日本では高齢化が進んでいるため、これまでには顕在化していなかった問題が表に出てきています。そのうちの1つが、介護離職です。なぜ、介護離職が問題なのか、介護離職をしないために利用できる制度や機関はないのか、調べてみました。
目次
介護離職とは
家族などの介護のために仕事を辞めること
介護離職とは、家族などの介護のために、仕事を辞めることです。介護離職にいたる背景は人それぞれですが
- 一人っ子や夫婦2人きりであるなど、介護ができる人が他にいない
- 職場にも理解を求めたが、介護と仕事を両立できる状況ではなかった
- 施設への入所を考えていたが、空きがない、もしくは介護を受ける本人が拒否した
- 「家族の介護は長男の嫁が行うもの」という考えを持つ家族に押し切られた
などの事情が考えられます。
介護離職で起きる問題点
収入が絶たれてしまう
介護離職には様々な問題点がありますが、最もわかりやすいのは「収入が絶たれてしまう」ことでしょう。もちろん、他に働いている家族がいて、収入が得られるなら経済的には問題はありません。しかし、他に働いている家族がいない場合は、介護離職をすることにより、一気に経済的に苦しくなることが考えられます。
介護にかかる費用は、在宅・施設のいずれで介護をするのか、介護期間がどのくらいになるのかによって千差万別です。
公益財団法人生命保険文化センターが行った調査によれば、介護費用の平均は、初期費用など一時的な費用が69万円、月額費用が7.8万円でした。
出典:介護にはどれくらいの年数・費用がかかる?|公益財団法人 生命保険文化センター
当然、これはあくまで1つの数字例であるため、実際ははるかに多くなるのも十分に考えられます。介護離職に踏み切る前に
- 介護を受ける家族の財産を確認する
- 足りそうにない場合は、資金援助を親族に頼めないか検討する
など、まとまったお金を確保できるかどうかを確認しましょう。難しい場合は、介護離職をするのではなく、仕事と両立できないかを探りましょう。
肉体的、精神的に負担がかかる
介護福祉士や看護師などの資格を持っていたり、実際に老人福祉施設などで働いたことがあったりするなら事情は別ですが、介護は知識と技術がないとなかなかうまくいきません。また、認知症など一部の病気では、脳の働きの低下により精神・行動の変容も起こります。
つまり、介護している人に暴言を吐いたり、暴力をふるったりということも日常茶飯事です。自宅で家族が介護する場合、最初は慣れないことの連続であるため、肉体的・精神的な負担は相当なものになるでしょう。「介護殺人」といって、介護している側がされている側を殺めてしまう事件もありますが、裏を返せば、それだけ介護は大変だという意味です。
もちろん、仕事と介護を両立させたとしても、肉体的・精神的な負担をゼロにすることはできないでしょう。しかし、「外に働きに出る」「家の中であっても介護とはまったく違うことをやる」ことで、いい気分転換にはなります。
介護が終わっても再就職できない
介護を受ける人が亡くなってしまったら、そこで介護は終わります。しかし、介護をしてきた人の人生は続いていきます。
そこで、再就職を目指して動き始めたとしても、年齢や死亡する業種によっては、まったく仕事が決まらないことが考えられるのです。介護離職をしたことが原因で、再就職もままならず、生活保護を受ける必要がでてくるほど、生活に困窮する人も少なくありません。
社会とのつながりが絶たれてしまう
ある意味、介護離職により起こるトラブルで、最も深刻なのが「社会とのつながりが経たれてしまう」ことでしょう。介護離職をする前から、積極的に親族・友人・知人や近所の人とコミュニケーションをとり、相談できる関係性を築いていたなら、あまりこの点は問題になりません。
しかし、もともと人づきあいが苦手という人は、介護離職をしたことにより、一気に社会とのつながりが絶たれてしまうリスクを抱えています。ひどいケースになると「家族以外では、ヘルパーさんとしか話していない」という状況も考えられるのです。
過去には、有名な女性タレントが家族の介護疲れからくるうつ状態が引き金となり、自ら命を絶ってしまうという痛ましい事件もありました。事件に至るまでの経緯は明らかではありませんが、無理のない程度にタレントとしての仕事を続け、周囲の人と相談できる関係性を築いていたのならば、彼女が命を絶つことはもしかしたら避けられたのかもしれません。
家族を介護するために利用できる制度・機関
育児・介護休業法に基づく制度
ここまでの内容からもわかる通り、できることなら介護離職は避けた方がいいのは言うまでもありません。利用できる制度はとことん利用しましょう。
代表的なものとして、育児・介護休業法に基づく制度が挙げられます。簡単に、一覧にしてみました。
参照:仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~ |厚生労働省
制度の名前 | 概要 |
---|---|
介護休業 | 要介護状態の対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割して休業を取得できる。有期契約労働者であっても、条件を満たせば利用可能。 |
介護休暇 | 通院の付き添い、介護サービスに必要な手続きなどを行うために、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで、1日または半日単位で介護休暇を取得できる。 |
所定外労働の制限(残業免除) | 介護が終了するまで、残業を免除してもらうことができる。 |
時間外労働の制限 | 介護が終了するまで、1カ月24時間、1年150時間を超える時間外労働をしないようにしてもらうことができる。 |
深夜業の制限 | 介護が終了するまで、午後10時から午前5時までの労働をしないようにしてもらうことができる。 |
同時に、事業主=会社側に対しても、次の義務が課せられています。
所定労働時間短縮等の措置 | 利用開始の日から3年以上の期間で、2回以上利用可能な次のいずれかの措置を講じなくてはいけない。 ・短時間勤務制度 ・フレックスタイム制度 ・時差出勤の制度 ・介護費用の助成措置 |
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不利益取扱いの禁止 | 介護休業などの制度の申し出や取得を理由にした解雇など、不利益な取扱いを禁止している。 |
ハラスメント防止措置 | 上司・同僚からの介護休業等を理由とする嫌がらせを防止する措置を講じることを事業主に義務付ける。 |
介護休業給付金
また、以下の条件を満たした場合、介護休業期間中であっても、給料の約3分の2(厳密には休業開始時賃金月額の67%)に当たる介護休業給付金が受け取れます。
- 介護保険制度の要介護状態区分が要介護2以上である、もしくは2週間以上の期間にわたり介護が必要な状態にある
- 配偶者(事実婚のパートナーも含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹及び孫を介護する
地域包括支援センター
日本全国の市区町村には、地域包括支援センターが設置されています。
各センターには、保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門資格を持った職員が在籍していて、介護を中心とした高齢者の生活に関する相談を受け付けています。介護離職についての相談にも乗ってくれるので、一度意見を聞いてみるといいでしょう。
病院、介護施設のソーシャルワーカー
病院や介護施設には、社会福祉士や精神保健福祉士の資格を持ったソーシャルワーカーが在籍しています。
- 本当に離職しなくては介護できないのか
- 仕事と介護を両立する方法はないか
などの相談にも乗ってくれます。
NPO法人
介護離職を深刻な社会問題ととらえて、無料相談や支援セミナー、当事者同士の交流会を開いているNPO法人もあります。
専門的な知識を持っていたり、自分と似たような立場で介護にあたっていたりする人から助言を得られるので、情報収集ができるとともに、ストレス発散の方法としても役立つはずです。
https://www.tonarino-kaigo.org/
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