正社員、派遣社員、契約社員、アルバイト・パートなど、どんな立場であっても、会社が人を雇い、仕事をしてもらう以上は、労働の対価として給料(賃金)を支払わなくてはいけません。
しかし、退職金については労働の対価ではないという考え方があるため、払わない決まりにしている(退職金規程が存在しない)会社があるのも実情です。また、退職金を払う会社であっても、金額の決め方は会社に一任されているため、実際は相場よりかなり低いケースも考えられます。
そこで今回は「退職金が相場より低い、もらえない人」が、どのように老後の資金を準備すべきかについて考えてみましょう。
目次
退職金の相場はどのくらい?
大企業の場合
本題に入る前に、退職金の相場がどのくらいなのか、大まかなデータを把握しておきましょう。まず、いわゆる大企業の場合についてです。
厚生労働省がまとめた「令和元年賃金事情等総合調査(確報)」によれば、調査対象となった94社の平均退職金額は8,511,000円でした。約850万円といったところです。
なお、退職金の場合「どういう経緯で退職したのか」によっても金額にばらつきがあります。わかりやすくするために、同調査の結果に基づき、退職理由ごとの平均退職金額をまとめてみました。
退職理由 | 回答社数(社) | 平均退職金額(円) |
---|---|---|
定年 | 92 | 12,138,000 |
会社都合 | 51 | 13,002,000 |
自己都合 | 92 | 4,144,000 |
その他 | 63 | 6,624,000 |
中小企業の場合
一方、中小企業の場合は
- 会社の規模(従業員数)
- 自己都合退職か会社都合退職か
によってかなりばらつきがあるのが実情です。
ここでは、東京都産業労働局が発表しているモデル退職金表を紹介しましょう。大卒の人が卒業後すぐに就職し、一定年数勤めてから退職した場合、どのくらい退職金が受け取れるのかまとめた表です。便宜上、定年退職は「会社都合退職」として扱います。
自己都合退職の場合
自己都合退職の場合は以下の通りです。なお、表内の「100人から299人」「50人から99人」「10人から49人」は従業員数を表しています。
勤続年数 | 年齢 | 100人から299人 | 50人から99人 | 10人から49人 |
---|---|---|---|---|
年 | 歳 | 支給額(円) | 支給額(円) | 支給額(円) |
5 | 27 | 489,000 | 482,000 | 371,000 |
10 | 32 | 1,242,000 | 1,284,000 | 1,028,000 |
15 | 37 | 2,409,000 | 2,441,000 | 1,921,000 |
20 | 42 | 4,087,000 | 4,032,000 | 3,110,000 |
25 | 47 | 6,212,000 | 5,940,000 | 4,557,000 |
30 | 52 | 8,745,000 | 7,938,000 | 6,057,000 |
33 | 55 | 10,436,000 | 9,280,000 | 7,177,000 |
出典:中退共 Q& A 8-3-3.退職金の世間相場はどれくらいですか?
会社都合退職の場合
会社都合退職の場合は以下の通りです。なお、自己都合退職の場合の表と同じく、表内の「100人から299人」「50人から99人」「10人から49人」は従業員数を表しています。
勤続年数 | 年齢 | 100人から299人 | 50人から99人 | 10人から49人 |
---|---|---|---|---|
年 | 歳 | 支給額(円) | 支給額(円) | 支給額(円) |
5 | 27 | 737,000 | 678,000 | 516,000 |
10 | 32 | 1,698,000 | 1,659,000 | 1,327,000 |
15 | 37 | 3,104,000 | 2,922,000 | 2,378,000 |
20 | 42 | 5,012,000 | 4,623,000 | 3,816,000 |
25 | 47 | 7,200,000 | 6,650,000 | 5,217,000 |
30 | 52 | 9,844,000 | 8,611,000 | 6,807,000 |
33 | 55 | 11,574,000 | 9,911,000 | 7,917,000 |
定年 | 13,428,000 | 12,309,000 | 9,792,000 |
出典:中退共 Q& A 8-3-3.退職金の世間相場はどれくらいですか?
