくていいことにする。子ども2人で1/2ずつ出す」となどのように、それぞれが分担する費用を決めてしまうということです。
デメリット
誰がどれくらい出すかでもめる
家族間の関係性に問題がなく、しかも収入や生活レベルに大きな差がなければ、比較的すんなりと分担が決まるので、この方法を使ってもさほど問題はないでしょう。
しかし
- 父親と次男の仲が悪かった
- 家族の誰かが無職、フリーターなど、収入がほとんどない状態である
などの事情があった場合「誰が葬儀代をどれだけ出すか」でもめる可能性は十分にあります。
パターン3.家族の遺産から出す
故人が亡くなってからすぐに銀行預金からお金を引き出し、そのお金で葬儀代を出すなど、家族の遺産から葬儀代を出すこともあります。
メリット
この方法のメリットとしては「家族間での不公平感は生じにくい」ことが挙げられます。
家族間での不公平感は生じにくい
故人が生前貯めていたお金の中から葬儀代を出す分には、遺された家族が経済的な負担を被る必要はありません。誰かが立て替えたり、分担を決めて用立てたりする必要もないので、簡単である上に、家族間での不公平感は生じにくいでしょう。
デメリット
一方、デメリットとしては
- 預貯金から出す場合、凍結されるおそれもある
- 他の家族に断りを入れないともめる
の2つが挙げられます。
預貯金から出す場合、凍結されるおそれもある
銀行は、口座を持っていた人が亡くなった旨の連絡を受けると、その口座の凍結に入ります。これは、人が死亡した瞬間から相続が始まるため、名義こそ亡くなった人のもののままであるにしても、実際の権利はただちに分割されて各相続人(家族)に帰属すると考えられるためです。
他の家族に断りを入れないともめる
他の家族とも話し合い、葬儀代を故人の貯金から出すことに了解が取れているなら、実際は何ら問題ありません。しかし、他の相続人に断りもなく、独断で預金を引き出し、葬儀代にしてしまうと、トラブルのもとになるのでやめましょう。他の相続人が「本当は葬儀代じゃなくて、別のことに使ったのでは?」という疑念を抱く恐れがあります。
なお、葬儀会社や宗教施設に支払う葬儀代は、相続税の計算においては「みなし相続債務」として、遺産の額から差し引くことができます。その際、葬儀会社や宗教施設から受け取った領収書が大事な資料になるため、必ず取っておきましょう。他の家族から聞かれた場合も、すぐに取り出せるようにしておくとなおいいでしょう。
パターン4.家族が生前加入していた互助会を使う
人によっては、生前に互助会に加入し、自身の葬儀費用をまかなう計画を立てていることおもあります。この方法のメリットとデメリットについて、解説しましょう。
メリット
まず、この方法のメリットとしては「家族の経済的・精神的負担が軽い」ことが挙げられます。
家族の経済的・精神的負担が軽い
互助会とは、加入者が毎月一定額の掛金を前払金として払い込むことにより、結婚式や葬儀など冠婚葬祭の儀式に対するサービスが受けられる会のことです。つまり、生前から葬儀代を積み立てているようなものなので、葬儀代としてまとまった金額を確保できていることになります。
デメリット
いいことづくしに思える互助会ですが、致命的なデメリットがあります。
他の家族が互助会に入っていることを知らないと使えない
互助会に入っていた人が亡くなった場合、家族や親族など、近くにいる人が電話で互助会の事務局に連絡し、そこから葬儀の手はずを整えることになります。つまり、電話連絡をしなければ、互助会で積み立てているお金は葬儀代として使えないのです。
葬儀代のことでもめないようにするには?
結局のところ、どの方法を使ったとしても、それぞれにメリット・デメリットがあります。葬儀代の分担で遺された家族がもめないようにするためには、生前から対策を練るしかありません。
生前に遺言書を残しておくこと
最も効果的なのは、生前に遺言書を残しておくことでしょう。誰を喪主にするのかは「祭祀の継承者の指定」として、遺言書に残すことで法的な効力が発生します。
一方、葬儀自体を行うか、葬儀の費用の分担はどうするのかについては「付記時効」として盛り込むことができます。しかし、付記時効である以上、法的な効力はありません。それでも、文書に残っている以上「こうしてほしい」という希望を伝えることができるので、遺された家族にとってもやりやすくなるでしょう。
互助会に入った場合は、その事実と連絡先を知らせておくこと
家族に迷惑をかけたくないから、と互助会に入る人もいるかもしれません。しかし、入った場合は家族にその事実と連絡先を知らせておきましょう。
すでに触れましたが、互助会側は、家族から連絡が入った時点で、加入者が亡くなった事実を把握し、葬儀の手配を進めていきます。そのため、連絡が入らなければ、互助会に積み立てているお金が役にたつことはないのです。
「万が一のときは、ここに連絡すれば、必要なことを全部やってくれるからよろしくね」とでも伝えておけば十分でしょう。
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