定年後の再雇用制度。向いている人と向いていない人の違いは?

多くの企業では、60歳が定年と定められていますが、実際は60歳を過ぎても働き続けている人はたくさんいます。そのような人がよく使う制度の1つが再雇用制度です。

厳密には「定年後再雇用制度」と言いますが、幅広く利用されている割には、正確に理解できている人はそう多くないでしょう。この制度のメリットとデメリットから、向いている人と向いていない人の違いをひも解いてみましょう。

再雇用制度とは

高齢者雇用安定法によって定められた継続雇用制度の1つ

再雇用制度とは、高齢者雇用安定法によって定められた継続雇用制度の1つです。

従来、老齢厚生年金(報酬比例部分)は60歳から支給される決まりになっていました。しかし、2002(平成14)年4月に厚生年金保険法が改正され、支給年齢が60歳から65歳に段階的に引き上げられているのです。

そのため「60歳で定年を迎えたものの、年金がもらえるようになるまでは無収入になる」人が出てくる可能性が生じました。

そこで、このように無収入になる人を生まないための制度として、高齢者雇用安定法に基づき

  • 定年を定める場合は60歳を下回らないようにすること
  • 高齢者雇用確保措置(定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年の廃止など)を講じること

が会社に対して求められています。

再雇用制度とは、高齢者雇用確保措置の一つで、従業員の希望に基づき、定年退職後に新たに雇用契約を結ぶ制度のことです。

勤務延長、再就職との違い

混同されがちな言葉として、勤務延長と再就職があります。実際は全く異なる意味なので、違いを押さえましょう。

  • 再雇用制度:一度退職し、再度同じ会社と労働契約を結ぶ制度
  • 勤務延長制度:定年の年齢を超えてもそれまでの雇用契約をさらに延長する制度
  • 再就職:会社を定年退職したあと、別の会社と雇用契約を結ぶこと

特に、再雇用制度と勤務延長制度は混同されがちです。再雇用制度は、以下の図のように「一度雇用契約が終了する」という違いがあるので注意しましょう。

再雇用制度のメリット

今までと大幅に環境が変わらず働ける

再雇用制度を会社が採用する理由の1つに「社員の採用コストおよび教育コストを削減できる」ことが挙げられます。つまり、これまで活躍してきてくれた人に働き続けてもらえれば、新しい人を探してきて1から教育する必要もないので、時間も費用も省けるという意味です。

社員の側からしても、このことはプラス要素です。

再就職先を探し、1から新しいことを覚える必要もないので、これまでと大幅に環境が変わらず働けます。

将来的に受け取る老齢厚生年金を増やせる

再雇用制度を利用して働き続ける場合、法的には一度これまでの雇用契約を終了させた上で、新しい雇用契約を結ぶ形になります。

新しい雇用契約における「1週間の所定労働時間」または「1カ月の所定労働日数」が通常の労働者の4分の3以上であれば、健康保険と厚生年金保険の被保険者資格を保持することが可能です。

つまり、会社の健康保険や厚生年金に入れます。再雇用制度で働いている間も厚生年金保険料を払い続ければ、将来的に受け取れる厚生年金は増えるはずです。

繰下げ受給も検討しよう

「蓄えがあるから、働けるうちは年金を受け取らないでいいかな」と思うなら、厚生年金の繰下げ受給を検討しましょう。

簡単に言うと、年金を受け取り始めるのを遅くすることで、将来受け取れる年金が増える制度です。

仮に、本来は65歳から受け取れる年金を70歳から受け取ることにした場合、生涯で受け取れる年金額は42%アップします。

参照:老齢厚生年金の繰下げ受給|日本年金機構

再雇用制度のデメリット

雇用形態が変わる

一方、再雇用制度にはデメリットもあります。最もわかりやすいのは雇用形態が変わることです。多くの企業では、再雇用制度を「正社員としての定年は従来通り60歳とし、その後は65歳まで1年更新の有期雇用契約(契約社員・嘱託社員)を結ぶ」という形で運用しています。