退職金が相場より低い、もらえない人がやるべき老後の資金対策5選
そもそも本当にもらえないのか確認する
退職金の相場について、様々なデータを用いて紹介してきましたが、世の中には
- もらえる退職金が相場より低い
- 会社から「退職金は支給しない」と言われた
という人もたくさんいます。もちろん、退職金規程が盛り込まれていなかった場合は諦めるしかありません。
しかし「入社するときに、退職金も支給します、といわれて入ったんだけど?」と不思議に思う場合は、就業規則や労働契約書を確認しましょう。退職金規程が盛り込まれていたにも関わらず
- 理由をつけて支給しない
- 退職金規程に照らし合わせても不当に低い金額しか支給されない
というのは、就業規則の不利益変更に当たるため、従業員の承諾なしに進めてはいけないことです。
iDeCoを始める
退職金制度が存在しない、もしくは相場より低い場合は、iDeCoを老後資金形成のために始めると良いでしょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金の1つです。
「毎月一定額(5,000円から)を拠出して、投資信託などの金融商品で運用し、その結果に基づく老齢給付金を60歳以降に一時金または年金として受け取る」というのが基本的な仕組みになっています。
なお、会社員の場合、勤務先で企業型確定拠出年金(企業型DC)・確定給付企業年金(DB)に加入しているかによって、毎月の拠出金の上限が決まってきます。表にまとめました。
会社に企業年金がない | 月額23,000円まで |
---|---|
企業型DCに加入している | 月額20,000円まで |
企業型DC・DBに加入している | 月額12,000円まで |
DBのみに加入している | 月額12,000円まで |
一度必要な設定を済ませれば、毎月一定額を積み立てられるという点では、老後の資産形成において非常に役に立つ制度です。
しかし
- 掛金は年に1度しか変更はできない
- 特別な理由がない限り、それまでに積み立てた掛金を引き出すことはできない
など、制度としての自由度は決して高くないことに注意しましょう。
つみたてNISAを始める
長い期間をかけてコツコツと老後の資金形成をしたいのなら、つみたてNISAも選択肢に入れるべきでしょう。つみたてNISAとは少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度のことです。概要をまとめました。
使える人 | 日本に住んでいる20歳以上(口座開設年の1月1日現在)の人。ただし、一般NISAを使っている人が利用したい場合は、証券会社を通じて変更手続きが必要。 |
---|---|
非課税対象 | 一定の投資信託への投資から得られる分配金や譲渡益 |
口座開設可能数 | 1人1口座 |
非課税投資枠 | 新規投資額で毎年40万円が上限 |
非課税期間 | 最長20年間 |
投資可能期間 | 2018年~2037年 |
投資対象商品 | 長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託 |
なお、実際にどんな投資信託がつみたてNISAにおける投資対象商品となっているかについては、金融庁のホームページからも確認できます。
個人年金保険に加入する
長期間かけて着実に、ということを重視するなら、民間の保険会社が販売する個人年金保険も候補に挙げましょう。個人年金保険は「年金が受け取れる期間」「自分に万が一のことがあった場合の年金の扱い」を基準にした場合、以下のように分類できます。
項目 | 確定年金 | 有期年金 | 終身年金 |
---|---|---|---|
年金受取期間 | 10年・15年など固定 | 10年・15年など固定 | 生きている間はずっと |
自分に万が一のことがあった場合の年金の扱い | 遺族が受け取れる | 遺族は受け取れない(商品によっては一定期間受け取れるものもある) | 遺族は受け取れない |
生命保険、医療保険など他の保険と同じように、毎月一定額の保険料を払えば良いだけなので、保険料の引落に使う口座を用意し、契約さえしてしまえばあとはあまり手を動かす必要はありません。
きわめて仕組みはシンプルですが
- 昨今は金利が低下しているため、解約返戻率が100%を割る商品も出ている(つまり、支払った保険料の合計より受け取れる年金の合計額のほうが少ない)
- 新規募集を取りやめる保険会社も出てきている
など、問題点もあります。
定年後も働き続ける
老後の資金の準備、というよりは過ごし方の話に近いですが、定年を迎えた後でも働き続けるのは、ある意味「老後の資金が足りなくて困る」という問題の解決策の1つです。
勤務先の会社が定年延長制度や再雇用制度を採用しているなら、それらを利用してもかまいません。また、一念発起して資格を取り、独立して働くというのも選択肢の1つでしょう。
「定年後も働く」ことに関しては、以下の記事でも詳しく解説しているので、参考にしてください。
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