つまり、再雇用制度を使った時点で正社員ではなくなるため、この点がデメリットになる人もいるでしょう。

給料はほぼ下がる

また、正社員から契約社員・嘱託社員に立場が変わるため、勤務時間や勤務日数などの変更も、会社側にとっては自由に行えます。このため、定年前の正社員だったときと比べると、給料が下がってしまう場合がほとんどです。

実際には、働いている企業の規模や業種によっても差はありますが、平均的には、定年前の収入に比べ、定年後の収入は4分の3ほどに減少してしまうと考えましょう。

出典:調査シリーズNo.198『高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)』|労働政策研究・研修機構(JILPT)

働き続けられる期間に限度がある

再雇用制度を利用して働く場合「65歳までの1年更新」など、働き続けられる期間に限度が設けられていることがほとんどです。

「65歳以降は自分の好きなことをしたい」など、仕事をしない前提でいるなら特に問題はありませんが、仕事を続けるつもりでいるなら「再雇用制度が終わった後はどうするのか」をどこかのタイミングで真剣に考える必要があるでしょう。

在職中は年金が減らされることもある

60歳以上で再雇用制度などを用いて会社で働き続けている場合、在職老齢年金といって、老齢厚生年金を受け取ることができます。

しかし、毎月働き続けることでもらう賃金と1カ月に受け取る老齢厚生年金の額が28万円を超える場合は、その金額に応じて老齢厚生年金の一部または全部が支給されなくなるので注意が必要です。

再雇用制度が向いている人、向いていない人は?

向いている人

ここまでの内容を踏まえ、再雇用制度が向いている人の条件を考えてみました。

大幅な環境の変化を好まない人

新しいことを始めるのは、自分にとっては刺激になる反面、ストレスの種になるのも事実です。働けるほどの体力があるといっても、60代にもなれば、20代のときのように体力と気力だけで新しい環境に自分を慣らしていくのはなかなか難しいかもしれません。

再雇用制度であれば、雇用形態こそ変わるものの、それまで慣れ親しんできた環境で働き続けることができます。

環境が大幅に変わるわけではないので、肉体的にも精神的にも無理をせず働き続けられるはずです。

老齢厚生年金の受給額を増やしたい人

1週間または1カ月当たりの勤務日数、時間数の条件をクリアする必要がありますが、再雇用制度を利用すれば、60歳を過ぎても厚生年金に加入し、保険料を支払うことができます。結果として、生涯で受け取れる年金の総額は増えるはずです。

さらに年金額を増やしたいなら、繰下げ受給を選択し、なるべく年金を受け取り始める年齢を後にしておくとなおよしでしょう。

向いていない人

一方、働きたくても再雇用は向いていない人についても考えてみました。

65歳を超えても働きたい人

再雇用契約には、ほとんどの場合制度を利用できる年齢の上限が設けられています。一般的には65歳に設定されている場合が多いですが、これは「65歳以降は再雇用制度で会社に残ることはできない」という意味にもなるのです。

65歳を超えても働きたいなら

  • 自分で起業する、フリーランスになる
  • 勤務延長の扱いにしてもらえないかを申し出る
  • 再就職活動をし、定年がない会社に転職する

など、再雇用制度を前提としない方法を考えた方がいいでしょう。

定年後も現役時と同じくらいの収入が欲しい人

再雇用制度を利用すると、定年前と定年後とでは、雇用形態が変わってしまいます。当然、会社内での役職や任される業務の範囲も変わってしまうため、給料も下がる場合がほとんどです。

定年後も現役時と同じくらいの収入が欲しいと思う場合も、再雇用制度ではない方法を利用し、働き続けることを考えた方がいいでしょう。

FP 荒井 美亜

FP 荒井 美亜あらい みあ

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大学院まで行って公認会計士を目指していたものの、紆余曲折を経て今は「日本一、お金のことを楽しくわかりやすく説明できるライター兼ファイナンシャルプランナー」目指して活動中です。日本FP協会のイベントのお手伝いもしています。保有資格)日本FP協会認定AFP、FP技能検定2級、税理士会計科目合格、日商簿記検定1級、全経簿記能力検定上級、貸金業務取扱主任者試験合格

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